悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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誤認識

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「調べなかったら、分からないということよね?」

 男娼を立て続けに呼んだことを、両陛下に知られたくない。どんな目で見られるか分からない。

「そこまでは分かり兼ねます」
「バトワスと私だけの話だと思っていたのよ」
「予算は王家の物ですよ?勝手に出来るわけないではありませんか」

 オリビアにはキッパリ言える人物でないと侍女は務まらないので、オリビアに着く侍女は全員が似たような性格をしている。

「じゃあ、予算ではなくと言う形にすれば」
「そうなったら、王太子妃殿下が勝手に男娼を呼んだと言うことになります。私は許可が出ているから、申請を出したのですから」
「呼ばなくていいから」
「ええ、もう呼べません。分かっていて、呼ばれたのでしょう。自分で責任を持ってください」

 オリビアはその言葉に何も言い返せなかった。

 一度目に呼んだ時は、何か言われるのではないかと内心思っていたが、何も言われなかったことから、バトワスにだけ知られていると思い込み、こんなにも満たされるのだと、欲望のままに呼び続けていた。

 オリビアは皆が知っているわけではないが、どんな顔をすればいいのか分からなかった。ある意味、貞淑な貴族令嬢だったからこそだろう。

「私は悪くない、私は悪くないわ…」

 許可が出ているので、罰されるわけではない。公に男娼が男娼だと言いながら、王宮を歩き回るわけではない。男娼だとは思わせないような姿で、これまでにも呼ぶ際に使われていた、なるべく人に会わない部屋で行われていた。

 ただ、呼んだと知っている者には立て続けに男娼を呼ぶほど、性欲が強いと思われることは間違いない。

 バトワスはオリビアが男娼を本当に呼び、行為を行い、その後も呼んでいらしいと言うことは聞いていた。

 食事際に顔を合わすことはあっても、わざわざオリビアが顔を見せない、邪魔をされないことに、妻が他の男性に抱かれていても、心穏やかであった。

 それほどにバトワスにとって、オリビアは負担となっていた。

 続けられることになった調査機関の報告や、周りの貴族たちにも、あの年と前後の年にあったことを調べて欲しいと協力を得て、続々と報告が上がっており、まとめられた書類を読んでいた。

 皆、あの頃は良かったと思う者であるために、何か分かるのであればと、進んで提出をしてくれた。調査機関も増員されて、順調に進んでいる。

 オリビアは人の目が気になりながらも、素知らぬ顔をして過ごしていた。特に誰にかに変に見られたり、言われたりすることもなかった。

 そして、バトワスが何も言って来ないことも気になっていた。

 怒っているのだろうか。いや、お互い勢いだったとはいえ、妻が自分以外の男性と関係を持って、冷静な人なんていないと、嫉妬をしているのであろうと思い、久し振りにバトワスの私室に会いに行った。

 男娼は呼べなくなってしまい、数日は冷静になったが、また夜になると体が疼き始めていた。バトワスに貴方が悲しむだろうと思ってと言えば、もうバトワスで満足できるか分からないが、悪かったと謝って来るだろう。

 夫婦にはいいスパイスになったとなれば、両陛下に知られても、言い訳が出来ると、オリビアは考えていた。

「何か用か?ああ、調べてくれたのか?」
「え?」

 バトワスは言い合いになる前に、調査を手伝うように言っており、それをオリビアが持って来たのだと思った。

「違うのか?」

 オリビアはすっかり覚えておらず、何の話かすら分かっていなかった。

「調べるって何を?」
「はあ…天候の変わった年、その前後の年も含めて、周りの調査を行ってくれと言ってあっただろう?」
「…あ」
「違うなら、何の用だ?」

 バトワスは変わらない対応なのだが、オリビアは男娼のことで機嫌が悪いのだと勘違いし、甘ったるい声を出し始めた。
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