悪意か、善意か、破滅か

次期侯爵の離縁２

「ですが、男娼を呼んでいるのですよ？行うことは一つではありませんか？」
「それでも、ミカエラーはしていない、そうだよな？」
「あっ、あの」
「ミカエラー！」

　ジェアスは状況だけで、邸の中の様子までは書かれていないことで、押し切るしかないと思った。

「はい…」
「ほら、たまたまそのような場に居合わせただけでしょう！なあ？」

　十分な不貞行為と考えられるが、ジェアスは引くわけにはいかなかった。

「月に何度も、夫人の邸に行っていたのにですか？知らないはずがないでしょう？そもそも、そのような場にいることだけでも、疑われて当然です」
「っな…」
「デンバー伯爵だったら、どうですか？夫人がそのような場に出入りしていることで、夫人だけは違うと思えますか？」
「勿論だ、私は妻を信じている」
「そうですか、私は信じられません。ミカエラーも認めないということなのだな？」
「はい…そうです」

　ジェアスに睨まれていたミカエラーは、下を向きながら答えた。

「誤解です、それでいいではありませんか？事を荒立てても仕方ないでしょう」
「これからはそんなところには行かないわよね？ミカエラーも誤解を招く行動だったと、反省しているのでしょう？」
「はい…」
「ミカエラー、自分の言葉で話さなくていいのか？」

　ミカエラーは結局、自分の言葉で何も話していない。これが最後になるのだから、話を聞いて置きたいと思っていたが、父親のせいで何も話せていない。

「何を言い出すのです」
「全て、伯爵が言わせているではありませんか」
「っな！この子は上手く話せないと思って、誤解を招いてはいけないですから」
「それでいいんだな？」
「何です！誤解だと言っているでしょう！他に証拠があるとでも言うのですか！」

　アンドリューはジェアスが、出張って来るのは分かっていた。

　先にミカエラーに話をして、認めさせておくべきだったかとも思ったが、こちらには不貞行為だけではない証拠がある。

「ディビット、ディアーナ、ブリジットは私の子ではありませんでした」

　３人の前にディビット、ディアーナ、ブリジット親子鑑定の結果を出した。子どもたちはマルエリーの実家に頼んで、出掛けて貰っている。

「っな」
「は？」
「不貞行為の紛れもない証拠です」

　ディビットが１０歳であることから、最低でも十、十一年前から不貞行為が行われていた証拠である。

　その後もディアーナは８歳、ブリジットは７歳である。五年くらい前からアンドリューとは関係がないために、もしもその後に生まれていたら、明らかにアンドリューの子どもではないはずだった。

「これは…」
「調べていただいても構いませんが、研究所で調べて貰った物です」

　子どもたちには侍医から健康診断だと伝えて、採取した血液を研究所で調べたものであり、証明印も押されている。

　もう一度、調べるとしても同じことを繰り返すだけになる。

「な…」
「一体、誰の子なの？」

　さすがに動かない証拠を突きつけられたジェアスとリスターは、動揺し始めた。

　不貞行為だけでも離縁は可能だったが、下の３人の子どもたちはデンバー伯爵家に引き取って貰わなくてはならない。

「ミカエラー、残念だよ」
「そんな、私はアンドリュー様の子どもだと思って」

　ようやく、ミカエラーが自分の言葉を話した。

「一体、誰の子なの？まさか、あなた…男娼だとでも言うの？」
「男娼だと！」

　先程までミカエラーは関係を持つなどあり得ないと言っていた口で、ジェアスとリスターはミカエラーを問い詰め始めることになった。

「答えろ！ミカエラー！」
「分からないわ…」
「分からない？」

　サロンがどのような風になっているのかは、分からなかったが、同じ人が毎回来るのではないのなら、誰か分からない可能性もあると思っていた。