悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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象徴だった二人の離縁4

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「そうか…お前もか…」

 恋愛結婚の象徴ともされていた二人が別れれば、風向きが変わるなどと思ったこともあったが、実際に離縁することになると、何だか全てを否定され、間違っていたような気持ちにもなっていた。

「不貞行為を行っていた妻と、何も知らずに過ごしていたとは思いませんでした」
「そうだな、最低でも12年か…」
「はい…まさかシャーリンがそのようなことをするとは、考えたこともありませんでした…愚かだったと思います」
「似ていない子どももいるからな」
「はい…疑いもしませんでした」

 アンドリューと同じで、アイリとマイリは確かにジェフには似ていなかったが、異性ということもあり、色味が同じだったことから、疑ったこともなかった。

「妻の方は、周りに同じような夫人がいることで、罪悪感が薄いのかもしれないな。今日、一日、遊んだだけ、いや性欲を解消しただけくらいにしか思っていないのではないか?」
「まるで娼館に行く男性のようですね」
「ああ、その通りだよ」

 今も娼館に通う者はいるにはいるのだが、バトワスの世代には極めて珍しい存在になっていた。

「托卵したという感覚も薄いようです」
「ああ、アンドリュー殿もそう言っていた。どうしてこんなにも性欲が強い夫人が多いのだろうか、何かあるのかとすら思ったよ」
「私はシャーリンだけなのかと思っていました」
「私もだよ、だが集まる夫人がいるくらいだ。相当数いるということだろう」
「そうですね…あと、こちらもお持ちしました」

 ジェフは天候が変わった年の前後の事柄を記した、書類を差し出した。

「ああ、ありがとう」
「特に前年は変わりはありませんでしたが、私的なことは多くありました」
「ああ、そうか。婚約を解消した年だったか」

 忘れるはずのない自殺未遂をした年である。そして、正確には解消ではなく、破棄となっているのだが、バトワスは解消と言った。

「はい…シャーリンにも聞き取りをしたことも書いてあります」

 まだ何も知らなかった頃に、何があったかを箇条書きにして貰っていた。バトワスはジェフの書類を見ながら、話を続けた。

「ジェフには記憶からなくならない年であるな」
「はい、フォンターナ家が出て行って、色々変わったこともありますから」
「そうだな、他の者もアニバーサリーが閉店したことは必ず書いていたな」
「はい…」
「そういえば、フォンターナ伯爵令嬢が親しくしていた者はいないのか?」

 いつも一人だったことから、気にもしていなかったが、友人の一人、二人はいたのではないかと、今更ながら思った。

「どうでしょうか、いなかったとは思いませんが、私は分かりません」
「そうか」

 上手くいっていなかったのだから、仕方ないのかもしれないと思った。

「ジェフ、具合が悪かったのか?」
「日報を見たら、学園を休んでおり、熱をよく出していたようです。あまり気にしていませんでしたが、思い出してみると、休んだ記憶があります」

 学園に行かないとシャーリンに会えないと、当時は思っていた。

「熱を?特に何か流行っていたわけではないよな?」
「はい…頭痛がして、熱が出るということが、何度かありました」

 現在ということならば、何の病気だとなるところだが、随分前の話である。流行り病のようなことも起きておらず、ジェフだけが悪い病気だったのならば、元気でいるはずもないだろう。

「そうか、雨が多かったからか?」
「はい、雨に濡れたりしたので、そのせいだと思っていました」
「ん?シャーリン夫人もか?」
「はい、私ほどではないようですが、発熱があったと…妊娠したのかと思ったと言っておりました。当時は一緒にいたので、シャーリンも雨に濡れただけだと思います」
「なるほどな」

 バトワスも流行り病であれば別だが、二人だけのことならばと、特に気にするような点はないと判断した。
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