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拒絶

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「スノー!」「スノー!どこへ行っていたの?」

 母はスノーを抱きしめたが、娘がどんな顔をしていたのかも知らない。娘がその瞬間に完全に家族を諦めたことを知らない。

 体の弱い兄と、幼い妹、放置してもいい姉。

 姉は両親に見てもらいたくて、困らせたりしたが、お前は兄より元気なんだから、お前は妹より大きいんだから、困らせないことが務めだと言われるようになった。

 困らせないようにしたからといって、褒められるわけでもない。まるで家族にいなくてもいいと言われているようだった。

 そんな風に思っていた罰だったのだろうか。あの事件は起きた―――。

 スノー・レリリス伯爵令嬢は、父・オールに勧められた縁談に、何年振りだろうかというほどの衝撃を受けた。

 レリリス伯爵家は歴史は長いが、影響力がある家ではない。

「スノーにローザ公爵家から、リアンス様との縁談の申し込みが来ている」
「ローザ公爵家ぇ?」

 スノーは祖母に淑女はむやみに感情を出してはなりませんと、厳しく言われたことを忘れ、声が裏返ってしまった。

 雪の降り積もった日に生まれた、レリリス家の第二子。8歳から学園に入学するまで、祖父母の元で暮らしていた。

 両親と兄と妹との関係は、微妙に距離があるままだ。

「そうだ、驚いたかもしれないが、本物だよ」
「絶対にお断りしてください」
「な、なぜだ!?」

 まだ婚約となるかは分からないが、受け入れると思っていたオールは驚いた。

「お断りしてください」
「こんな良いお相手、そうそういないよ?お父様だったら、飛び付いてしまうよ」
「私は良いお相手だとは思えません」

 お相手のことは噂も交じっているとは思うが、多少は知っている。

 一つ年上のリアンス・ローザ公爵令息。

 そう、公爵家。我が家は伯爵家、二つも違う。まずあり得ない縁談である。この国は一つの爵位だけでも大きく立場が違う。

 公爵家から縁談が来るなんて喜ばしいとはならない。せめて思いを通じ合わせていれば違うかもしれないが、それでもどちらかが身を引く。

 そしてリアンスと言えば、メリーアン・ユーフレット侯爵令嬢というべき、二人だった。美しい容姿に、同じブラックの髪色にブルーの瞳をした、一緒にいることが当たり前の対になる二人だった。

 互いを「リアンス」「メリー」と呼び合い、それは今でも変わらない。

 スノーが入学した時点で二人は既に婚約しており、卒業後は結婚するという話だったのだが、なぜか最終学年に上がる前に二人は婚約を解消した。

 おかげでなぜかスノーに縁談の申し込みが来たのだった。

 委員会の関係で何度か話をする機会があり、確かにリアンスは人当たりのいい人ではあった。ただし、失礼だがリアンス以外にも同程度のいい人はいる。

 クラスメイトであるマーガレット・ハウアン伯爵令嬢と、セイカ・パーラ伯爵令嬢は、二人に憧れており、あんな風になりたいと言っていた。

 私も同じ色味の二人は、お似合いだとは思っていた。

 父は知らないのかもしれないが、お似合いの二人の後釜など、ご遠慮したいと思うのが普通ではないだろうか。

 喜べるのは、公爵家に嫁ぎたい、もしくはリアンスのためなら何でも出来るという意思を持ち、しかも数ヶ月前まで婚約者がいたのに、横恋慕の気があったと言っているようなものではないか。

 もしかしたら婚約解消は新たな婚約者のせいだと言われるかもしれない…下手したら不貞も疑われるかもしれない…そうは考えないのか。


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お読みいただきありがとうございます。

本日より新作を投稿させていただきます。

きょうだい格差でもありますが、
主としては過去の出来事から、ある思惑に気付くお話になる予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。
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