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最愛

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「なっ、亡くなったのか」
「………はい。立派な、最期だったそうです。夫人にはあなたから伝えて下さい」
「わ、分かった…サリスはどうするんだ」
「番失くしをされるようですが、難しいかもしれません。そうなれば、最愛と共に森深いところで最期を迎えようと思っています。その後は父上にお願いしてあります」

 サリスは番を失った。それは竜の狂気となってしまい、身を割かれて死を迎えるか、その前に命を絶つかということだ。番失くしの効果が出ればいいが、心は無事か分からない。子どもでも生まれていれば、サリスは生きていられただろう。

「…そうか、すま」
「謝罪はしないでください」
「ああ」
「後はお願いします」

 それが甥との最期の会話になった。番失くしは間に合わなかった。森に入る前に、私はもう番とは呼ばない、ミルシュアは最愛だと話したそうだ。

 全ては私が番を助けようという建前から、妹を殺し、甥と甥の番であった姉を死に追いやったのだ。確かにあの日は怒りで通常の判断が出来にくくなっていた。

 二度も子を殺した罪に苛まれるラズリーは妊娠は続いているが、私のことは拒否している。

 子に罪はない。

 この言葉が重くのしかかり、それでも私は罪を背負って生きなければならないのだろう。罪のない者を殺した私の罰だ。

 カインドールは兄、国王陛下に呼び出されることとなった。

「カインドール、私は最愛の息子と、息子の最愛、そして生まれて来なかった子を失った」
「妊娠していたのですか」
「ああ、彼女は気付いていなかったのだろう。あれだけ妹を大事にしていた、ミルシュア嬢が命を粗末にするとは思えん。でも、サリスは二つ失ったことに気付いてしまったのだ」

 ミルシュアは避妊薬を貰っていたので、そんなこと考えもせず、困っていると聞いて、魔獣討伐に参加していた。

「…そんな」
「王位はお前に譲る、好きにしてくれ。私はもう未来が見えない」
「それはいけません、兄上こそが相応しい」
「言ったであろう、もう私に未来を見ることは出来ないのだ。そなたが王となり、お前には子がいるのだら継がせてくれ」

 サリスは両陛下のようやく授かった大事なひとり息子だった。

「出来ません、私は王位に相応しくない」
「ああ、一番相応しく無いからこそ、譲るのだ。お前がお前の手で殺したのは妹君だけだが、一緒に姉君、私の最愛の息子、息子の子も亡くなったのだ。責任を負うべきだろう」
「……は、い」

 甥、甥の番、甥の子を殺したために起こった負の連鎖は意図的に殺した訳では無かったが、間違いなく自分の責任であった。

 兄は退位し、王太子の死が発表された。カインドールが国王となり、息子・ミリナードが王太子となった。番は王妃となったが、私は罪人だからと、罪のない子どもたちの教育のみに当たった。彼女なりの贖罪はもうそれしか残されていなかったのだ。

 夜になると毎日泣き声が聞こえてくるが、慰める言葉すら私は持っていなかった。

 あの日、間違えなければ、あの姉妹は生きていた。甥の求婚を受け入れ、あの時の子も生まれ、ちょっと歪でも家族になれたかもしれない、私は救うと言いながら、全て壊していっただけだったのだ。

 あの日に戻りたい。
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