悪意か、善意か、破滅か

反感

　水不足なのに、貴族は子どもばかり作ってと平民に言われているのも知っている。人が増えれば使う水も増える、特に王侯貴族は贅沢に使っているのだと思われ、平民の出生率は変わっていないのである。

　それなのに、王家ですら婿や嫁に行かないとなれば、反感も高まるだろう。

「どう考えても、ジェフとシャーリンの影響よね…」
「ああ、あれから恋愛結婚が増えたからな…婚約解消もあり、フォンターナ家のように爵位を返上する者まではいなかったが…」

　同じように自殺をする者はいなかったが、親の方が我が家もそのようなことをされては堪らないと、上手くいっていない婚約は解消されることも多かった。

　新たに結び直して上手くいったところもいるが、成果と言えば、やはり子どもが沢山生まれたことだろう。だが、そのことで悩まされてもいる。恋愛結婚が増えたから、子どもが沢山生まれたのだと考えられている。

「ええ…彼女はどうしているのでしょうか」
「分からない…父上が調べてみたそうだが、どこにいるのか、分からないらしい」
「ですが、皆で出て行ったのでしょう？」

　オリビア王太子妃は、エルムを強く追い込んだ代表とも言える。

　当時は侯爵令嬢で、バトワス王太子殿下と想い合っていたのに、他国の王女と縁談があることで、自分と重ねていた。

　だからこそ、率先して、自殺までしようとしたシャーリンの味方をした。

「途中までの足取りは掴めたのだが、その後は分からないんだ。お金には困っていないだろうから、どこかで静かに暮らしているのではないだろうか」
「お金に…？」
「夫人は商会を持っていたからな…」
「まさか…嘘でしょう…アニバーサリーが夫人の？」

　オリビアは、口元を押さえて、絶句した。アニバーサリーが、夫人の経営していた商会であった。

「知らなかったのか？」
「…え、ああ、ええ…誰も教えてくれなかったもの」

　教えてくれるくれないではないのだが、バトワス王太子も父である陛下に言われるまで知らなかったので、人のことは言えない。

「手に入らなくなったのは、ジェフとシャーリンのせいじゃない」
「だが、我々も後押ししただろう」
「でも、別に家族まで批判したわけではないわ。娘だけ追い出せばよかったのに、どうして一緒に出て行ったのかしら」

　オリビアは掌を頬に当てて、本気で悩んでいる。

「可哀想だと思ったのではないか」
「でも、自殺まで追い込んだのに、可哀想だなんて思うものかしら…ああ、そんなことなら、ご家族には残って欲しいと伝えることが出来たのに。今からでもご家族だけでも、戻って来てはくれないかしら。お父様に探すように頼んでみるわ」

　バトワスはさすがに爵位を返上してまで出て行ったのに、戻ってくるわけないと思ったが、オリビアはあれも食べたい、これも食べたい、使っていた化粧品も購入出来なくなって、困っていると言い出している。

　九人の子どもを立て続けに産んだこともあり、シャーリンと同じで結婚前よりも２０キロ以上ふくよかになっていた。

　出産したことでもあるので、バトワスは強くは言えないが、オリビアがふくよかなことで王家はいい暮らしをしていると思われていることを、良く思っていなかった。

　現在の王家は質素倹約としており、歴史上も気候が一定しないことがあった記録があり、長い年月を要したが、前の気候になって安定し、過ごし易い国と言われるようになったのだ。今は耐える時期だと一緒に乗り切ろうと話している。

　だからこそ、痩せて欲しいのだが、痩せる暇がなかったと言っているが、事実ではあるが、ここ数年は急に妊娠する様子はなくなった。

　王家は避妊はしてはならないとされており、オリビアは今も閨を求めて来るが、バトワスはこれ以上、子どもが出来たら困るからと断っている。