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突撃
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少し緊張はしていたが、メリーアンにとっては邸に戻った感覚であったが、オスレ伯爵家はそうではなかった。
「ダリア様は不在です。今はご実家にお帰りください」
対応したのは、良い関係を築いていたはずの執事であった。
「な!ここは私の邸なのよ」
「承知しておりますが、当主様からも、ダリア様からも、今はメリーアン様は、通さないで欲しいと言われております」
「…そんな、私は妻なのよ!私は何もしていないし、悪くないのよ」
「…」
「ダリアが駄目なら、せめてマーガレットに会わせて欲しいの。あの子も私を恋しがっているはずよ」
「そうだとしても…今、ここで騒ぐことも良いことにはならないと、冷静になってお考えください」
せめてもの執事の優しさであり、その言葉にメリーアンも周りを見ると、使用人の視線に気付き、ハッとして、渋々帰ることにした。
ユーフレット侯爵家に戻ると、トーラスが待ち構えていた。愚かな妹ではないと、行動まで制限はしていなかったが、無暗に出掛けていい状況ではない。
「どこへ行っていたんだ?まさかオスレ伯爵家ではないだろうな?」
メリーアンは、分かり易く目を伏せた。
「何をしているんだ!」
「でも、ダリアはいなかったし、入れても貰えなかったわ!通すなって言われているって…」
「だから言ったじゃないか!お前は軽く考えすぎだ…」
「でも、不安なのよ!会わない間に、ダリアは悪い方へ向かっているのではないかと…そう思ってしまうの!」
トーラスはきょうだいではないとしても、離縁は仕方ないことだろうと思っていたが、メリーアンはきょうだいではなかったことで、どうにかなる、どうにかすると思っていることに気付いた。
離縁を覚悟するように言うのは、今のメリーアンには余計に感情を高ぶらせるだけだと思い、口にするのは止めた。
「あちらから連絡があるまで、待ちなさい。それが今、出来ることだ」
「でも…何かしていないとおかしくなりそうなの」
その言葉に、メリーアンは母によく似ているの改めて思った。リアンスと婚約をしてまで、ダリアとの結婚を望み、愛していることに間違いはない。
トーラスにとって、そこまで人を愛せることに、自分の方がおかしいのかと思ったくらいである。
父とメリーアンは、血が繋がっていないかもしれないと聞いた時も、確かに見た目だけではなく、性格も何一つ似ているところがないとは思ってしまった。
メリーアンは母と似ていると言われることをとても嫌がっていた。もしかしたら、同族嫌悪だったのかもしれない。
そして、母娘の違いは好きな人と結婚が出来たか、出来なかったか。
それが大きく運命を変えたが、父と結婚しなければ私もメリーアンも生まれていない。だが、それは母にとっては、不本意なことだったのだろう。
現在ユーフレット侯爵家では、それまでも母はいい扱いではなかったが、あんな者を取り込んでしまったという扱いになって、皆が言いたい放題である。
自慢出来るような母ではなかったが、子育てには意図的に遠ざけられていたことも知っている。それでも、子どもを物のように扱うような人でもなかった。
だが、今となっては物以下だったのかもしれないと思っている。まさかトイズの子どもだと証明するために、二人を応援していたなんて…誰が思うだろう。
愛する人の子かもしれないのに、愛する人の孫を、証明するための道具のように、どうして扱えたのだろうか。もう亡くなってしまっているからだろうか。
私も母にきちんと聞かなくてはならない。
「それでもだ、ダリア殿はもっと辛い。そう考えなさい」
「私だって辛いわ、私の辛さはどうして、誰も分かってくれないの!」
メリーアンは執事にも、トーラスにも私ばかりであった。
そして、数日が経ち、ようやくユーフレット侯爵だけが、王城に呼び出されることになった。
「ダリア様は不在です。今はご実家にお帰りください」
対応したのは、良い関係を築いていたはずの執事であった。
「な!ここは私の邸なのよ」
「承知しておりますが、当主様からも、ダリア様からも、今はメリーアン様は、通さないで欲しいと言われております」
「…そんな、私は妻なのよ!私は何もしていないし、悪くないのよ」
「…」
「ダリアが駄目なら、せめてマーガレットに会わせて欲しいの。あの子も私を恋しがっているはずよ」
「そうだとしても…今、ここで騒ぐことも良いことにはならないと、冷静になってお考えください」
せめてもの執事の優しさであり、その言葉にメリーアンも周りを見ると、使用人の視線に気付き、ハッとして、渋々帰ることにした。
ユーフレット侯爵家に戻ると、トーラスが待ち構えていた。愚かな妹ではないと、行動まで制限はしていなかったが、無暗に出掛けていい状況ではない。
「どこへ行っていたんだ?まさかオスレ伯爵家ではないだろうな?」
メリーアンは、分かり易く目を伏せた。
「何をしているんだ!」
「でも、ダリアはいなかったし、入れても貰えなかったわ!通すなって言われているって…」
「だから言ったじゃないか!お前は軽く考えすぎだ…」
「でも、不安なのよ!会わない間に、ダリアは悪い方へ向かっているのではないかと…そう思ってしまうの!」
トーラスはきょうだいではないとしても、離縁は仕方ないことだろうと思っていたが、メリーアンはきょうだいではなかったことで、どうにかなる、どうにかすると思っていることに気付いた。
離縁を覚悟するように言うのは、今のメリーアンには余計に感情を高ぶらせるだけだと思い、口にするのは止めた。
「あちらから連絡があるまで、待ちなさい。それが今、出来ることだ」
「でも…何かしていないとおかしくなりそうなの」
その言葉に、メリーアンは母によく似ているの改めて思った。リアンスと婚約をしてまで、ダリアとの結婚を望み、愛していることに間違いはない。
トーラスにとって、そこまで人を愛せることに、自分の方がおかしいのかと思ったくらいである。
父とメリーアンは、血が繋がっていないかもしれないと聞いた時も、確かに見た目だけではなく、性格も何一つ似ているところがないとは思ってしまった。
メリーアンは母と似ていると言われることをとても嫌がっていた。もしかしたら、同族嫌悪だったのかもしれない。
そして、母娘の違いは好きな人と結婚が出来たか、出来なかったか。
それが大きく運命を変えたが、父と結婚しなければ私もメリーアンも生まれていない。だが、それは母にとっては、不本意なことだったのだろう。
現在ユーフレット侯爵家では、それまでも母はいい扱いではなかったが、あんな者を取り込んでしまったという扱いになって、皆が言いたい放題である。
自慢出来るような母ではなかったが、子育てには意図的に遠ざけられていたことも知っている。それでも、子どもを物のように扱うような人でもなかった。
だが、今となっては物以下だったのかもしれないと思っている。まさかトイズの子どもだと証明するために、二人を応援していたなんて…誰が思うだろう。
愛する人の子かもしれないのに、愛する人の孫を、証明するための道具のように、どうして扱えたのだろうか。もう亡くなってしまっているからだろうか。
私も母にきちんと聞かなくてはならない。
「それでもだ、ダリア殿はもっと辛い。そう考えなさい」
「私だって辛いわ、私の辛さはどうして、誰も分かってくれないの!」
メリーアンは執事にも、トーラスにも私ばかりであった。
そして、数日が経ち、ようやくユーフレット侯爵だけが、王城に呼び出されることになった。
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