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罪悪感

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「そう、だったのですか」
「ああ、てっきりランドマーク侯爵家の令嬢だと思っていた。おそらく、君が10歳くらいだろうか。それで婚約を打診したいと父上にも話した」

 スノーもそんなに前だからだったとは思っておらず、いつか飽きるだろうと思っていたことに、罪悪感が込み上げては来たが、スノーにも譲れないものがある。

「そうしたら、令嬢はいないと言われてね。ランドマーク侯爵家にも聞いたが、分からないと言われた。意図的に隠されていたのか、君がランドマーク侯爵家には関係ないとされたのか…」

 リアンスはスノーの答えを待つように、じっと見つめた。

「実際、私はランドマーク侯爵家の者ではありませんから、そう言ったのではないでしょうか」
「そうか、それで君を学園で見掛けた。面影というより、顔立ちは変わっていなかったから、すぐに分かった。だが、私は婚約者がある身だったから…婚約などしていなければと思ったが、今さら言っても仕方ない」

 スノーは何と答えればいいか分からず、困った時は余計なことを、言わない方がいいだろうと黙ったままだった。

「ランドマーク侯爵家で、辛い目に遭っていたのではないか?」

 歓迎された存在ではなかっただろうが、居心地が良かったわけではないが、居候としては相応しい待遇だと思っていた。

「そのようなことはありません」
「本当か?前侯爵夫人は厳しい方だと聞いている」

 アンリ・ランドマークは、ダマス公爵家の長女だった。

 その後、ビアート公爵家に嫁いだが、二年後に妹と夫が不貞を犯し、離縁した。その後、元夫と妹の結婚は認められず、妹は他国に嫁がされ、元夫も嫡男を外されて、今の公爵は彼の子ではない。

 その後、アンリは実家に戻り、こちらも離縁したランドマーク侯爵家に、後妻として嫁ぐことになった。そして嫡男を産み、現在のランドマーク侯爵は息子である。

「厳しい方だとは思いますが、心得を教えてくれたに過ぎません」
「心得とは、君の思想のことか?」
「思想…」

 スノーはリアンスに、思想と思われているのかとは思ったが、いい意味ではないが、一番マシな言葉だったのだろう。

「高位貴族について、伯爵家の令嬢が公爵家に嫁ぐなどあり得ない。前侯爵夫人に言われたのではないですか」
「そうですが、事実ではありませんか」
「全てが正しいとも限らないのではないか?それを前侯爵夫人の言ったことが、君は絶対に正しいと信じているのではないか?」
「アンリ様だけではありません」
「教師の方も仰っていましたし、実祖母もだからこそ離縁したわけですから」
「それは…」

 スノーの母の母は子爵家の令嬢で、ランドマーク侯爵家に嫁いだ。爵位の差はあったが、恋愛結婚ではなく、互いの父親が友人で、二人で考えた共同事業のために結ばれた結婚であった。

 だが、祖母は侯爵家に馴染めず、夫とも上手くいかず、義父を除く義家族や親戚からも嫌味を言われ続け、娘を二人出産していたが、二人を連れて実家に戻った。

 ランドマーク侯爵家側は離縁は認めるが、子どもは返せと言われたが、侯爵家に残しても、母親が子爵家の出だということで、肩身の狭い思いをするだろうと、父親たちが話し合って、娘は二人は子爵家に籍を移した。

「実祖母もよく言っていました、私は私の意思とは関係なく結ばれた結婚だったが、理解がないとやっていける場所ではなかったこと。身の丈に合った結婚が一番だと、母が伯爵家に嫁ぐのも反対だったそうです」
「御母上も同じ考えなのか?」
「離れていたので、よく分かりません。幼かったので、ランドマーク侯爵家のことも覚えていないそうですから」

 ファイラはランドマーク侯爵家を出た時は、2歳だったので、記憶にない。

「そうか…ならば、なぜ君がランドマーク侯爵家にいたんだ?」
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