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辟易
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「スノー、公爵家の縁談を断るというのは本当なの?」
もう話は付いたはずなのに、今度は母・ファイラがやって来た。知らなかったような口振りであるが、知らなかったはずがない。
父がファイラも喜んでいると言っていたのに、齟齬に気付いていないのか。
「はい、最初にそう申し上げたはずが、お父様の独断によって受けることになっていただけです」
「それならそのままお受けしましょう。とてもいい方だそうよ、たまたま婚約が解消になったのも運命なのよ。このような良いお相手はいないと思うわ」
スノーは父よりも、おっとりした母の方が苦手である。
「いいお相手ではないのです」
「どうして?公爵家の嫡男なのよ」
「公爵家の嫡男なら、皆、いいお相手なのですか?」
「そうじゃないわ、優秀だと評判だそうよ」
「そんな相手が、なぜ婚約を解消されたのですか?そこは気にならないのですか?」
親だと言うのならば、なぜ解消になったのか気にならないのか。調べてくれていたら、事情が分かるかもしれないとも期待した。
「それは…何かご事情があったのでしょう」
溜息を付きそうだった。やはり何も調べたりもせず、公爵家だから大丈夫、良い相手だと噂程度に聞いたくらいなのだろう。
「お母様は知らないかもしれませんが、ユーフレット侯爵令嬢と仲睦まじい間柄だったのですよ?今でもよく一緒にいらっしゃいます」
「それは…元々、友人の延長だったのではないかしら?幼なじみとか」
婚約までしたのだから、友人という枠を超えたからだろう。もしくは、超えようとするだろう。
「余計に解消などとおかしいとは思いませんか?」
「友人の方が良かったとか?あるじゃない?異性とは思えなかったとか、スノーはまだ分からないかもしれないけど、男女には色々とあるのよ」
女性や男性だと思っていないのならば、そもそも婚約はするべきではないだろう。別にそう言った感情が芽生えなくても、貴族であれば結婚するのが常である。
最近は恋愛結婚も増えたそうだが、愛や恋だけで、貴族は成り立たないという時代だったはずの母の方が、柔軟な考えを持っているのかもしれないが、8歳から両親と暮らしていないスノーには分からない。
「お母様だったら気になりませんか?身の丈に合わない者が、公爵家というだけで飛び付くことに素晴らしいと思いますか?」
「そ、それは…」
嫁げと強制できない間柄であるため、私を説得したいのだろう。
「でも、折角良いお相手だから勿体ないと思っているだけなのよ?」
「勿体ないということは適切ではありません。爵位の差もあるのです。それとも、お母様も私が苦労すればいいと思って、仰っているのですか?」
「そんなことはないわ、苦労させたいだなんて」
「そうでしょう?私では力不足です」
「でもスノーは優秀よ」
確かに主席というわけではないが、上位にいつもいる。学力も目安にはなるが、公爵家ともなれば、習ったまま活かせるのではなく、覚えて、身に付けて、場数をこなして、ようやく役に立つ話である。
「公爵家とは比べ物にならないことは、お母様もご存知でしょう?そんなに勧められると、まるで私に恥を掻かせたいように聞こえます」
「違うわ、そんなことはないの。分かったわ、ちゃんと断っておくようにお父様に伝えるわ。それでいい?」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むとようやく母は焦ったように去って行った。
その日は気疲れて、泥のように眠った。その後はきちんと断ってくれたようで、話に上がることもなかった。
もう話は付いたはずなのに、今度は母・ファイラがやって来た。知らなかったような口振りであるが、知らなかったはずがない。
父がファイラも喜んでいると言っていたのに、齟齬に気付いていないのか。
「はい、最初にそう申し上げたはずが、お父様の独断によって受けることになっていただけです」
「それならそのままお受けしましょう。とてもいい方だそうよ、たまたま婚約が解消になったのも運命なのよ。このような良いお相手はいないと思うわ」
スノーは父よりも、おっとりした母の方が苦手である。
「いいお相手ではないのです」
「どうして?公爵家の嫡男なのよ」
「公爵家の嫡男なら、皆、いいお相手なのですか?」
「そうじゃないわ、優秀だと評判だそうよ」
「そんな相手が、なぜ婚約を解消されたのですか?そこは気にならないのですか?」
親だと言うのならば、なぜ解消になったのか気にならないのか。調べてくれていたら、事情が分かるかもしれないとも期待した。
「それは…何かご事情があったのでしょう」
溜息を付きそうだった。やはり何も調べたりもせず、公爵家だから大丈夫、良い相手だと噂程度に聞いたくらいなのだろう。
「お母様は知らないかもしれませんが、ユーフレット侯爵令嬢と仲睦まじい間柄だったのですよ?今でもよく一緒にいらっしゃいます」
「それは…元々、友人の延長だったのではないかしら?幼なじみとか」
婚約までしたのだから、友人という枠を超えたからだろう。もしくは、超えようとするだろう。
「余計に解消などとおかしいとは思いませんか?」
「友人の方が良かったとか?あるじゃない?異性とは思えなかったとか、スノーはまだ分からないかもしれないけど、男女には色々とあるのよ」
女性や男性だと思っていないのならば、そもそも婚約はするべきではないだろう。別にそう言った感情が芽生えなくても、貴族であれば結婚するのが常である。
最近は恋愛結婚も増えたそうだが、愛や恋だけで、貴族は成り立たないという時代だったはずの母の方が、柔軟な考えを持っているのかもしれないが、8歳から両親と暮らしていないスノーには分からない。
「お母様だったら気になりませんか?身の丈に合わない者が、公爵家というだけで飛び付くことに素晴らしいと思いますか?」
「そ、それは…」
嫁げと強制できない間柄であるため、私を説得したいのだろう。
「でも、折角良いお相手だから勿体ないと思っているだけなのよ?」
「勿体ないということは適切ではありません。爵位の差もあるのです。それとも、お母様も私が苦労すればいいと思って、仰っているのですか?」
「そんなことはないわ、苦労させたいだなんて」
「そうでしょう?私では力不足です」
「でもスノーは優秀よ」
確かに主席というわけではないが、上位にいつもいる。学力も目安にはなるが、公爵家ともなれば、習ったまま活かせるのではなく、覚えて、身に付けて、場数をこなして、ようやく役に立つ話である。
「公爵家とは比べ物にならないことは、お母様もご存知でしょう?そんなに勧められると、まるで私に恥を掻かせたいように聞こえます」
「違うわ、そんなことはないの。分かったわ、ちゃんと断っておくようにお父様に伝えるわ。それでいい?」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むとようやく母は焦ったように去って行った。
その日は気疲れて、泥のように眠った。その後はきちんと断ってくれたようで、話に上がることもなかった。
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