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手紙3
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「ああ、報告書に馬を調べたようなことは書いていなかった。馬車の不具合で、馬が驚いて転倒したとなっていた」
「なぜだ?」
馬車の事故は、馬車自体もだが、御者も馬も、調べることが基本である。
「調査書にもなかった」
「誰かが隠した?」
「もしくは事故で、それ以上調べることをさせなかったのかもしれない」
「トイズは、納得したのだろうか…ああ、そうだ!思い出した。確かあの馬は、トイズが幼い頃から可愛がっていた馬だった…」
バークスはトイズから事故の話は聞いていた。当たり前だが憔悴しきっており、妻のことも、大事にしていた馬のことも、悲しそうに話していた。
「それならば、特に調べたのではありませんか?」
「いや、もし馬が何か盛られたとしても、馬が原因となれば、処分される。原因でないならば、処分されないということになっている」
「そんな…」
馬のせいではないのに、処分される。殺すということだろう。
「それでトイズか、いや、おそらくマリエル夫人が止めたのかもしれない…」
「マリエルなら、そうするかもしれないわ」
「自分が死ぬかもしれない時にですか」
「そうは思っていなかったのよ」
スノーは事故の怪我で、死を感じていたのだと思っていた。
「見た目の怪我は骨折程度だったの、でも実は頭を打っていて、それが原因で急に亡くなったの」
「そう、だったのですか…」
「ええ、ますますリリーが疑わしいわね。御者から話は聞けないの?」
「御者はもう亡くなっておりました。あの事故に責任を感じて、御者を辞め、その後に病気で。だが、スノー。その御者はトーマの父親だった。おそらく、それでトイズが面倒を看ていたのだろう」
ヒューナに、トーマは現在は墓守をしており、メリーアンとスノーを間違えた人物だと説明がされた。
「それで、父親から何か聞いていないか、トーマに話を聞きに行ってみた。だが、父親から聞いたのは、馬が暴れて転倒したことだけだった」
「証拠が本当にないのね」
「ですが、行きは何も問題はなかったこと、帰り道で急に暴れだしたと話していたそうです」
「確か、マリエルはお茶会に行った帰りでしたわね。可能性はそこで何か盛られたのかもしれない…しっかり調べるべきだったのよ」
馬を大事にしていた気持ちは分かるが、きちんと調べて、交渉をすれば良かった。
「ただ御者が席を外しても、他の招待客もいたはずですから、他の御者もいたことになる」
「だがその中に、買収でもされた者がいたら…」
「はい、リリー夫人は誘われていない茶会です」
「そうでしょうね、でもマリエルを狙って、入り込むか、息のかかったものを仕向けていたら…ああもう、疑わしくて堪らないわ」
今まで話さなかったのは、ヒューナは苛立ちを抑えられないだろうと思ってのことだった。出来れば、全てが判明してから話したかったと、バークスは思っていた。
「確か、ビュータ伯爵家の茶会でしたわよね?」
「ええ」
「私が調べるわ、出席者と、可能であれば御者も」
「私も手伝おう」
「ありがとう、でももしリリーがマリエルを殺したと分かったら、いえ、証拠は出なくとも疑っていると知ったら、ダリアとメリーアンは変わらずにれるかしら?」
複雑な事情の上に、浮かび上がった新たな問題であった。
誰もがそのことに気付きながらも、別の話のようで、結局は繋がってしまうという状況に陥っていた。
「私も、そのことを考えていました」
話し始めたのは、リアンスであった。
「ダリアは両親を幼い頃に亡くしているので、思い入れは強いはずです。大変失礼だが、自分に置き換えてみたが、いくら好いていても妻の母親だとしたら、関係ないとは思えないのではないかと…私は思いました。スノーはどうだ?」
「私なら自分の母親が殺した相手の息子と、いくら好きでも結婚は続けられません」
「なぜだ?」
馬車の事故は、馬車自体もだが、御者も馬も、調べることが基本である。
「調査書にもなかった」
「誰かが隠した?」
「もしくは事故で、それ以上調べることをさせなかったのかもしれない」
「トイズは、納得したのだろうか…ああ、そうだ!思い出した。確かあの馬は、トイズが幼い頃から可愛がっていた馬だった…」
バークスはトイズから事故の話は聞いていた。当たり前だが憔悴しきっており、妻のことも、大事にしていた馬のことも、悲しそうに話していた。
「それならば、特に調べたのではありませんか?」
「いや、もし馬が何か盛られたとしても、馬が原因となれば、処分される。原因でないならば、処分されないということになっている」
「そんな…」
馬のせいではないのに、処分される。殺すということだろう。
「それでトイズか、いや、おそらくマリエル夫人が止めたのかもしれない…」
「マリエルなら、そうするかもしれないわ」
「自分が死ぬかもしれない時にですか」
「そうは思っていなかったのよ」
スノーは事故の怪我で、死を感じていたのだと思っていた。
「見た目の怪我は骨折程度だったの、でも実は頭を打っていて、それが原因で急に亡くなったの」
「そう、だったのですか…」
「ええ、ますますリリーが疑わしいわね。御者から話は聞けないの?」
「御者はもう亡くなっておりました。あの事故に責任を感じて、御者を辞め、その後に病気で。だが、スノー。その御者はトーマの父親だった。おそらく、それでトイズが面倒を看ていたのだろう」
ヒューナに、トーマは現在は墓守をしており、メリーアンとスノーを間違えた人物だと説明がされた。
「それで、父親から何か聞いていないか、トーマに話を聞きに行ってみた。だが、父親から聞いたのは、馬が暴れて転倒したことだけだった」
「証拠が本当にないのね」
「ですが、行きは何も問題はなかったこと、帰り道で急に暴れだしたと話していたそうです」
「確か、マリエルはお茶会に行った帰りでしたわね。可能性はそこで何か盛られたのかもしれない…しっかり調べるべきだったのよ」
馬を大事にしていた気持ちは分かるが、きちんと調べて、交渉をすれば良かった。
「ただ御者が席を外しても、他の招待客もいたはずですから、他の御者もいたことになる」
「だがその中に、買収でもされた者がいたら…」
「はい、リリー夫人は誘われていない茶会です」
「そうでしょうね、でもマリエルを狙って、入り込むか、息のかかったものを仕向けていたら…ああもう、疑わしくて堪らないわ」
今まで話さなかったのは、ヒューナは苛立ちを抑えられないだろうと思ってのことだった。出来れば、全てが判明してから話したかったと、バークスは思っていた。
「確か、ビュータ伯爵家の茶会でしたわよね?」
「ええ」
「私が調べるわ、出席者と、可能であれば御者も」
「私も手伝おう」
「ありがとう、でももしリリーがマリエルを殺したと分かったら、いえ、証拠は出なくとも疑っていると知ったら、ダリアとメリーアンは変わらずにれるかしら?」
複雑な事情の上に、浮かび上がった新たな問題であった。
誰もがそのことに気付きながらも、別の話のようで、結局は繋がってしまうという状況に陥っていた。
「私も、そのことを考えていました」
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「ダリアは両親を幼い頃に亡くしているので、思い入れは強いはずです。大変失礼だが、自分に置き換えてみたが、いくら好いていても妻の母親だとしたら、関係ないとは思えないのではないかと…私は思いました。スノーはどうだ?」
「私なら自分の母親が殺した相手の息子と、いくら好きでも結婚は続けられません」
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