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事情

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「私には好きな人がいたの。でも父が許す相手ではなくて…納得して貰う時間が必要だと思った。でもその間に別の相手と婚約させられる可能性もあった。だから解消が可能な相手、それがローザ公爵令息だったの」

 スノーは相槌を打ちながら、聞くしかなかった。

「彼も婚約者を決めるように言われていて、利害が一致した。彼も私も婚約があることで、婚約を押し付けられることもなくなった…まだ相手は言えないけど、いずれ発表が出来ると思うわ」
「納得して貰えたのですか?」

 誰なのかは知らないが、反対されていたということは、相応しくないとされたのだろう。だが、認められたからこそ、婚約を解消したのか。

「ええ、そうなの。母は元々、応援してくれていたから、ようやくね。でも婚約を解消してすぐ別の相手と婚約ということは出来ないから、卒業後になると思うわ」

 卒業後であれば、一年は経つ頃になり、学園の様に騒がれることもないだろう。

「おめでとうございます」
「ありがとう」
「だから、ローザ公爵令息と私のことで、煩わせるようなことはないと理解して貰いたかったの」
「承知しました」

 二人はそうだったとしても、周りはそうは思わないことは気付かないのだろうかとは思ったが、理由が分かって、少し得した気持ちにはなった。

「だったら、リアンスと婚約を!」
「メリー!!それは違うだろう」
「でも、問題はないじゃない」

 すっかりいつものような呼び名になってしまっており、慌てた二人は気付いてもいないのだろう。

「問題はあります」
「爵位のことでしょう?伯爵家から、公爵家に嫁ぐことだってあったのよ?あり得ないことだったそうだけど、もう古いの」
「そうかもしれませんね」

 スノーはそう答えるしか選択肢はなかった。

「そうよ!確かに気持ちだけでは、どうにもならないことは分かっているわ。でも隣に立てる相手なら、叶ってもいいと思ってはいけない?」
「ユーフレット侯爵令嬢は、叶ってもいいと思います。ですが私は違います。私はローザ公爵家には相応しくない」
「そんなことはないわ」
「ありがとうございます」

 ユーフレット侯爵令嬢はきっと自分だけが、婚約が決まったことに引け目があるのだろう。だからと言って、私がこの縁談を受けることは出来ない。

 頑なだと言われても、私は会ってはならない人がいる。その人に会ったら、気付いてしまう。

「お二人はとてもお似合いだと、多くの学園の生徒も、私も思っておりました」
「それは…」
「否定する気はありません。ご事情は人それぞれだと思いますので」

 私にも事情があるとは言うことは出来ない。そんなことを言えば、何なのだと探りたくなるのが人というものである。

「レリリス伯爵令嬢、ユーフレット侯爵令嬢の言うことは、気にしなくていい。自分が決まって、私が決まらないことで、責任を勝手に感じているだけなんだ」
「そんな、それだけじゃないわ」
「自分だけが幸せになるなんてと思っているんだろう?余計なお世話だよ」
「だって、そう思うに決まっているじゃない」
「私のことは気にしなくていい。君は運命の相手と幸せになればいい」
「運命の相手ですか?」

 スノーは占いや予言、それとも何か特別な結びつきがあるのだろうかと、思わず口を挟んでしまった。

「出会った時に、体がピリピリしたそうだ。彼は私の特別だと、凄いだろう?」
「もう、やめてよ!」
「そのようなことがあるのですね」
「ピリっとした感じがしただけで、雷が落ちたとか、そんな大袈裟なものじゃないの。いずれあなたにも紹介するわ。でも押し付ける気はないから、安心して頂戴」
「ありがとうございます」

 リアンスの言葉と、想う相手の話でメリーアンの感情は収まったようで、その後は少し話をしてから、スノーだけが帰った。
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