悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
39 / 72

しおりを挟む
「ルルーリオを呼んで頂戴」

 オリビアは時間も開けずに、侍女に言い出した。

「予算が足りなくなりますよ?」
「そんなわけないじゃない!」
「ありますよ、最高ランクだったのですから、費用を見られましたでしょう?」

 確かに高額ではあったが、予算が足りなくなるほどではなかった。

「前の方を指名となると、指名料も掛かりますので、さらに高額になります」
「でも、きっと指名料なんて要らないって言ってくれるわ」
「向こうは仕事なのですから、指名料も立派な稼ぎです」

 侍女は夢見がちなオリビアに、きちんと現実を見せるために言ったが、オリビアには届かなかった。

「仕事だなんて…そんな言い方しないで頂戴」
「男娼なのですから、仕事です」
「それでも、私は特別なはずよ。申請して頂戴」
「予算がなくなっても知りませんよ、いいのですか?」
「大丈夫よ、もう心配性なんだから」

 オリビアはまたルルーリオを呼んで、快楽を求めた。オリビアは眠ってしまうので、ルルーリオが帰る姿を見たことがない。

 そのことが、オリビアは勝手に名残惜しそうに帰っているとされ、立て続けに3回も呼ぶことになった。

 さすがに侍女もこれ以上は、必要な予算がなくなると判断した。

「もう無理です」
「ドレスを我慢すればいいのでしょう?」
「いえ、建国祭のドレスの支払いは済ませています」

 建国祭のドレスは既に注文していたので、支払い分は別にしていた。

「じゃあ、いいじゃない」
「もう予算では呼ぶお金がありません」
「そんな…」

 オリビアにとって、バトワスにルルーリオとのことを言いに行くのを忘れるほど、夢中になっていた。

「最高ランクなのですから、当たり前です。予算内という約束でしょう?これ以上は違反になります」
「じゃあ、男娼としてではなく、呼んで貰うことは?」
「何をおっしゃっているのですか?」

 侍女には何を言っているのか、理解が出来なかった。

「だから、男娼としてではなく、呼べいいでしょう?」
「それは出来ませんし、あちらも仕事ですから」
「仕事じゃないわ!呼んで頂戴!話をするだけよ、王太子妃が呼んでいるのだから、来るのが当たり前でしょう」

 オリビアはルルーリオを呼んでしまえば、こちらのものだと思っており、お金も掛からないし、なんていい考えだと思った。

「呼んで、関係を持ったりすれば、不貞行為になりますよ?」
「黙っててくれればいいじゃない!ルルーリオから求めて来たら、仕方ないでしょう?」

 オリビアは口角を上げて、にったりと微笑んだ。

「仕方ないはずないでしょう、いい加減になさってください!男娼は仕事ですから、優しくしてくれるだけです」
「何ですって!私は特別だって」

 喜ばせるための言葉に決まっているではないかと思いながらも、これ以上付き合ってはいられないと思った。

「陛下にお伝えします」

 侍女はオリビアの侍女ではあるが、王宮のトップは国王陛下である。

「っな、なぜ陛下に…」
「男娼に許可を出したのは、陛下に決まっているからではありませんか」
「陛下が…?どうして…」

 オリビアは陛下の名前が出て来たことに驚いた。

「どうしてって当たり前ではありませんか、慣例に従って許可を出されたのです。勝手に申請のない男娼を呼ぶことは出来ません」
「待って…」

 まさか陛下から許可が出ていたとは考えることもなく、バトワスが許可を出したのだと思っていた。だが、バトワスでは許可が出せないとしたら…許可が出ていたとはいえ、陛下に全て知られているのだと思うと、急に我に返った。

「ルルーリオを呼んだことは、陛下に知られている、のね?」
「申請しているのですから、調べれば分かります。説明があったではありませんか」

 喉がひゅっと鳴り、バトワスと自分だけの話だと、どうして思い込めたのかと、血の気が引いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです) hotランキング1位入りしました。ありがとうございます

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

妹を叩いた?事実ですがなにか?

基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。 冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。 婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。 そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。 頬を押えて。 誰が!一体何が!? 口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。 あの女…! ※えろなし ※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09

【完結】愛してなどおりませんが

仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。 物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。 父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。 実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。 そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。 「可愛い娘が欲しかったの」 父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。 婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……? ※HOT最高3位!ありがとうございます! ※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です ※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)  どうしても決められなかった!!  結果は同じです。 (他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

処理中です...