悪意か、善意か、破滅か

反省３

「用意、出来たのか？」

　アジェル王国に戻ったジェフはミミリーとシャーリンを呼び出したが、二人は下を向いたままであった。

「ならば、ミミリーには学園を辞めて働いて貰う」
「ジェフ、待って、少し落ち着いて話しましょう。ミミリーは間違えたかもしれないけど、辞めさせるのには反対よ。婚約や結婚にも差し支えるでしょう？」
「そんな相手がいないだろう、責任を取って貰う」

　ミミリーにこの先、良い縁談があったとしても、持参金は払う気はない。ミミリーに払うなら、他のきょうだいに使うべきだと判断を下していた。

「ジェフ、他の子たちも大事だけど、ミミリーのことを考えてあげて」
「じゃあ、君が慰謝料分を用意するんだな？まあ、それでもいい」

　家令に作らせて置いた借用書に、サインをするように告げた。

「サインしなさい、そうすればミミリーは辞めさせない」
「お母様…」

　お願いだとミミリーはシャーリンを見たが、シャーリンには返す当てがない。だが、返す当てがないことはジェフも分かっているということは、返さなくてもいいのではないかと考えて、返事をしようとした。

「分かっ「私はどちらでもいい、仕事は見付けてあるから、そこで働きなさい」」
「…え」
「お母様、ありがとうございます」
「どちらにしろ、ミミリーも働くことになる」
「…え、どうしてよ」

　ミミリーはこれで借金はシャーリンが返してくれると思って、良かったと思ったが、また引き戻されることになった。

「母親が働いたくらいで返せる金額ではないことは分かるだろう？それとも、お前のせいできょうだいたちが学園に通えなくても、結婚が出来なくてもいいと思っているのか？お前が一生、養ってやるんだな？」
「そ、それは…」

　きょうだいたちには酷く非難されたことから、お金持ちの嫁いで見返してやるんだからと思っていたが、自分さえよければいいなんて言ったら、どうなるか分からないので、言葉を濁すことにした。

「これは決定事項だ、二人とも早くサインしなさい」

　二人の前には半分ずつになった借用書が置かれており、シャーリンが引き受けると言ったら、半分にするつもりだったのである。

「でも、やっぱり」

　シャーリンは結局、どうして私が働かなければならないのかと思い始めていた。

「お前がミミリーを叱らずに甘やかしたことが原因でもあるのだから、責任を取るべきだろう？子供たちもそう言っていたぞ」
「でも、伯爵夫人が働くなんて…」
「家のことは何もしていないのだから、問題ない。働いている夫人も沢山いる」

　子沢山で生活の厳しい貴族は沢山おり、働きに出ている夫人も多い。実家のガルッツ子爵家でも、兄嫁は農家に働きに出ていた。

　二人は渋々、サインをして、シャーリンは明日から誰でも教えて貰えれば出来る瓶詰工場へ、ミミリーが学園を卒業してから、別に働くところがなければ、同じ瓶詰工場に行くことになった。

　シャーリンは初日でジェフに泣き付いたが、ならば自分で仕事を探せと言われて、もし支払いが出来なかったら実家に請求すると言われることになった。

　ガルッツ子爵家にもジェフが話を付けており、兄からも払う金はない、離縁して娼館に行くかと言われて、子爵家によって強制的に働きに行くようになった。

　ジェフはリンダーバル公爵家のことも、シャーリンが、卒業後はミミリーも働きに出ることになったことを、バトワス王太子殿下にも報告をした。

　バトワスは何てことをしてくれたのだとは思ったが、王家には何も知らされてはいないので、マクローズ伯爵家とリンダーバル公爵家として、扱うことになった。

　王家には第二王女・カメリアは戻されることなく、日程を終えて帰国した。