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別れ
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カペルル王国に住まう、ミルシュアとリズファンはとても仲のいい姉妹だった。
しかし、姉妹のアズライン伯爵家は酷いものだった。
父親は元々愛人がいたようだが、半年前くらいから、邸に愛人と愛人の子どもを招き入れて、大騒ぎしている。愛人たちは愛されなくて可哀想などと言って来ることはあったが、優しい父親ではなかったので、奪われた気持ちもなかった。
しかし邸の雰囲気が良くないことは父親に意見したが、怒鳴り散らされ、殴られただけであった。その様子を愛人がケラケラ笑いながら見ていた。
母親は部屋に籠るようになり、どうにかして欲しいと言っても、あんな人と結婚したばかりにと泣いてばかりで、実家を頼れないのか聞いても、恥ずかしくて言えないと言い、ミルシュアとリズファンはここを出て行くことだけを考えて、今は諦めて何も聞かないようにした。
姉妹のきずなは自ずと強くなり、妹は私が守るという姉と、姉のことは私が守るという妹であった。二人は同じ部屋でお互いを守るように生活していた。
「お姉ちゃんがいなかったら、私はもう生きていないわ」
「何を言うの、リズがいなかったら、私も生きていないわよ。いや、生きていたくないの間違いね」
「「ふふふ」」
「でもお姉ちゃん、もし私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「リズも、私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「「考えたくない」」
寝る前によくそんな話をした。それほどに姉妹の環境は悪かった。
あの日、確かにいつもより使用人の足音と、何を言っているか分からないが沢山の声、とにかくバタバタと煩かった。でも近頃はずっと煩かったので、ミルシュアはあまり気にしていなかった。
しかしリズファンが飲み物を取りに行って戻って来ないことで、何かあったのかと部屋の扉を開けると、父が誰かに怒っている声が聞こえ、また喧嘩しているのかなくらいにしか思っていなかったが、妹がエントランスに向かっていくのが見えた。そして次の瞬間、妹は叩き飛ばされてドアに当たり、驚いて慌てて飛び出した。
妹を抱き起すが、まだ父の怒鳴り声が聞こえ、誰かを呼ぼうにも人はいるがこちらを見ておらず、妹を抱きかかえて近くの倉庫に隠れた。妹の頭から流れる血はいくらハンカチで押さえても、止まってはくれなかった。
「…おねえ、ちゃん…」
「大丈夫よ」
先程、隙間から見えた母親は顔は見えなかったが、男性に寄り添っていた。そういうことなのだと察した。母親の方にも愛人が出来て、出て行くとでも言って、揉めているのだろうと思った。
ここにいては危険だと、いくら掛かるか分からないので、妹を寝かせて、父の執務室に入り、鞄に入るだけお金を入れた。馬に乗るために妹を背負い、その上から父のコートを着て、さらに紐で体に固定して邸を出た。これが正しいのか分からないが、医者を呼べる状況ではないことは確かだった。
とにかく早く医者に診せなければならない、妹に声を掛けながら、一番近い町の医院を目指した。
ようやく辿り着いた医院の老年のクレノ医師は、すぐにぐったりした妹を診てくれたが、打ち所が悪ければ、目を覚まさないまま助からないかもしれない、覚悟した方がいいと告げた。
妹は時折、苦しそうな表情をして、二日後に息を引き取った。まだ十三歳だった。
近くの墓地に埋葬しても、私の身体は宙に浮いたような気持ちのままであった。この世で一番の理解者で、愛しい可愛い妹はいなくなってしまった。
昨日まで部屋で寝転んで、夢を語り合ったあの凛々しくて可愛い笑顔はもう見れない。もう私の記憶にしかいない。
数日が経ち、私はまだ医院におり、新聞で伯爵邸では火事が起きて、遺体の確認ができた者の名前が書いてあり、そこには私たち姉妹の名前もあった。おそらく把握できていない愛人か、愛人の子が、私たちだと判断されたのだろう。
もうどうでもいい。何もいらない。
しかし、姉妹のアズライン伯爵家は酷いものだった。
父親は元々愛人がいたようだが、半年前くらいから、邸に愛人と愛人の子どもを招き入れて、大騒ぎしている。愛人たちは愛されなくて可哀想などと言って来ることはあったが、優しい父親ではなかったので、奪われた気持ちもなかった。
しかし邸の雰囲気が良くないことは父親に意見したが、怒鳴り散らされ、殴られただけであった。その様子を愛人がケラケラ笑いながら見ていた。
母親は部屋に籠るようになり、どうにかして欲しいと言っても、あんな人と結婚したばかりにと泣いてばかりで、実家を頼れないのか聞いても、恥ずかしくて言えないと言い、ミルシュアとリズファンはここを出て行くことだけを考えて、今は諦めて何も聞かないようにした。
姉妹のきずなは自ずと強くなり、妹は私が守るという姉と、姉のことは私が守るという妹であった。二人は同じ部屋でお互いを守るように生活していた。
「お姉ちゃんがいなかったら、私はもう生きていないわ」
「何を言うの、リズがいなかったら、私も生きていないわよ。いや、生きていたくないの間違いね」
「「ふふふ」」
「でもお姉ちゃん、もし私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「リズも、私がいなくなっても、ちゃんと生きてね」
「「考えたくない」」
寝る前によくそんな話をした。それほどに姉妹の環境は悪かった。
あの日、確かにいつもより使用人の足音と、何を言っているか分からないが沢山の声、とにかくバタバタと煩かった。でも近頃はずっと煩かったので、ミルシュアはあまり気にしていなかった。
しかしリズファンが飲み物を取りに行って戻って来ないことで、何かあったのかと部屋の扉を開けると、父が誰かに怒っている声が聞こえ、また喧嘩しているのかなくらいにしか思っていなかったが、妹がエントランスに向かっていくのが見えた。そして次の瞬間、妹は叩き飛ばされてドアに当たり、驚いて慌てて飛び出した。
妹を抱き起すが、まだ父の怒鳴り声が聞こえ、誰かを呼ぼうにも人はいるがこちらを見ておらず、妹を抱きかかえて近くの倉庫に隠れた。妹の頭から流れる血はいくらハンカチで押さえても、止まってはくれなかった。
「…おねえ、ちゃん…」
「大丈夫よ」
先程、隙間から見えた母親は顔は見えなかったが、男性に寄り添っていた。そういうことなのだと察した。母親の方にも愛人が出来て、出て行くとでも言って、揉めているのだろうと思った。
ここにいては危険だと、いくら掛かるか分からないので、妹を寝かせて、父の執務室に入り、鞄に入るだけお金を入れた。馬に乗るために妹を背負い、その上から父のコートを着て、さらに紐で体に固定して邸を出た。これが正しいのか分からないが、医者を呼べる状況ではないことは確かだった。
とにかく早く医者に診せなければならない、妹に声を掛けながら、一番近い町の医院を目指した。
ようやく辿り着いた医院の老年のクレノ医師は、すぐにぐったりした妹を診てくれたが、打ち所が悪ければ、目を覚まさないまま助からないかもしれない、覚悟した方がいいと告げた。
妹は時折、苦しそうな表情をして、二日後に息を引き取った。まだ十三歳だった。
近くの墓地に埋葬しても、私の身体は宙に浮いたような気持ちのままであった。この世で一番の理解者で、愛しい可愛い妹はいなくなってしまった。
昨日まで部屋で寝転んで、夢を語り合ったあの凛々しくて可愛い笑顔はもう見れない。もう私の記憶にしかいない。
数日が経ち、私はまだ医院におり、新聞で伯爵邸では火事が起きて、遺体の確認ができた者の名前が書いてあり、そこには私たち姉妹の名前もあった。おそらく把握できていない愛人か、愛人の子が、私たちだと判断されたのだろう。
もうどうでもいい。何もいらない。
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