上 下
15 / 38

限界

しおりを挟む
「もう王太子をやめたい…王太子になってから辛いことばかりだわ」
「シュアリー様…」

 ルカスもシュアリーに限界が近づいているのではないかと思っていた。シュアリーがアウラージュから奪ってでも、王になりたかったのならば、違っただろう。最初は戸惑っていたが、王太子という立場に誇らしそうではあった、だが本格的に教育が始まれば、現実を知る。

 王家の歴史を学び、予算、法案、調査、研究と多岐に渡る。他国についても、言語、マナー、歴史と同じように学ぶようになる。そして、一番は家臣の声を聞き、民の声を聞き、国をまとめる力。シュアリーに出来るとは思えなかった。

 シュアリーを選んだ時点で、ルカスも王配になる気はなくなっていた。

 今は陛下がいるが、いなくなったら、一番フォローするのはルカスとなる。王配教育も格段にレベルが上がっている。アウラージュとは比べものにならないほど、決断を迫られるだろう。

「ルカス様もそう思うでしょう」
「お辛いのは分かります。ですが、王になるということは生半可な気持ちではなれません」
「そんなこと分かっているわ、でも私は王になりたかったわけではないもの。2人で話したじゃない、お姉様を支えるか、公爵になるかだって。なのにどうして、私が王太子なのよ!」

 もう諦めるしかないのか、何か問題を起こしては補佐も公爵も難しくなってしまう。今ならまだ好待遇のままでいられるのではないか。実家の公爵家よりも下がることは避けたい。

 ルカスもアウラージュがいた頃のシュアリーへの気持ちが減っている、おそらくシュアリーもそうだろうと気付いている。ブルーノ殿下への態度は男性として、お近づきになりたいという顔をしていた。分かり易いというのは男性にとって利点もあるが、傷付くこともある。

 アウラージュの周りにも幼い頃からの知り合いである友人の男性はいたが、同じくらい女性もいた。仕方のないことだが、婚約を解消してからはアウラージュの友人とは関わることもなくなった。

 おそらく友人の邸にいるか、別荘などにいるのだろうが、教えてくれるはずはない。ここまで洩れないということは、見付けることは困難だろう。そもそもルカスは関わってはならないため、探すことは出来ない。実家にも迷惑が掛かってしまう。

「陛下に話してみますか」
「お父様に言ったら、リオンかマーガレットになってしまうわ」
「ホワイトア公爵家の?」
「そうよ、お姉様が早く戻って来ないからいけないのよ」

 シュアリーが降りれば、アウラージュが戻るではなく、カトリーヌ様は結婚の際に王位継承権を放棄しているため、ホワイトア公爵に移る。

「シュアリー様が降りれば、アウラージュ殿下が戻られるでしょう」
「絶対?」
「ええ、アウラージュ殿下以上に相応しい方はいないでしょうから」
「そうよね!お父様もいずれ戻って来るようなことを言っていたし、それまで頑張れということ?それとも意地悪しているのかしら」
「戻るとおっしゃっていたのですか」
「いつとは言っていなかったけど」
「そうでしたか…」

 ルカスとアウラージュの関係は互いにとても義務的であった。

 好かれているとは思っていなかったが、それでも持っていたはずのものを奪われるのは憎かっただろう。だから私を奪った趣旨返しとして、王位継承権まで放棄したのかもしれないとは思っていた。

 そして自身が行った王太子教育をやらせて、どれだけ辛かったかを体験させ、シュアリーが私には無理でしたと頭を下げて、戻って来て欲しいというのを待っているのではないか。奪われた怒りを晴らそうとしているのかもしれない。

 だが、それがいつなのか。早々に終わらせては面白くないはずだ。

「ホワイトア公爵家に移る前にどうにかしなくてはなりませんね。アウラージュ殿下が王太子、後の王となれば、シュアリー様は王の妹になりますが、公爵家に移ってしまったら、王の妹にはなれません」
「えっ、それは嫌よ」
「待つしかないのかもしれませんね…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...