14 / 154
思い
しおりを挟む
「実はスノー嬢には一度、縁談を既に申し込み、爵位のことで断られています」
アンリ夫人は黙ったまま、何度か頷いた。リアンスが訊ねて来た理由が、納得出来たのだろう。
「その際にレリリス伯爵は妹はどうかと父に言ったそうです。だから優秀なのだと思っていたら、散々でした」
「レリリス伯爵は、そのようなことを考えもせずに言っているのだと思いますよ。それこそ公爵家に嫁げるなんて幸運だと思っていたのでしょう」
「そういった方だったのですね」
公爵相手に考えなしで口にしていたのか、いつか足をすくわれなければいいがと思ってしまった。
「私の妹のことはご存知でしょう?」
「…は、い」
「言い辛いわよね、もう昔の記憶という気持ちですから。それでも妹という存在だけで、過敏になってはしまいます。勘違いかもしれないとも思っていたのですよ。スノーに私のような思いをさせたくはありませんからね」
リアンスはスノーもアンリ夫人も姉妹の姉という立場で、もしスノーが蔑ろにされていたのであれば、自分の境遇と重ねたのではないかと、その時にようやく気付いた。受け入れることも、理解があったのかもしれない。
「やはりお好きですよね?」
「私も夫も、幸せになって欲しいとは思っています。8年も見て来たのですから」
「前侯爵様も?」
「ええ、娘さんたちのことも気にはしていたのですよ。でも、侯爵家という立場が邪魔をしたのです。私と再婚してからは、遠慮もしたのでしょう」
「そうでしたか…」
娘は二人は子爵家に行き、親族からも色々あったそうだから、会うことなど出来なかったのだろう。そして、再婚してからは妻に悪いと思っていた、それでも何も思わないからではなかった。
父親同士は仲が良くとも、その後の侯爵家と子爵家がどのような関係だったかは分からないが、親しいという話を聞いたことはない。
「目的は縁談を纏めて欲しいというところでしょうか?」
「夫人も心を読めるのですか?」
「ふふ、ですが纏めることはしません」
リアンスはあわよくばとは思っていたが、そこまでは期待していなかったので、落胆することはなかった。
「やはり反対ですか?」
「いいえ、そうではなく、嫁ぐのはスノーですから、スノーの意思が必要でしょう。特に公爵家ともなれば、何とかなるでは済みません」
「よく分かっておいでですよね」
「少なからず存じています。ここまで聞きに来たことは、それだけ真剣であることは、私には伝わりました。スノーを呼び出せば、何事かと思うでしょうから、手紙を書いて送っておきましょう。書いてもいいのですよね?」
「はい、言わずに来ましたが、書いてただいて構いません」
スノーに了承を得て来ているとは思っていなかったが、知られることは覚悟の上だろうと見抜いていた。
「ただし、スノーの思いは複雑だということは理解してください」
「複雑?」
「あの子はれっきとした伯爵令嬢でありながら、8歳まではレリリス伯爵家、8歳からはここにいました。大人の都合でです。おかげで達観したようになりました」
「確かに、そう思います」
スノーと話していると、どこか律しているような、諦めているような、そんな気持ちにさせられることがある。
「大人に甘えることもなく、この程度がいいと、穏便に過ごしたいと思っていたと思います。それも頭に入れて置いて欲しいのです」
「承知しました。本日はお会いいただき、ありがとうございました」
「いいえ、本来なら私とあなたの方が血は近いですからね」
歴史を辿れば、ローザ公爵家とダマス公爵家が婚姻を結んだことも何度かある。
「私は今は賛成も反対もしません。そう思っていてください」
リアンスは深く頷き、ランドマーク侯爵家を後にした。
アンリ夫人は黙ったまま、何度か頷いた。リアンスが訊ねて来た理由が、納得出来たのだろう。
「その際にレリリス伯爵は妹はどうかと父に言ったそうです。だから優秀なのだと思っていたら、散々でした」
「レリリス伯爵は、そのようなことを考えもせずに言っているのだと思いますよ。それこそ公爵家に嫁げるなんて幸運だと思っていたのでしょう」
「そういった方だったのですね」
公爵相手に考えなしで口にしていたのか、いつか足をすくわれなければいいがと思ってしまった。
「私の妹のことはご存知でしょう?」
「…は、い」
「言い辛いわよね、もう昔の記憶という気持ちですから。それでも妹という存在だけで、過敏になってはしまいます。勘違いかもしれないとも思っていたのですよ。スノーに私のような思いをさせたくはありませんからね」
リアンスはスノーもアンリ夫人も姉妹の姉という立場で、もしスノーが蔑ろにされていたのであれば、自分の境遇と重ねたのではないかと、その時にようやく気付いた。受け入れることも、理解があったのかもしれない。
「やはりお好きですよね?」
「私も夫も、幸せになって欲しいとは思っています。8年も見て来たのですから」
「前侯爵様も?」
「ええ、娘さんたちのことも気にはしていたのですよ。でも、侯爵家という立場が邪魔をしたのです。私と再婚してからは、遠慮もしたのでしょう」
「そうでしたか…」
娘は二人は子爵家に行き、親族からも色々あったそうだから、会うことなど出来なかったのだろう。そして、再婚してからは妻に悪いと思っていた、それでも何も思わないからではなかった。
父親同士は仲が良くとも、その後の侯爵家と子爵家がどのような関係だったかは分からないが、親しいという話を聞いたことはない。
「目的は縁談を纏めて欲しいというところでしょうか?」
「夫人も心を読めるのですか?」
「ふふ、ですが纏めることはしません」
リアンスはあわよくばとは思っていたが、そこまでは期待していなかったので、落胆することはなかった。
「やはり反対ですか?」
「いいえ、そうではなく、嫁ぐのはスノーですから、スノーの意思が必要でしょう。特に公爵家ともなれば、何とかなるでは済みません」
「よく分かっておいでですよね」
「少なからず存じています。ここまで聞きに来たことは、それだけ真剣であることは、私には伝わりました。スノーを呼び出せば、何事かと思うでしょうから、手紙を書いて送っておきましょう。書いてもいいのですよね?」
「はい、言わずに来ましたが、書いてただいて構いません」
スノーに了承を得て来ているとは思っていなかったが、知られることは覚悟の上だろうと見抜いていた。
「ただし、スノーの思いは複雑だということは理解してください」
「複雑?」
「あの子はれっきとした伯爵令嬢でありながら、8歳まではレリリス伯爵家、8歳からはここにいました。大人の都合でです。おかげで達観したようになりました」
「確かに、そう思います」
スノーと話していると、どこか律しているような、諦めているような、そんな気持ちにさせられることがある。
「大人に甘えることもなく、この程度がいいと、穏便に過ごしたいと思っていたと思います。それも頭に入れて置いて欲しいのです」
「承知しました。本日はお会いいただき、ありがとうございました」
「いいえ、本来なら私とあなたの方が血は近いですからね」
歴史を辿れば、ローザ公爵家とダマス公爵家が婚姻を結んだことも何度かある。
「私は今は賛成も反対もしません。そう思っていてください」
リアンスは深く頷き、ランドマーク侯爵家を後にした。
1,830
お気に入りに追加
2,837
あなたにおすすめの小説
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【完結】たとえあなたに選ばれなくても
神宮寺 あおい@受賞&書籍化
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。
伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。
公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。
ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。
義母の願う血筋の継承。
ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。
公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。
フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。
そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。
アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。
何があってもこの子を守らなければ。
大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。
ならば私は去りましょう。
たとえあなたに選ばれなくても。
私は私の人生を歩んでいく。
これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読む前にご確認いただけると助かります。
1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです
2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。
読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる