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なんと言ったの?
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オマリーは寮に戻って、何の利にもならない創立記念誌の資料をまとめるのも嫌だったが、エルドールに完全に手伝いを否定されたことにショックを受けていた。
王族であるエルドールを手伝っているということが、オマリーにとっては大事だった。エルドール以外にも王族がいれば、また違ったかもしれないが、この国のトップに近付いたことで、一番の特別になっていたのだ。
それなのに、これ以上、申し出ることは出来ない上に、創立記念誌の資料が終わるまでは、戻れそうにもない。
殿下に戻って欲しいと言われることが目的だったのに、苛立っていたことで、ちょっと言い方が悪かったことは反省していた。
だが、オマリーにとっては、オズラール公爵令嬢を責め立てた時は、すぐに言って欲しいことを理解してくれたのに、どうして殿下は分かってくれないのかと、思っていた。
エルドールはグイーズ先生に、まだ手伝いに執着していること、令嬢の教育を受けていない可能性はあるか聞くことにした。
「いえ、そのような家庭ではないと聞いておりますが」
「そうですか、あまりに気味が悪い部分が多いので、そう言った可能性もあるのではないかと思ったのです」
「そうですね…再度、様子を伺い、必要であれば、トドック男爵家に確認を取りましょう」
「そうして貰えると助かります」
オマリーは投げ出せば何を言われるか分からないので、創立記念誌の資料をまとめには行き、さすがに生徒会室には顔を出さなくなった。
グイーズは念のために、トドック男爵家にオマリーのことを訊ねる手紙を出した頃、オマリーは学園に本を返しに来ていたヨルレアンに、またも話し掛けていた。
「また、あなた…?何か用事かしら?」
「どうして学園に来ないのですか」
「あなたには関係のないことよ、もういいかしら?」
ヨルレアンはオマリーのことは正直、よく知らないが、まともに話す気は一切なかった。
「私は!殿下に頼りにされているのです」
「そう、それが何?あなたと話す気はないの」
「知らないのでしょうけど、『振り返る女』の解読の手伝いもしたのですよ!」
「なんと言ったの?」
既に不愉快な雰囲気は出していたが、ヨルレアンの表情が一気に歪んだ。
「ですから、解読の手伝いをしたのです」
「振り返る女の?」
「そうよ、そのくらい頼りにされているんです」
それは、ヨルレアンに絶対に言ってはならない言葉であった。ヨルレアンは迷うことなく、すぐに侍女を呼んだ。
「カレン」
「はい、姫様」
「両陛下に連絡を」
「はい、承知しました」
カレンは護衛を一人連れて、素早く去って行き、オマリーは名前しか聞こえなかったので、何だろうかとその様子を見ていた。
「今の言葉に間違いはないわね?」
「ええ、そうよ。殿下はいつも忙しくしているのに、あなたは何の手伝いもしていないでしょう!殿下が可哀想だわ」
「国王陛下御夫妻に話をしますから、ご家族に呼び出しがあると伝えて置きなさい」
「えっ?」
「では」
ヨルレアンは不愉快なオマリーを視界から消すために、颯爽と歩き出した。その瞳は、仄暗く、怒りに満ちていた。
そして、ヨルレアンが王宮に着くと、カレンが待っていた。
「しばらく待てば、陛下か王妃陛下が、どちらかが御会い出来るそうです」
「ありがとう」
「とんでもございません」
カレンも腹を立てていたが、ヨルレアンの表情が周りにはいつもと同じに見えているかもしれないが、ずっと側にいるカレンにも護衛にも、怒りが今にも溢れそうなことを察していた。
怒って当然であり、普段はそのようなことはないために、黙ってそのまま、案内された部屋で待つことになった。
「ヨルレアン嬢!どうした、何があった?」
飛び込んで来たのは、慌ててやって来たのが分かるほど、髪の毛の乱れたダズベルト国王陛下であった。
王族であるエルドールを手伝っているということが、オマリーにとっては大事だった。エルドール以外にも王族がいれば、また違ったかもしれないが、この国のトップに近付いたことで、一番の特別になっていたのだ。
それなのに、これ以上、申し出ることは出来ない上に、創立記念誌の資料が終わるまでは、戻れそうにもない。
殿下に戻って欲しいと言われることが目的だったのに、苛立っていたことで、ちょっと言い方が悪かったことは反省していた。
だが、オマリーにとっては、オズラール公爵令嬢を責め立てた時は、すぐに言って欲しいことを理解してくれたのに、どうして殿下は分かってくれないのかと、思っていた。
エルドールはグイーズ先生に、まだ手伝いに執着していること、令嬢の教育を受けていない可能性はあるか聞くことにした。
「いえ、そのような家庭ではないと聞いておりますが」
「そうですか、あまりに気味が悪い部分が多いので、そう言った可能性もあるのではないかと思ったのです」
「そうですね…再度、様子を伺い、必要であれば、トドック男爵家に確認を取りましょう」
「そうして貰えると助かります」
オマリーは投げ出せば何を言われるか分からないので、創立記念誌の資料をまとめには行き、さすがに生徒会室には顔を出さなくなった。
グイーズは念のために、トドック男爵家にオマリーのことを訊ねる手紙を出した頃、オマリーは学園に本を返しに来ていたヨルレアンに、またも話し掛けていた。
「また、あなた…?何か用事かしら?」
「どうして学園に来ないのですか」
「あなたには関係のないことよ、もういいかしら?」
ヨルレアンはオマリーのことは正直、よく知らないが、まともに話す気は一切なかった。
「私は!殿下に頼りにされているのです」
「そう、それが何?あなたと話す気はないの」
「知らないのでしょうけど、『振り返る女』の解読の手伝いもしたのですよ!」
「なんと言ったの?」
既に不愉快な雰囲気は出していたが、ヨルレアンの表情が一気に歪んだ。
「ですから、解読の手伝いをしたのです」
「振り返る女の?」
「そうよ、そのくらい頼りにされているんです」
それは、ヨルレアンに絶対に言ってはならない言葉であった。ヨルレアンは迷うことなく、すぐに侍女を呼んだ。
「カレン」
「はい、姫様」
「両陛下に連絡を」
「はい、承知しました」
カレンは護衛を一人連れて、素早く去って行き、オマリーは名前しか聞こえなかったので、何だろうかとその様子を見ていた。
「今の言葉に間違いはないわね?」
「ええ、そうよ。殿下はいつも忙しくしているのに、あなたは何の手伝いもしていないでしょう!殿下が可哀想だわ」
「国王陛下御夫妻に話をしますから、ご家族に呼び出しがあると伝えて置きなさい」
「えっ?」
「では」
ヨルレアンは不愉快なオマリーを視界から消すために、颯爽と歩き出した。その瞳は、仄暗く、怒りに満ちていた。
そして、ヨルレアンが王宮に着くと、カレンが待っていた。
「しばらく待てば、陛下か王妃陛下が、どちらかが御会い出来るそうです」
「ありがとう」
「とんでもございません」
カレンも腹を立てていたが、ヨルレアンの表情が周りにはいつもと同じに見えているかもしれないが、ずっと側にいるカレンにも護衛にも、怒りが今にも溢れそうなことを察していた。
怒って当然であり、普段はそのようなことはないために、黙ってそのまま、案内された部屋で待つことになった。
「ヨルレアン嬢!どうした、何があった?」
飛び込んで来たのは、慌ててやって来たのが分かるほど、髪の毛の乱れたダズベルト国王陛下であった。
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