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友人
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マリー様という言葉にオリラは、僅かながら反応を示した。
「息子様のダリア様です。覚えてらっしゃいますか?」
「…」
「叔母様は会ったことがありますか?」
「…」
返事をしてくれないことはいつものことで、スノーが一方的に話すだけである。今日は、少しでも反応があるだけいい方である。
「あまり似てはいらっしゃいませんでしたが、穏やかなところは同じでした」
「…」
「写真を見せてもらって、初めてマリー様がお母様だと知ったのです。それでとても驚いてしまって、叔母様に話したいと思って今日は来たのです」
「…」
「マリー様は温かくて、とても優しい方でしたね」
「…」
スノーはもしかしたらと思い、聞いてみたいことがあった。マリエルの知り合いであれば、リリーのことを知っている可能性がある。
今までは年齢が違うからと思っていたが、マリエルから、夫の前の婚約者として、聞いたことがあるのではないか。
もしかしたら、嫌がらせを受けていたかもしれない。
「叔母様、リリー様はご存知ですか?リリー・ユーフレット様です」
オリラの身体がビクっとしたのを見逃さなかった。次の瞬間、オリラの身体は弾むように動き出し、何かを探しているかのように、左右に動き出してしまった。
「叔母様っ!」
スノーはいつもは近付いたりしないが、立ち上がって、オリラの側に向かい、両手を掴んで、ぎゅっと握った。
「大丈夫ですか?」
「あの女は駄目…」
オリラの声を聞いたのは、もう何年前だったかと思い出していた。
心を壊したと言っても、最初は会話というほどではないが、言葉は発していた。だが、いつからか声を出すこともなくなってしまった。
それからはスノーは、最近あったことなどを一方的に話すだけだった。
「何かあったのですか?」
「マリーを殺したのは、あの女よ」
オリラはスノーと目を合わせることはせず、視線を彷徨わせながら、話した。
「え?でも事故だと…お祖母様もそう言っていましたよ」
「絶対にあの女なの。証拠がないの、証拠が」
「マリー様は嫌がらせを、受けたりしていたのですか?」
オリラに嫌がらせなどの話は避けていたが、聞かなくてはならないと思った。
「そうよ、別れろとか、殺してやるとか」
「殺してやると…?」
「そうよ、手紙を送りつけていたの、でもあの女だという証拠がないの」
オリラは立ち上がって、ゆっくりとした歩みで、机の一番下の引き出しから、缶の箱を取り出して、スノーに受け取るように差し出した。
「そこに、手紙が入ってる…私は、私は、弱虫で、何も出来ない女だから、何も出来なかった!ごめんなさい、マリー、マリー、ごめんなさい」
そう言うと、オリラは床に倒れ込んで、子どもの様に泣き出した。
スノーは立ち尽くしていたが、オリラの呼吸がヒュッヒュと言い出し、苦しそうになったために、使用人を呼んで、ベットに運んで貰った。
すると、オリラはすうすうと眠り出した。
使用人が祖母にも知らせたようで、メイラも慌てた様子で、やって来た。
「どうしたの、泣き出すなんて…いつ以来かしら」
メイラも感情を表したオリラに驚いており、スノーは経緯を全て話した。
「リリー夫人と面識は?」
「いいえ、全く関わりがないわ。でもその缶は覚えているわ、マリエル様がオリラが戻ってから、訪ねて来られた際に、持って来てくださったクッキーの缶だわ」
「そうだったのですか…」
オリラにとっては、特別な缶だったのだろう。
「中は見たの?」
「いえ、叔母様が苦しそうにされ出したので」
「見てみましょう」
「はい…」
缶を開けると、そこには封筒にマリエル・オスレと書かれた手紙が入っていた。
「叔母様が預かったということでしょうか?」
「でも嫌なことが書いてあるなら、心を壊したオリラに渡すかしら?」
「息子様のダリア様です。覚えてらっしゃいますか?」
「…」
「叔母様は会ったことがありますか?」
「…」
返事をしてくれないことはいつものことで、スノーが一方的に話すだけである。今日は、少しでも反応があるだけいい方である。
「あまり似てはいらっしゃいませんでしたが、穏やかなところは同じでした」
「…」
「写真を見せてもらって、初めてマリー様がお母様だと知ったのです。それでとても驚いてしまって、叔母様に話したいと思って今日は来たのです」
「…」
「マリー様は温かくて、とても優しい方でしたね」
「…」
スノーはもしかしたらと思い、聞いてみたいことがあった。マリエルの知り合いであれば、リリーのことを知っている可能性がある。
今までは年齢が違うからと思っていたが、マリエルから、夫の前の婚約者として、聞いたことがあるのではないか。
もしかしたら、嫌がらせを受けていたかもしれない。
「叔母様、リリー様はご存知ですか?リリー・ユーフレット様です」
オリラの身体がビクっとしたのを見逃さなかった。次の瞬間、オリラの身体は弾むように動き出し、何かを探しているかのように、左右に動き出してしまった。
「叔母様っ!」
スノーはいつもは近付いたりしないが、立ち上がって、オリラの側に向かい、両手を掴んで、ぎゅっと握った。
「大丈夫ですか?」
「あの女は駄目…」
オリラの声を聞いたのは、もう何年前だったかと思い出していた。
心を壊したと言っても、最初は会話というほどではないが、言葉は発していた。だが、いつからか声を出すこともなくなってしまった。
それからはスノーは、最近あったことなどを一方的に話すだけだった。
「何かあったのですか?」
「マリーを殺したのは、あの女よ」
オリラはスノーと目を合わせることはせず、視線を彷徨わせながら、話した。
「え?でも事故だと…お祖母様もそう言っていましたよ」
「絶対にあの女なの。証拠がないの、証拠が」
「マリー様は嫌がらせを、受けたりしていたのですか?」
オリラに嫌がらせなどの話は避けていたが、聞かなくてはならないと思った。
「そうよ、別れろとか、殺してやるとか」
「殺してやると…?」
「そうよ、手紙を送りつけていたの、でもあの女だという証拠がないの」
オリラは立ち上がって、ゆっくりとした歩みで、机の一番下の引き出しから、缶の箱を取り出して、スノーに受け取るように差し出した。
「そこに、手紙が入ってる…私は、私は、弱虫で、何も出来ない女だから、何も出来なかった!ごめんなさい、マリー、マリー、ごめんなさい」
そう言うと、オリラは床に倒れ込んで、子どもの様に泣き出した。
スノーは立ち尽くしていたが、オリラの呼吸がヒュッヒュと言い出し、苦しそうになったために、使用人を呼んで、ベットに運んで貰った。
すると、オリラはすうすうと眠り出した。
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「リリー夫人と面識は?」
「いいえ、全く関わりがないわ。でもその缶は覚えているわ、マリエル様がオリラが戻ってから、訪ねて来られた際に、持って来てくださったクッキーの缶だわ」
「そうだったのですか…」
オリラにとっては、特別な缶だったのだろう。
「中は見たの?」
「いえ、叔母様が苦しそうにされ出したので」
「見てみましょう」
「はい…」
缶を開けると、そこには封筒にマリエル・オスレと書かれた手紙が入っていた。
「叔母様が預かったということでしょうか?」
「でも嫌なことが書いてあるなら、心を壊したオリラに渡すかしら?」
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