上 下
11 / 38

摩擦

しおりを挟む
 シュアリーはルカスに言われた通り、陛下に話をすることにした。

「お父様、お姉様にお会いしたの。あまりお話し出来なくて、きちんと話がしたいの、だからどうにかして貰えない?」
「私も何度か連絡を取ろうとしたのだが、出来なかったんだ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、だから会って話をすることは私からは出来ない」
「そんな…」
「だが、いずれ話に来るさ。アウラージュのことは心配しなくていい」

 訪れる何かがあるのだろうか、逃げてしまった、ただ居場所が分からないからと、放置しているわけではないのだろうか。ブルーノ殿下と何を話していたかも聞かなくてはならない、あんなに側に寄ってはならないとも伝えなくてはいけない。

「あと、私の縁談のお相手は誰だったの?」
「は?今さらそんなことを聞いてどうする?お断りしたんだから、関係ないだろう」
「でも、お会いした時に、やっぱりその、謝りたいのよ」
「それは必要ない、相手には誰かは明かしていないと言うと、そのままなかったことにしましょうと言われているからな。謝る必要もない」
「でも…」
「そんなことより、勉強をする方が先だろう。しっかりするんだ、分かったね?」
「はい…」

 教えてくれてもいいじゃないと思いながらも、あまりしつこく聞いて何か疑われるのも嫌だ、お父様を怒らせるのは得策ではない。

 勉強もいつまで続ければいいのだろう。字だって、上手ではないことは分かっていたけど、子どもみたいに練習させられて、恥ずかしいことだと分かっている。メイドにすらお茶を運んで来た際に笑われたような気がする。

 アウラージュがいた頃はシュアリーは外部の接触がほとんどないため、ルカスとの時間が唯一の喜びであった。でもそれも失われてしまった。勉強のことしか話さなくなり、ギスギスした雰囲気になってしまう。

 ルカスもルカスで今まで通りに甘やかしていては何も変わらないため、言うしかない。半年経った今も私には向いていない、頑張るしかないのやり取りの繰り返しだ。

「父上、殿下との関係が悪くなっているのです。このままではうまくいきません。アウラージュ殿下の婚約者になってくれそうな方はいませんか」
「はあ?勝手に決められるわけないだろう」
「ですが、婚約者がいないというのは」
「はあ…お前にそんなことをいう資格があるのか」

 自身の方が上にでもなった気でいるのか。婚約者だったことをなかったかのように言える息子が心から情けない。

「それはそうですが、陛下も考えてらっしゃると」
「陛下は静観してらっしゃるんだろう。まさかっ、勝手に動いていないだろうな?」
「いいえ、そんなことはしておりません」
「ならばいいが、勝手なことをするな。シュアリー殿下も見張って置きなさい、お前たちで責任を取れることではない!」

 そんなことは分かっている、でもルカスには未来が見えなくなっていた。

「シュアリー殿下の教育が進んでいないのです」
「それはそうだろうな、お前も含めて、今まで誰かの力を借りることが当たり前だった人間だ。分かっていただろう?」
「ですが、王女教育はされていますよね」
「陛下も甘やかしていたところはあるが、どこか適したところに嫁がせる気だったのだろう。最低限出来ていればという状態だろう」

 まるでお前に嫁がせる気はなかったからと言われているようだ。王女なのに、下級貴族というわけにはいかなかっただろうに。

「その割には相応しくないと聞きません。いえ、陰では言われているのでしょうか?それともアウラージュ殿下の帰りを待っているのでしょうか?」
「皆が見極めていると思っているのか?」
「違うのですか」
「違わなくもないが、違うともいえる。自分で考えなさい。お前が選んだ人生なのだから、責任を持つべきだろう」

 今までも王配教育をされていたくせに、その言葉はルカスに重くのしかかった。

 2人の大事なはずの僅かな時間も、互いに別のことを考えていることが多くなり、そんな中、学園で天真爛漫な伯爵令嬢が男性に人気があり、ルカスも一緒にいたというメイドの話をシュアリーが耳にすることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

あなたが私を捨てた夏

豆狸
恋愛
私は、ニコライ陛下が好きでした。彼に恋していました。 幼いころから、それこそ初めて会った瞬間から心を寄せていました。誕生と同時に母君を失った彼を癒すのは私の役目だと自惚れていました。 ずっと彼を見ていた私だから、わかりました。わかってしまったのです。 ──彼は今、恋に落ちたのです。 なろう様でも公開中です。

悪役令嬢が残した破滅の種

八代奏多
恋愛
 妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。  そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。  その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。  しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。  断罪した者は次々にこう口にした。 「どうか戻ってきてください」  しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。  何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。 ※小説家になろう様でも連載中です。  9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。  しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。  だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。 ○○sideあり 全20話

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

処理中です...