悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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帰国

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「ただいま戻りました」
「無事に戻って良かった」

 本来なら怪我や病気もなくといった意味だろうが、バトワスの心の中は問題なく戻って来て、良かったという意味であった。

「お姉様が問題を起こしたというのは、本当ですの?」
「ああ」

 バトワスはアマリリスがオズレ王国で令息に言い寄り、ミミリー・マクローズと共に禁止事項に触れて戻されたこと、今後はオズレ王国への留学は難しいと話すと、カメリアは大袈裟に信じられないという表情をした。

「困ったものですわね」
「カメリアは無事に帰ってくれて良かったよ」
「当たり前のことではありませんか」

 カメリアはバトワスとの話を終えて、アマリリスを皆のように怒りではなく、姉を馬鹿に出来ると蔑みに向かった。

「お姉様、何てことをしてくれたの。恥ずかしいったらないわ!」
「戻ったの?」
「そうよ、きちんと留学を終えて戻ったわ。それなのに、お姉様ったら、なんて恥ずかしい。王女としての自覚がありませんの?」
「あるわよ!」

 アマリリスはきょうだいたちにも、嫌味を言われて、カメリアにも言われることは覚悟はしていたが、腹立たしかった。

「だったら、どうして禁止事項を破ったのですか?」
「うるさいわね!」
「必死になったのに、残念でしたわね!どうやって言い寄ったのですか?」
「っな!あなたも言い寄ったりしたんじゃないの!」
「そんな下品なことするはずないではありませんか、サインしたでしょう?」

 アマリリスは正直、カメリアも同じように戻されるのではないかと思っていた。私でも結婚相手に焦っていたのに、自分よりも恋愛脳のカメリアは、絶対に令息に言い寄ると思っていたからである。

 だが、戻される様子はなく、愚か者の烙印を押されたのは自分だけだった。

 国としては良かったのだが、傷を舐め合う相手はミミリーがいたが、ミミリーはさらに手紙を出したようで、自分よりも酷い状況になっていたが、アマリリスの状況が変わるわけではない。

 そもそも、王女と伯爵令嬢では並べられるものではないと思っている。

「お姉様、これからどうされるのですか?持参金も減って、どこにも嫁ぎ先などではないのでは?」
「っ」

 アマリリスは言い返そうとしたが、図星であったために、何も言えなかった。実際に嫁ぎ先が見付かるとは思えない。誰か素敵な殿方が突然、求婚してくれないかとすら思っている状況であった。

 だが、戻った学園でも婚約については、揉めているようで、潔い令息や令嬢は働きに出るために、動いている者もいる状態だった。

 親のように貴族家に結婚することが正しいと思う者は、家を継ぐ者、他国の貴族にどうにか縁を繋ごうとする者も多いが、なかなか相手が見付からないらしい。

 既成事実があれば結婚して貰えるだろうと、関係を持っている者もいると聞いて、さすがに王女にそのようなことをする者はただでは済まないので、不埒者は現れていないが、恐ろしく感じていた。

「精々、頑張ってくださいませ~」

 アマリリスはご機嫌に明るい声で出て行ったカメリアを、睨み付けることしか出来なかった。

 短期留学から戻ったカメリアはなぜかバトワスに、頻繁に婚約の申し込みは来ていないか聞くようになった。最初は無事、留学から帰って来たことで、縁談を期待しているのかと思っていた。

「私に婚約の申し込みはありませんか?」
「いや、ないが?」
「そうですか」
「何があるのか?」
「いっ、いえ」

 懇意になっている令息でもいるのだろうかと思ったが、カメリアは15歳なので学園はまだ通っておらず、令息との出会いもないのではないかと思っていた。

 だが、待っても待ってもカメリアの待つ婚約の申し込みが来ることはなかった。
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