悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
69 / 112

第一王子の帰国

しおりを挟む
 隣国のアーキュ王国に留学していた、第一王子・アッシュが留学を終えて、帰国することになった。

 問題を起こして連絡が来ることもなかったが、お金も勿体ないということで、一度も帰って来ることはなかった。

 オリビアのことは手紙で伝えており、会いたければズニーライ侯爵家に会いに行くことは出来る。

「ただいま、戻りました」

 少し成長したような顔をしており、バトワスも王女たちのようにならなかったことに、ホッとした。

「よく無事に戻った。問題はなかったか?」
「はい、有意義な時間でした」
「オリビアのことは、手紙になって申し訳ない。嫌な思いはしなかったか?」
「ああ…まあ、影では言われていたのでしょうね」

 王家が発表をしたことで、アッシュには何か言われるかもしれないが、詮索されるよりも発表して、オリビアに非があると示す方がいいと判断したと伝えていた。

 予算内で男娼を呼ぶ許可を得ていたことも驚いたが、性欲が強過ぎる母親であったことも初めて知った。そんなことは知らなかったが、知りたくもなかった。

「すまなかったな」
「いえ、失望はしましたが、考えないようにしていました。手紙に書かれていたことは、事実なんですよね?」
「ああ、疑うなら調査の記録もある」
「そうですか」
「話がしたければ、ズニーライ侯爵家に行くといい」
「いずれは話さなくてはと思いますが、今はまだいいです」
「そうか」

 アッシュが戻ったということは、第二王子・オークリーが、ヒューズリン王国へ留学が控えている。

 アッシュが部屋で荷物の整理をしていると、オークリーが訪ねて来た。

「兄上、無事に戻られて良かったです」
「ああ、オークリーも行けば分かると思うが、戻ってくるのが嫌になると思うぞ」
「そんなに良かったのですか?」
「最初は居心地のいいものではなかったが…」
「どういうことですか?」

 アッシュは言葉を濁したが、これから留学するオークリーには伝えて置くべきだろうと思った。

「学園では恋愛結婚の、子沢山のアジェル王国と思われてしまっている。アマリリスのことを知っている者もいたのかもしれない」
「でも、それは私たちには関係ないではありませんか」
「それでも、そういう印象を持たれているんだ。特に私たちは王族だから、同じ考えを持っていると思われるんだ」

 アッシュも最初は、異性には特に警戒された。

 だが少しずつ同性の同級生に、恋愛を持ち込んだら国に帰されてしまうのに、そんなことは考えていないということを浸透させた。

 勉強も真面目に取り組み、無暗に異性には近づかずに、とても気を使った。

 そうすると、徐々に話してくれるようにもなった。両親の離縁は信じられない気持ちだったが、親しくなった者には苦労するなと励まして貰ったくらいである。

 だが、何も知らない者たちには嘲笑われていたのかもしれない。

 恋愛結婚の国なのに、不貞だなんてと聞こえて来たこともある。不貞にも、男娼ということにも、情けない気持ちで一杯であった。

 発表しなければ誰だと詮索されたことになったことも、追々で理解は出来た。

 アーキュ王国でも、実は相手は男娼だと言われているが、違うのではないかと書かれたゴシップ誌を読んだこともある。だから、父に事実なのかと確認をした。

 世間的には貴族の方がまだ良かったのかもしれないが、そんな者はいないということなのだろう。

「でも両親も、象徴とされていたマクローズ伯爵夫妻も離縁しましたよ?」
「ああ、そうらしいな。それでどう変わるか、変わっても当分先だろう。くすくす笑われることになるかもしれない」
「そんな!」
「でもな、直接言って来ることはないだろうから、気にしないことだよ」

 オークリーは留学を楽しみにしていたが、急に不安になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方の願いが叶うよう、私は祈っただけ

ひづき
恋愛
舞踏会に行ったら、私の婚約者を取り合って3人の令嬢が言い争いをしていた。 よし、逃げよう。 婚約者様、貴方の願い、叶って良かったですね?

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】高嶺の花がいなくなった日。

恋愛
侯爵令嬢ルノア=ダリッジは誰もが認める高嶺の花。 清く、正しく、美しくーーそんな彼女がある日忽然と姿を消した。 婚約者である王太子、友人の子爵令嬢、教師や使用人たちは彼女の失踪を機に大きく人生が変わることとなった。 ※ざまぁ展開多め、後半に恋愛要素あり。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

ついで姫の本気

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
国の間で二組の婚約が結ばれた。 一方は王太子と王女の婚約。 もう一方は王太子の親友の高位貴族と王女と仲の良い下位貴族の娘のもので……。 綺麗な話を書いていた反動でできたお話なので救いなし。 ハッピーな終わり方ではありません(多分)。 ※4/7 完結しました。 ざまぁのみの暗い話の予定でしたが、読者様に励まされ闇精神が復活。 救いのあるラストになっております。 短いです。全三話くらいの予定です。 ↑3/31 見通しが甘くてすみません。ちょっとだけのびます。 4/6 9話目 わかりにくいと思われる部分に少し文を加えました。

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

処理中です...