悪意か、善意か、破滅か

野村にれ

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さよなら

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 フォンターナ家の朝は、金色をした像にお祈りをすることから始まる。

 家族は静かに毎日祈ることだけは、何があっても欠かさない。信仰心というよりは、フォンターナ家では日常であった。

 フォンターナ家は、最近、オルタナ王国に家族で引っ越して来た一家である。

 前にフォンターナ家のいた国では、ある事件が起こった―――。

 婚約者のいる令息は婚約後に、別の令嬢に恋をした。

 いくら婚約をしていても、人の気持ちは、そういったこともあるのかもしれない。だが、貴族としては結婚は契約であるために、あってはならないことではある。

 解消するのなら、婚約者、家族に誠心誠意、謝罪して、婚約を白紙にして貰うことが、最低限の礼儀であることはどの国でも、変わらないはずであった。

 だが、令息の場合は両親も許してはくれなかった。思い通りにならないと分かった令息は、婚約者が年下だったこともあり、婚約者を蔑ろにして、想い合う子爵令嬢との愛を、時間を過ごしていた。

 そして、彼は彼女と体の関係を持ち、子どもが出来たら、きっと両親も許してくれると思ったが、子どもはなかなか出来なかった。

 切羽詰まった令息は、一緒になれないならと死んだ方がいいという手紙を残して、子爵令嬢と共に睡眠薬を飲んで自殺を図った。それほどに二人は想い合い、盛り上がってしまったとされている。

 だが、二人は死ぬことはなかった。

 命を取り留めた二人は、令息の両親もそんなに想い合っているのなら、結婚させた方がいいと、結婚することになった。令息は騎士で、王太子殿下の側近だったことも、それを後押しした。

 このことがあってから、二人はアジェル王国の恋愛結婚の象徴となった。

 令息の婚約者は、婚約者が勝手にしたことによって、非難を受けることになった。それがエルム・フォンターナだった。

 元々、悪意も善意も込めて、彼女は丸い眼鏡を掛けていたことで、丸い眼鏡令嬢と呼ばれていた。目が悪いから、眼鏡を掛けているだけで、野暮ったいと言われており、ここぞとばかりに敵意を向けた。

「似合っていないと思っていたのよ」
「早く身を引けばこんなことにならなかったのに」
「追い詰めておいて、謝罪の言葉もないの?」

 エルムは傷付いたが、何も答えることはしなかった。何を言っても無駄であり、謝罪をする理由も分からなかった。

 しかも、婚約は白紙、解消ではなく、さすがに令息の両親は慰謝料までは請求しなかったが、王太子殿下が関わったことで、不貞を犯したのは令息の方であるにも関わらず、破棄となった。

 子どものころから顔を合わせており、互いの親の合意で婚約したはずが、金に物を言わせて婚約したと言われ、想い合う二人を追い詰めたのだとされたのである。子爵令嬢が私が悪いんですと涙ぐめば、皆が子爵令嬢の味方をした。

 エルム・フォンターナは国から姿を消し、邪魔者がいなくなって、清々としたと口々に言った。

 だが、家族も爵位を返上して、使用人も大半を連れて、姿を消した。

 前伯爵夫妻と、騎士団長だった父、商会を経営していた母、医師の兄、そして婚約を破棄された妹はアジェル王国からいなくなった。

 彼女の家族がそこまでするとは誰もが思っていなかった。

 愛されていないとは言わないが、希薄な関係の家族だと思っていたからだ。フォンターナ家は歴史ある家ではなかったが、裕福な伯爵家であった。王家も王太子が関わっている以上、止めることは出来なかった。

「エルム、彼らはきっと後悔するよ」
「それはしなくてもいいけど、苦しんで欲しいわ」
「苦しむよ、苦死めばいいんじゃないかな」

 ジェラルドはエルムに微笑み、エルムも目を細めて微笑んだ。それは久し振りに見た、妹の笑顔であった。


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お読みいただきありがとうございます。

家族の仲が良くない物語ばかり書いて来たので、
そうではない家族が書きたくて書き始めました。

どうぞよろしくお願いいたします。
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