40 / 154
糸口
しおりを挟む
「そうですか...てっきり、いえ、不躾なことを言って、申し訳ございませんでした」
「...染めています」
「本当ですか?失礼ですが、何色ですか?」
「…ブロンドです」
「スノー様ですか?」
その言葉にさらにスノーは大きく目を見開いた。
「…は、はい、なぜですか?」
「正確にはカーラさんの墓を訪ねる若いご令嬢で、ブロンド、薄いブルーの瞳のスノー様という名前だと伺っておりました。絶対に怯えさせるようなことをしないようにとも…お一人でなくて良かったです」
トーマは女性一人に中年男性が近付いて、怯えさせるなというのは無理だろうと思っていた。だが、ようやく現実となって、貴族令嬢なら一人で来ることはないのかと、ようやく思い至った。
「カーラさんから?」
「はい、言伝を預かっています」
「言伝、ですか?」
「アンダーソン弁護士事務所の、ダオラ弁護士を訪ねてくださいと」
「アンダーソン弁護士事務所?」
聞き返したのはアンリだった。アンダーソン弁護士事務所は、アンリの生家であるダマス公爵が代々経営をしている事務所だった。
瞬時にスノーに絶対に不利益にならない、事務所として、我がアンダーソン弁護士事務所にしたのだろうと思った。
「はい、出来れば信頼の出来る方と行っていただきたいと言われておりましたが、そこは大丈夫そうですね」
一人だったら、信頼の出来る方と向かう様に伝えて欲しいと言われていたが、これだけの人と一緒にいるのであれば、大丈夫だろうと見渡した。
「…はい」
「それだけお伝えするように、申し付かっております」
「あなたはカーラさんのお知り合い?」
「はい、トイズ・オスレ様とカーラ様に世話になった者です。今はそこの小さな家で、墓守をしながら暮らしております」
トーマが指差した先には家があり、窓から墓が良く見えるだろうと思った。
「そう、分かったわ」
アンリもアンダーソン弁護士事務所、トイズ・オスレの名前が出た以上、デタラメを言っているわけではないことは明らかであった。
「いえ、ようやくお会い出来て、私も肩の荷がおりました」
「他に誰か来たのかしら?」
「いいえ、お若いご令嬢は初めてです。ですから、慌てて飛び出して来まして、このような格好で申し訳ございません」
横にある小さな畑を耕していたのではないだろうかという風体であった。
「いえ、ありがとうございました」
「こちらこそ、お伝え出来て良かったです」
男性は頭を下げて、満足そうに去って行った。
「カーラさんは、あなたが来ると思っていたのね…」
「もっと早くに…」
「今さら言っても仕方ないわ、もしかしたら、来なかったらそれはそれでと思っていたのかもしれない。アンダーソン弁護士事務所も、私に繋がるようになっていたのでしょうね」
スノーはカーラの墓に、項垂れるしかなかった。
あの優しい表情をしたカーラは、きっとトイズの叶えられなかったことを、念のために私に託そうとしたのだと思った。
もっと早くにせめて、生きている間に訪ねていたら、彼女を知ることは容易だったはずなのに、何もしなかった。
二人は馬車に乗り、ランドマーク侯爵家に戻ることにした。アンリはただの思い付きではあったが、まさか手掛かりが見付かるとは思わず、興奮していた。
「髪色を戻します」
「アンダーソン弁護士事務所なら大丈夫よ」
「それは、分かっています」
アンリがいる以上、スノー・レリリスだと証明は出来るので、ブロンドでないからと門前払いされることはないが、髪色を戻そうと決めた。
そして、次の言葉を言うべきか悩んだが、もう逃げていても仕方ないと腹を括ったのだと、アンリに話すことにした。
「...染めています」
「本当ですか?失礼ですが、何色ですか?」
「…ブロンドです」
「スノー様ですか?」
その言葉にさらにスノーは大きく目を見開いた。
「…は、はい、なぜですか?」
「正確にはカーラさんの墓を訪ねる若いご令嬢で、ブロンド、薄いブルーの瞳のスノー様という名前だと伺っておりました。絶対に怯えさせるようなことをしないようにとも…お一人でなくて良かったです」
トーマは女性一人に中年男性が近付いて、怯えさせるなというのは無理だろうと思っていた。だが、ようやく現実となって、貴族令嬢なら一人で来ることはないのかと、ようやく思い至った。
「カーラさんから?」
「はい、言伝を預かっています」
「言伝、ですか?」
「アンダーソン弁護士事務所の、ダオラ弁護士を訪ねてくださいと」
「アンダーソン弁護士事務所?」
聞き返したのはアンリだった。アンダーソン弁護士事務所は、アンリの生家であるダマス公爵が代々経営をしている事務所だった。
瞬時にスノーに絶対に不利益にならない、事務所として、我がアンダーソン弁護士事務所にしたのだろうと思った。
「はい、出来れば信頼の出来る方と行っていただきたいと言われておりましたが、そこは大丈夫そうですね」
一人だったら、信頼の出来る方と向かう様に伝えて欲しいと言われていたが、これだけの人と一緒にいるのであれば、大丈夫だろうと見渡した。
「…はい」
「それだけお伝えするように、申し付かっております」
「あなたはカーラさんのお知り合い?」
「はい、トイズ・オスレ様とカーラ様に世話になった者です。今はそこの小さな家で、墓守をしながら暮らしております」
トーマが指差した先には家があり、窓から墓が良く見えるだろうと思った。
「そう、分かったわ」
アンリもアンダーソン弁護士事務所、トイズ・オスレの名前が出た以上、デタラメを言っているわけではないことは明らかであった。
「いえ、ようやくお会い出来て、私も肩の荷がおりました」
「他に誰か来たのかしら?」
「いいえ、お若いご令嬢は初めてです。ですから、慌てて飛び出して来まして、このような格好で申し訳ございません」
横にある小さな畑を耕していたのではないだろうかという風体であった。
「いえ、ありがとうございました」
「こちらこそ、お伝え出来て良かったです」
男性は頭を下げて、満足そうに去って行った。
「カーラさんは、あなたが来ると思っていたのね…」
「もっと早くに…」
「今さら言っても仕方ないわ、もしかしたら、来なかったらそれはそれでと思っていたのかもしれない。アンダーソン弁護士事務所も、私に繋がるようになっていたのでしょうね」
スノーはカーラの墓に、項垂れるしかなかった。
あの優しい表情をしたカーラは、きっとトイズの叶えられなかったことを、念のために私に託そうとしたのだと思った。
もっと早くにせめて、生きている間に訪ねていたら、彼女を知ることは容易だったはずなのに、何もしなかった。
二人は馬車に乗り、ランドマーク侯爵家に戻ることにした。アンリはただの思い付きではあったが、まさか手掛かりが見付かるとは思わず、興奮していた。
「髪色を戻します」
「アンダーソン弁護士事務所なら大丈夫よ」
「それは、分かっています」
アンリがいる以上、スノー・レリリスだと証明は出来るので、ブロンドでないからと門前払いされることはないが、髪色を戻そうと決めた。
そして、次の言葉を言うべきか悩んだが、もう逃げていても仕方ないと腹を括ったのだと、アンリに話すことにした。
1,784
お気に入りに追加
2,858
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
元使用人の公爵様は、不遇の伯爵令嬢を愛してやまない。
碧野葉菜
恋愛
フランチェスカ家の伯爵令嬢、アンジェリカは、両親と妹にいない者として扱われ、地下室の部屋で一人寂しく暮らしていた。
そんな彼女の孤独を癒してくれたのは、使用人のクラウスだけ。
彼がいなくなってからというもの、アンジェリカは生きる気力すら失っていた。
そんなある日、フランチェスカ家が破綻し、借金を返すため、アンジェリカは娼館に売られそうになる。
しかし、突然現れたブリオット公爵家からの使者に、縁談を持ちかけられる。
戸惑いながらブリオット家に連れられたアンジェリカ、そこで再会したのはなんと、幼い頃離れ離れになったクラウスだった――。
8年の時を経て、立派な紳士に成長した彼は、アンジェリカを妻にすると強引に迫ってきて――!?
執着系年下美形公爵×不遇の無自覚美人令嬢の、西洋貴族溺愛ストーリー!
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる