上 下
38 / 38

皇女と王女2(最終話)

しおりを挟む
 離宮に戻されたシュアリーは荒れた。私が折角返してあげると言っているのに、結局、アウラージュは仕方ないと、受け入れてくれる、せめて何かいい考えを思い付いてくれると信じていた。

 シュアリーは婚約の継続のことで、既にルカスとは険悪な雰囲気になっており、アウラージュだけが頼みの綱だったのだ。

「ルカス様も伯爵家なんて不満でしょう」
「もうどうにもなりませんから」

 ルカスは父親にこれが最上の待遇だと説明されて、粛々と受け入れるしかなかった。ルカスがシュアリーを選んだ責任なのだ。

「不満じゃないの?」
「それはシュアリー様じゃないですか、もっと自分には相応しい縁談があると思ってらっしゃるのでしょう?」
「酷い!何てことを言うの!」
「ではブルーノ殿下から申し込みがあったら、どうしますか?」
「そっ、それは、国のためになるのなら、お受けするわ」
「ほら」

 数回会っただけのブルーノ殿下に、あれだけ喜々とした目をしていれば喜んで飛び付くだろう。始めは嫉妬心もあったと思うが、相手にされていないことが滑稽だと思えるほど、シュアリーへの気持ちは変わってしまった。

「国のためになるのならと言ったわ」
「では国のために、二十歳年上の方に嫁いでくれと言われたら出来るのですか?それは嫌なのでしょう?」
「二十歳も年上なんて」
「私には相応しくない?どんな相手なら、あなたに相応しいのですか?私ではないのでしょう?」
「どうしてそんなこと言うのよ!あなただって、あの伯爵令嬢に!」
「あれは誤解です。面白い思想を持つ者だと思っただけです」
「信じられないわっ!」

 ルカスはもう私のことなんて好きじゃない、何でこんな人を選んでしまったのだろう。どうして誰かどうにかしてくれないのよ、おかしいじゃない。

 シュアリーは努力はしないが、求めるものは上等である。私は王女だからと、地位だけで自身には与えられるべきものだと疑わなかった。

 今までもすべてを与えられて来たわけではない、陛下だって無理なことは言い聞かせた。だが、根底にしつこく迫れば、相手が根負けすると思っている。

 確かにアウラージュは恵まれていた、サリキュース帝国の後ろ盾はあっただろうが、陛下がシュアリーを気に掛ける分、他の者たちはアウラージュを気に掛けていた。アウラージュは与えられたものはきちんと行い、地位に驕ることはなかった。シュアリーはその場では行ったが、地位でどうにかなると驕っていた。

 きっとシュアリーとの差はたったそれだけ。アウラージュも研究にはのめり込むが、すべてに置いて優秀だったわけではない。だが、たったそれだけがこの従姉妹であり、姉妹でもあった2人の命運を分けたのだ。

 シュアリーは学園を何とか卒業し、ルカスと結婚する以外なかった。ルカスも同じである。あの日、手と手を取り合った2人は一体何だったのだろうか。互いに後悔を抱えながら、こんなはずじゃなかったと生きていくしかない。

 アウラージュは一体どこにいるのか、何をしているのか、結婚はしたのか?アルバートと?まさかのブルーノ?それともサリキュース帝国の人間か?

 ブラックア公爵が息子とこの家をなんて言い出したり、スイク王国の国王夫妻があのナルシストをコントロール出来るのは皇女様だけですと言い出したり、エレン皇帝が側に置こうと、国内での縁談を持って追い回して来たりするかもしれない。

 すべてを差し出したアウラージュはこれからどんな人生を歩むのか、それはアウラージュ自身が一番楽しみにしている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後までお読みいただきありがとうございました。

最後はアウラージュが羽ばたくまでと思っておりましたので、
ここで終わり?と思われる方もいましたら、申し訳ありません。

テイストは全く違う前世持ちの令嬢の話を2作品、投稿中です。
(1つは今日から投稿しています)

またこんなに多くの方に読んで貰えるとは思っておらず、とても励みになりました。
お読みいただいた皆さま、本当にありがとうございました。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】私は関係ないので関わらないでください

紫崎 藍華
恋愛
リンウッドはエルシーとの婚約を破棄し、マーニーとの未来に向かって一歩を踏み出そうと決意した。 それが破滅への第一歩だとは夢にも思わない。 非のない相手へ婚約破棄した結果、周囲がどう思うのか、全く考えていなかった。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

処理中です...