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被害者家族1

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「あなたは両親が罪人なのよね?それなのに、よく侯爵令嬢よ!なんて、よく言えるわね!ジーリス・ユーフレットの娘よって言った方がいいんじゃない?」
「そうよ、それがいいじゃない」

 メリーアンはごっくんと、唾を飲み込んだ。

 ローラとティナは元々、姉と妹が自殺したことで知り合い、恨みを抱いていた。だが、ジーリス・ユーフレットは亡くなり、恨みは行き場を失った。

 家族へと向かわなかったのは、ジーリスを調べて、自分より上の者には態度が違うことを知っていたからだった。騙されていると言うことに腹が立たないわけではなかったが、酷く恨んではいなかった。

 姉と妹以外に家族のいなかった二人は、一緒に侍女として働いていた。

 だが、今年、実は同じ感情を持つオーロラが死へと導いていたことを知り、ユーフレット侯爵家は賠償をすると聞いたが、そんなことはどうでも良かった。

 二人は家族は、どんな顔をして暮らしているのかが知りたくなった。

 ユーフレット侯爵家は薄暗い雰囲気で、皆、疲れた顔をしていた。だが、唯一、違ったのがメリーアンだった。毎日、メリーアンの文句で盛り上がるほどであった。

「何をするつもりなの?」
「何もしないって言っているでしょう?」
「あなたこそ睡眠薬を飲ませて、一体何をするのかと思ったけど、またローザ公爵家に行くなんて、馬鹿じゃないの。幽閉ならざまあみろね」

 ようやく満足した二人は、メリーアンの拘束を解いた。

「手伝わなくていいなら、もう去りましょう」
「待ちなさいよ!お父様にあなたたちのことを言うわよ!」
「言えば?」
「そもそも、お父様は死んでるじゃない」
「そうだったわね」

 あははと笑いながら、ローラとティナは去って行くが、メリーアンはツートの部屋を訪れて、叫んだ。

「あの侍女二人は、叔父様の被害者の家族だったわよ!どういうことよ!」
「何?」
「本当なの…?」
「家族が叔父様に強姦されて、自殺したって言ってたわ!私、先程、捕まれて床に押し付けられたのよ!暴力よ!暴力!」
「何だって…」
「あなた…」

 ツートとシシラもいつか恨まれて、危害を加えられることもあるかもしれないとは考えており、背筋が震えた。

「復讐しに来たのか?」
「笑いながらどこかに行ったわ」

 使用人と護衛に探させると、ローラとティナは荷造りをしていた。

「あら?もう解雇でございましょう?」
「どちらにしても、メリーアン様は幽閉ですから、もう監視は必要ないでしょう?」

 去ることを決めたローラとティナは、ツートとシシラにも開き直っていた。

「メリーアンの言ったことは、本当なのか?」
「何を言ったか知らないですけど、姉であるマルティナ・デオンが、ジーリス・ユーフレットの被害者であることは事実です。姉は私の唯一の家族でした」
「私は妹、ジーナ・コヒーが強姦され、自殺しました。私には母もいましたが、妹が亡くなって、体を壊して亡くなりましたので、ジーリス・ユーフレットせいで、一人になりました」

 何人もの被害者と会ってはいたが、まさか邸にいるなんて思いもしなかった。

 何人か国を出ているのか、連絡の取れない被害者の家族がいると聞いていた。おそらく、照らし合わせれば、事実だと判明するだろう。

 わざわざ嘘を付く必要がない。

 ローラとティナは紹介所から来て貰った平民の二人で、毅然とした態度を取れる方をと頼み、今日は不可抗力だったが、非常に優秀な侍女であった。

「っ、復讐をしに来たのか?」

 怪しい動きなどはなかったが、もしかしたら何かしていたのだろうか。

「加害者家族が、どう暮らしているのか見に来たのです」
「私たちが見た地獄を、少しでも見ているのか、出来れば苦しんでいるところが見たかったのです」

 ツートとシシラは息が止まり、胸が苦しくなった。
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