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過去3

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「いい子だ。きっと君の人生はいいものになる。大丈夫だ」
「何か、お礼を…」
「じゃあ、もし会うことがあって、私だと分かったら、今度は助けてくれるかな」
「はい、早く治してくださいね」
「ああ、ありがとう」

 これがトイズとした最期の会話だった。怪我ではなく、病気だったのだ。

 2日間を過ごし、女性に連れられて、保護したと騎士団に連れて行かれた。

 一緒にいた女性は声が出せない方だった。行くまでの馬車で、スノーにずっと優しい笑顔を向けて、手を繋いでいてくれた。

 騎士団に着くと、彼女は手紙を差し出して、騎士団員が慌ただしく動いていた。レリリス伯爵家から捜索願も出されていなかったことは後から聞いた。

 私は何があったか聞かれて、茶会の帰りの馬車で、途中で降ろされて置き去りにされ、彷徨っていたところを保護して貰い、眠ってしまって、今日連れて来てもらったとだけ話した。

 8歳の子どもだったので、信用されないということはなかった。

 そして、両親は私がいないことにも気付いておらず、それなのに母親に抱きしめられることになるが、そこにはランドマーク前侯爵夫妻が騎士団から連絡を貰って、迎えに来てくれたのだ。

 おそらく、トイズの機転で、一番爵位の高いランドマーク侯爵家に、連絡をするように書かれていたのだろう。

 あの日、頻繁に熱を出していた兄の看病をしていた両親は、スノーがいないことに気付いていなかった。しかも、いないと気付いたのは、連絡があってからであった。

 スノーはそういう存在だったと言わざる得ない。ゆえに家族は負い目がある。

 あの後、レリリス前伯爵夫妻も呼ばれて、両親は互いの両親に酷く叱られた。

 両親はこれからはちゃんとすると言ったが、しばらくは離れて暮らした方が良いと、レリリス前伯爵夫妻も引き取ると言ってくれたようだが、ランドマーク侯爵家で過ごすことになった。

 ランドマーク前侯爵夫妻には、どんな生活であったかを全て話した。

 兄に付きっ切りで、食事も言わないと出て来ない、一緒に食事をするのも月に数回あるかないか。侍女もいなかったこと。

 さすがに心配してくれるのではないかと思ったが、気付いてもいなかったことに、私は両親を親だと思うことを諦めたのだ。

 トイズ・オスレのことは一切、誰にも言わなかった。

 そして両親とは時折面会はしたが、学園に通うまでの間、祖父母の邸で過ごし、入学前に生家に戻ったが、もう自分の家という感覚はなくなっていた。

 私は当分の間、ランドマーク侯爵家に来る客の中に、トイズを探していた。だが、成長してからは迷惑を掛けることになったらと思って、控えるようになった。

 それでもいつか会えると思っていた。

 ローザ公爵家でトイズの写真を見た時は心が久し振りに踊った。でも、すぐさまもう会えないことを知らされた。

 私が似ているという感覚を持っていたら、ダリアを見た時に、何か感じれたかもしれない。でも全く分からなかった。

 トイズは運命という言葉を信じたくはないけど、信じるように使っていた。

 そして、ブロンド。

 それは、私の本来の髪色だった。だが、アンリ夫人に、もしも意図的に置き去りにされたのならば、狙われたのかもしれないと、髪を染めていたのだ。

 あの時、置き去りにした御者は、誰か分からないまま見付かっていなかったからだ。そして、今も見付かっていない。

 公にもなっておらず、事件とも言えないが、御者が見付かっていないことが、事件性を拭えないところであった。

 スノーはブロンドからダークブロンドへ。今は戻してもいいとも思うが、もうダークブロンドの方が長くなり、染め続けている。

 そして、トイズがあの女性に言った言葉で、思い出したものがあった。

「私と同じではない」

 トイズの髪はスノーと同じブロンドだった。あれは何だったのか。
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