悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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険悪

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 実家に帰されたシャーリンだが、ガルッツ子爵家当主となった兄からも、両親からも、どうして帰って来たんだという扱いになっていた。

 裕福ではない実家にとって、一人増えることが大きなことである。

「まだ戻らないのか…」

 シャーリンはジェフは私がいないことに耐えられずに、すぐに迎えに来ると思っていたが、一週間、経っても連絡すらなかった。

「謝って、帰りなさい」

 何度も、何にしに帰って来たんだ、いつまでいるんだと言われていた兄・ディビットに、溜息を付かれながら言われた。

「どうして私が謝るのよ…謝るのはジェフの方よ」
「離縁でもされたら、見て分かるように我が家では養えないからな。住むところと働き口を探してくれよ」
「離縁なんてするはずないでしょう」

 離縁だと言われたことは本気ではないと思っており、シャーリンは仕方がないので、ジェフに言ったことを後悔しているのでしょう?早く迎えに来るようにと、手紙を書いたが、返事は反省したのか、それとも離縁かと書かれていた。

 ようやく慌てて、マクローズ伯爵家に向かった。

 ジェフと話をしなければと思ったが不在で、子どもたちはシャーリンのことを心配する様子もなく、険悪なムードになっていた。

「どうしたの?」
「どうしたって…ミミリーのことに決まっているだろう」
「そうよ、私たちも悪いみたいに言われるじゃない」
「こんなことなら反対すれば良かった」
「まさか男漁りに留学したいなんて…気持ち悪い」

 18歳の長男、17の長女、14の次男、12の三女の子どもたちが呆れたように言っている。

「お父様が怒るのも無理ないわ」
「折角、行かせてあげたのに、こんなことになったのよ。そんなことなら私が行きたかったわ」
「私だって行けるなら行きたかったさ」
「そうよ、どうしても行きたいって、勉強したいって言ったくせに」
「でっでも、きっと悪気はなかったのよ」

 シャーリンは仲のいい子どもたちが、こんなことで仲違いして欲しくないと思い、フォローのつもりで言った。

「は?」
「悪気しかないじゃない」
「でも、素敵な方がいたから、声を掛けてしまったのよ」
「相手が嫌がっていたんだろう?」
「そんなことないわよ」

 自分の娘が嫌がられることなんてないと考えているシャーリンは、相手がたまたま悪かった。特に、ミミリーは自身に似ているので、留学先できっといい出会いがあるのではないかと思っていた。

 そうでなくても、学園でも令息はいるので、持参金のことはあるが、ジェフが心配しているのは大袈裟で、縁談については心配していない。

「何言っているの?嫌がられたから、問題になったんじゃない」
「周りに友人がいたから、きっと恥ずかしかったのよ」
「だったら、どうして国に戻されることになったのよ!」
「そうだよ」
「そ、それは…」

 子どもが多い分、思いも多ければ、圧も強く、シャーリンはしどろもどろになった。それでも、子どもたちの怒りは収まることはない。

「答えてよ!」
「ミミリーにも理由があったのよ」
「どんな理由だよ」
「私はたかがこんなことで、あなたたちに仲違いして欲しくないの」

 シャーリンはジェフに引き続き、ミミリーのしたことを軽んじており、さらに子どもたちの怒りを増幅させることになった。

「たかが?こんなこと?」
「お母様は大したことないって言うのね、信じられないわ」
「…え」

 もう行こうと、子どもたちは去って行ってしまい、シャーリンはポツンと取り残されてしまった。

「どうして…私の何が悪いっていうの…ミミリーばかりを責めては可哀想じゃない。それなのに、子どもたちまで、どうして私を責めるの…もう知らないんだから」
「お母様…」

 独り言を言っていると、やって来たのは、そのミミリーであった。
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