悪意か、善意か、破滅か

喧嘩

「はあ…お金が必要だろう？やることも、やらなきゃいけないことも沢山あるんだ、分かってくれないのは君の方だろう！」

　ジェフとシャーリンはバトワスとオリビアと違って、二人は避妊をしながら、まだ何度かは閨をしていたが、シャーリンは避妊したくないと言い出して、喧嘩になってからは、ジェフは閨を断るようになっていた。

　ジェフもバトワスと同じで、これ以上子どもが生まれたら困るからであったが、シャーリンは納得が出来ないままであった。

「私が浮気してもいいっていうの！」
「どうしてそんな話になるんだ…私たちは貴族で、親なんだぞ？家のことと、子どものことを考えるべきだろう」
「ジェフは最近、そんなことばっかり！」
「そんなこと？君にとってはそんなことなのか！最低じゃないか」

　自殺まで図った、恋愛結婚の象徴と言われたジェフとシャーリンは、年々、喧嘩が増えていっていた。

「最低ですって！」
「性欲がそんなに大事か？家よりも、子どもよりもか？」
「愛し合うことは大事でしょう？」

　シャーリンにとって性行為は、欠かせないことであった。それなのに、最近出来ていないことが、娘のことよりも大事なことであった。

「君はもっともっとと言って、奉仕させるだけじゃないか。何が癒すだ、気持ちよくなっているのは君の方だろう」
「っな、何てことを言うの！妻は愛されて当然じゃない」

　シャーリンは閨は愛されることだと思っており、ジェフを癒すと言いながら、奉仕するわけではなく、私の体を堪能すれば癒されるという意味であった。

「だったら、少しは痩せたらどうだ？君のせいで、伯爵家は贅沢をしていると思われているんだ」
「それは、妊娠したからじゃない！」
「だから、避妊をしようと三人目が生まれた時に言ったじゃないか」

　ジェフはバトワスよりも早く避妊しようと言ったが、シャーリンは子どもは愛の結晶なのだからと言って、ちゃんと面倒を看るから産ませて欲しいと、結局こちらも八人も生まれたのである。

　だが、さすがにジェフも周りも、現実を見ることになった。

　婿にも嫁に出すにも、子どもが多過ぎては爵位が足りない。しかも高位貴族は、援助や伝手を期待して、他国の縁組を希望している。

　ゆえに婚約をしている者は、意外と少ない状況なのである。

「面倒を看ると言ったくせに、子どもたちのことは考えないのか！」
「考えているわ！」
「何を考えている？言ってみてくれ」
「だから、良い縁談がないかとか…聞いてみたり」
「皆、困っているのにあるわけないだろう」
「そんな言い方ないじゃない！私だってやっているの」

　シャーリン、伯爵夫人がやるべきことは、ほとんどメイド長がやっていることは知っている。パーティーなどもほとんど開かれることはないので、社交もほぼない。

「そんなに性欲を優先したいのなら、離縁するか？そうすれば、私ではない相手に抱いて貰えばいい」
「どうしてそんなことが言えるの！」
「君はそんなことと、言ったからじゃないか！」

　ジェフはそんなことと言われたことを、根に持っていた。

「あなたは私がいなくなってもいいというのね？」
「君はこのところ、邪魔しかしていないじゃないか」

　閨の誘いも勿論、今回が初めてではない。何度も同じような会話をしており、ただ離縁を口に出したのは初めてであった。

「酷いわっ！あなたは変わってしまった」
「変わるのは当然だろう、伯爵家当主で、子どもたちにも幸せになって貰いたいと思わないのか？」
「私も幸せでいてはいけないって言うの？」
「優先順位を考えるべきだと言っているんだ、君はいつまで変わらない気でいるつもりだ？」
「もう、嫌！実家に帰るわ！」
「分かった、しっかり考えてくれ」

　そう言えば、止めてくれると思っていたシャーリンは驚いたが、翌日馬車を用意されて、実家に帰ることになってしまった。