悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

文字の大きさ
上 下
9 / 185

禁止事項1

しおりを挟む
「こんなのサイン出来ないわ」
「ならば、留学の許可は下りない」
「どうしてよ!折角の出会いなのに」

 バトワスも同じように考えていたのだが、認めるわけにはいかなかった。

「それを危惧されているのだ…勉強に行くことが理由でないなら諦めなさい」
「もし、想い合ったらいいってこと?」

 そういった言葉が出ることが危ないのだが、きちんと説明をすることにした。

「相手に婚約者がおらず、立場を利用したものではなく、向こうから申し込まれれば大丈夫かもしれないが…もし、禁止事項に当たるとなれば、国に帰される。最悪、慰謝料を払わなくてはいけない場合もある。そうなったら、予算もなくなり、足りなかったら借金することになる」
「借金って…」

 王家への借金となるので、貴族院の承認も必要となる。誰かが負担してくれるのならば別だが、うやむやには出来ない。

「予算を使い切ったのなら、いくら王族でも借金になる。そうなれば、それこそ持参金なしどころか借金があるとなり、侮られることになる」
「でも、それは…相手がどうしてもと言えば違うんじゃないの?王女だもの」
「ならば、持参金も払えなかった癖にと言われてもいいと言うのだな?それなら好きにしたらいい」

 バトワスは生まれてからずっと、苦しい状況だと分かっているはずなのに、王女という存在に価値があるというのなら、好きにしたらいいと思った。

 自分も正義の味方のような顔をして、恋愛結婚を推奨したことが、降りかかっていることは気付かない振りをしている。

「では私は爵位と元フォンターナ家の領地をいただけませんか」

 言い出したのは第一王女である。

「お姉様?」
「だって、お兄様たちは王家に残るおつもりなのでしょう?パベルは留学して、私は第三子で、第一王女なのよ?」
「そんなのずるいわ」
「そうよ!お姉様だけ」

 反論したのは第二王女、第三王女である。

「上から順番なら私でしょう?」

 元王女で、爵位と領地持ちともなれば、裕福な他国には嫁げないが、婚約者は殺到することになるだろう。それを見越した第二王女、第三王女は声を上げたのである。

「でも、あなたたちは他国に嫁ぎたいと言っていたじゃない」
「お姉様もでしょう?」
「考えを変えたのよ、他国はあなたたちに譲るわ」
「待て、なぜ元フォンターナ家を?」

 バトワスはなぜフォンターナ家の領地などと言い出したのかと、疑問であった。

「だって、とても裕福な領地なのでしょう?」
「調べたのか?」
「勿論よ、とても裕福な家だったと聞いたわ」
「調べたわけではないのだな…」

 誰かからフォンターナ家が裕福だったことを聞いたのか、唆されたの菓子らないが、領地を貰おうと考えたのだろう。

「調べたわよ!その上で言っているの」
「そうか、その上で元フォンターナ家の領地が欲しいというのだな?」
「ええ、そうよ」
「本気なのだな?」
「ええ、勿論ですわ」
「分かった、希望していると話して置こう」

 第一王女はにやりと笑い、バトワスの言葉に反応したのは、第二王女である。

「お父様!?お姉様だけずるいわ」
「フォンターナ家は、フォンターナ家だから裕福だったんだ。今は王家が管轄しているが、管理するほど人もほとんど住んでいないような状態だ…それを引き受けたいと言っているんだ」
「え?」

 その言葉に慌てたのは、第一王女である。

「あ、そうなの?ならいいわ」
「え、待って、そんな」

 そんなはずないと言わんばかりに、狼狽えているのは第一王女で、今度は第二王女がにやりと笑う番であった。

「調べたのだろう?」
「…え、あの、でも裕福だったのだから、何とかなるのでしょう?」
「フォンターナ家は、商会も沢山持っていた、お前は持っているのか?」
「商会なら作ればいいわ」

 第一王女はなんだ、商会なら作ればいいじゃないと安易に考えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

欲しがり病の妹を「わたくしが一度持った物じゃないと欲しくない“かわいそう”な妹」と言って憐れむ(おちょくる)姉の話 [完]

ラララキヲ
恋愛
 「お姉様、それ頂戴!!」が口癖で、姉の物を奪う妹とそれを止めない両親。  妹に自分の物を取られた姉は最初こそ悲しんだが……彼女はニッコリと微笑んだ。 「わたくしの物が欲しいのね」 「わたくしの“お古”じゃなきゃ嫌なのね」 「わたくしが一度持った物じゃなきゃ欲しくない“欲しがりマリリン”。貴女はなんて“可愛”そうなのかしら」  姉に憐れまれた妹は怒って姉から奪った物を捨てた。  でも懲りずに今度は姉の婚約者に近付こうとするが…………  色々あったが、それぞれ幸せになる姉妹の話。 ((妹の頭がおかしければ姉もそうだろ、みたいな話です)) ◇テンプレ屑妹モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい。 ◇なろうにも上げる予定です。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

笑わない妻を娶りました

mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。 同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。 彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

素直になるのが遅すぎた

gacchi
恋愛
王女はいらだっていた。幼馴染の公爵令息シャルルに。婚約者の子爵令嬢ローズマリーを侮辱し続けておきながら、実は大好きだとぬかす大馬鹿に。いい加減にしないと後悔するわよ、そう何度言っただろう。その忠告を聞かなかったことで、シャルルは後悔し続けることになる。

【完結】ずっとやっていれば良いわ。※暗い復讐、注意。

BBやっこ
恋愛
幼い頃は、誰かに守られたかった。 後妻の連れ子。家も食事も教育も与えられたけど。 新しい兄は最悪だった。 事あるごとにちょっかいをかけ、物を壊し嫌がらせ。 それくらい社交界でよくあるとは、家であって良い事なのか? 本当に嫌。だけどもう我慢しなくて良い

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

処理中です...