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哀傷1

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 ユーフレット侯爵邸に戻ったメリーアンはそのまま、ベットに寝かされた。起きていても、眠れなかっただろうから、良かったのかもしれないとすら思った。

 眠れないのはトーラスとカーサス・ユーフレット侯爵も同じであった。

「本当にメリーアンが、オスレ前伯爵の子どもだというのですか」

 トーラスも自身は父親に似ていると自覚も、他者からも言われるので、疑いを持ってしまうのは、メリーアンである。

「疑いがあるから調べるのだろう」
「ですが」
「言いたいことは分かっている、だが口にしたくもない」

 夫婦で子を成した二人が兄妹かもしれないということである。だが、恐ろしくて口にもしたくない。

 マーガレットはまだ生まれて間がないというのに、一体どうなってしまうのか。考えたくもない。

「母上は分かっていたんですよね?なのに、どうしてそんなことを…」
「あれの考えることは、もう分かるはずがない。人を殺しているのだぞ?」
「そうですが…」
「頭の悪い女だけではなかったんだな…」

 カーサスはリリーを頭が悪いのだから、大人しくしていろと従わせて来た。

 その中で、リリーはトイズに暴行罪、強制性交罪、マリエルに脅迫罪、殺人教唆罪を行っていたことになる。

 殺意があったということから、もしかしたら殺人罪も適用される可能性もある。

「もう私には何が何だか…私が婚約者もいないことが救いかもしれません」

 トーラスも婚約者がいたのだが、令嬢の家の不正が分かって婚約は白紙になった。メリーアンのように熱い思いではなかったことで、粛々と受け入れた。

 その後は、婚約者を置かなければと思いながらも、二の足を踏んでいた。

 でも今回のことで、我が家も元婚約者と同じ、それ以上となっただろう。

「そうだな…」

 カーサスも慰めるような言葉が見付からなかった。自分は離縁してしまえば関係ないと言えないが、トーラスは母親がリリーだということは変えられない。

「父上は気付いていなかったのですか?」
「気付いていたら、黙っていたと思うか?」
「いいえ、黙ってはいられませんよね」
「オスレ前伯爵に、思うところがあったわけではない。むしろリリーを近づけないようにと思っていた」
「そうだったのですか」

 トーラスはてっきり婚約に反対していたことから、何か思うところがあったのではないかと思っていた。

「ああ、あちらから解消されたのに、そんな者が近付いていい気はしないだろうと思ってな」
「それはそうですよね…」
「まさか近付いていたとは…ご両親も亡くなられているし、申し訳が立たん」
「ダリア殿は、ローザ公爵夫妻と、ランドマーク前侯爵から、聞かされたということでしょうか」
「ああ、そのように聞いている」

 トーラスは迎えに行った際に、4人がいたので、そういうことだったのだろうと思った。

「ロス伯爵家には…?」

 ロス伯爵家は、リリーの生家である。

「ああ、あちらも知らされている」
「そうですか…」

 祖父は怒り狂っていることは、想像は容易い。

「まずは鑑定を受けてハッキリさせてからだな。その後で決めよう」
「離縁されるのですよね?」
「ああ、それは避けられない。眠れないかもしれないが、明日も王城に行かなくてはならないから、体を休めよう」
「そうですね…」

 二人は目を瞑ったまま、眠れたという感覚はなかったが、休んだ。

 翌日、トーラスが起きると、メリーアンは食堂にはいなかった。

 使用人には父が執事にだけ事情を話して、困惑することを聞くかもしれないが、全て分かるまで、今まで通り勤めて欲しいとお願いしてある。

「メリーアン、起きれるか?」
「…お兄様、昨日のことは現実なのですよね?」
「…ああ」
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