上 下
37 / 38

皇女と王女1

しおりを挟む
 先程、陛下のところに私が来ていると聞き付けたシュアリーが、離宮に住まいを移したのに、相変わらずの様子で押し掛けて来た。

「お姉様、ルカス様は返すわ。だから、王太子に戻って」
「人は貰ったり返したりできるものではないと言ったでしょう」
「ルカス様を返せば元通りじゃない」
「欲しいと言ったのはあなたでしょう?そんなに欲しかったのでしょう?それなのに手放すの?それであなたはどうするの?」
「奪ったのは私だもの、別の縁談を探すわ」

 シュアリーはアウラージュとルカスが戻れば、自身も元通りとなって、きっと縁談も届くはずだと信じている。

「シュアリー、その話はもう終わっただろう!」

 陛下は声を上げたが、シュアリーは止まらない。アウラージュがどうにかしてくれるとまだ思っている。

「私が泣く泣く身を引くのよ」
「そうすれば可哀想な私になれると思っているのね?まさか私に紹介しろとでも言うのかしら?」
「サリキュース帝国に?」
「紹介はしないわよ、正確には出来ないわ」
「どうしてよ!王太子が変わっても、お父様は国王なんだから、私は王女でしょう!求められる立場でしょう!」
「価値を下げたのは自分自身でしょう?」
「そんなことしていないわ、価値が下がるなんて絶対にないわ」

 ルカスとの関係は婚約前が一番良かった。しかも、嫁ぎ先が伯爵家だなんて、頭を下げるような立場になりたくない。アウラージュが国王になれば、姉妹は許されるはずだから、頭を下げる必要はない。それが私に似合っている。

「リオンが王太子になったから、ルカスのことは大目に見られても、現状としてシュアリーは王太子に相応しくないとされ、さらに婚約者も捨ててどうする気なの?」
「それはお姉様が降りたから、王太子になっただけじゃない…私のせいじゃないわ」
「また同じことを繰り返すのね。あなたの責任はどこにあるの?」
「…」

 責任など取る立場になったことのないシュアリーは、責任など考えたこともない。自身の代わりに誰かが取ればいいとしか思っていない。

「自分にはいい縁談があると思っているの?どこに?誰?」
「ち、違うわ、私は国のためを思って」
「国のためを思うなら、どうして王配を選んだの?どうして王太子教育を頑張らなかったの?どうして王太子が他国の王子に色目を使うの?すべて真逆のことじゃない」
「悔しかったの、皆、アウラージュ、アウラージュって」

 それはそうだろう、何もして来なかったシュアリーに誰も宛てになどしない。アウラージュがいなくなってからは、陛下に訪ねるだけである。

 敢えてシュアリーを訪ねても、分からないと言われる時間だけでも無駄である。皆、そこまで暇ではない。

 王太子教育は温情だったのだ。皆、無駄になるのだろう、やり甲斐がないと思いながらも、陛下の意を汲んで一生懸命やってくれた。おかげで、リオンの評価は上がる一方で、あれは何だったのだろうかと思われている。そんなこともシュアリーは王太子教育がなくなって良かったとくらいにしか思っていない。

「悔しいというのは頑張った者だけが言える言葉よ。何もしていないのに、求めることだけは一丁前なのよね。誰かに言えばどうにかなると思う考えを止めなさい。せめて、けじめとして学園はきちんと卒業なさい」
「何よ!お姉様は欲しいものは持っているじゃない」
「でも私はなくしたものばかりよ。婚約者もいなくなってしまったし、王太子でもなくなった、王族でもなくなったし、あなたの姉でもなくなったわ」
「それは…」
「それともすべて要らないものだったとでも言うの?せめて自分の手で掴んだものは大事にしなさい」

「シュアリー、離宮に戻りなさい!」

 陛下もマレリアに恥ずかしくないようにと、シュアリーに厳しく接するようになり、シュアリーにとって、都合のいい絶対なる味方はいなくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

ついに明日、最終話です。
最後までよろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...