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「エホックもその場で自らも首を切って、亡くなっており、自殺したの?怨恨か、愛憎のもつれか、不明」

 オドリレットには家族はいなかったのかしら、エホックの方も、そこまでは新聞社では分からないか。

 一応、オドリレットという女性の調査をデザールから問い合わせて貰っているが、有名ではない歌い手であれば、記録が残っているか分からない。

「名前が違うことも気になるけど、エリーとも書かれていないわね。間違っているのかしら…」

 手応えと、間違いの繰り返しは日常ではあるが、どこか期待していた。

「いかがですか?」

 頭を抱えるヨルレアンに、新聞社の役員が声を掛けた。

「芸名のあるような方というのは、本名を書かれたりしないのかしら?」
「ああ、今は書きますが、昔は書いていないかもしれませんね」
「そうなのね」

 今の感覚で、本名も書かれていると思っていたが、そうではないらしい。

「役者をお探しですか?」
「いいえ、おそらく歌い手だと思うの」
「それなら、パンフレットを持って来ましょうか?」
「パンフレット?」
「はい、全てではないと思いますが、過去のショーなどのチラシのようなものもあります」
「見せていただけますか?」

 役員が持って来たパンフレットいうチラシは、古い物であった。有名な歌手は絵姿も書かれていたが、そうではない者は名前だけが書いてある。

 だが、捲っても捲っても、名前は見当たらず、残っていないかと思っていると、ついに見付けた。

「あった…しかも、これは、オールエドリレットになっているわ。読み方が違う?」

 ヨルレアンは、チラシを探して、オールエドリレットの名前があるチラシを、数百枚の中から、わずか二枚を見付けた。

「ありがとうございました。助かりましたわ。このチラシ、念のため大事に保管しておいてください」
「しょ、承知しました」

 デザールに報告をしようと、邸を訪ねると、デザールと一緒にエルドールがいた。

「殿下?」
「ああ、頼まれていた物を持って来たんだ。力になれると良いのだが」
「それはどうも、ありがとうございます」
「今見せて貰っていたのだが、本名はエリーだった。エリー・ダラ」
「そうなのですか?本当に?」

 ヨルレアンは目を見開き、興奮を抑えきれなかった。デザールも先ほど、目を通した際は同じ気持ちであった。

「ああ、殿下が調べてくださった。ヨルちゃんの方は?」
「はい!記事の方は犯人の名前と刺殺されたということだけで、でも古いショーのチラシが残されていて、そこにオールエドリレットとありました」
「本当か?」
「はい、読み方が違うのかもしれないと思って。新聞社の記事にはオドリレットになっていました。本名は今と違って、書かれておらず…殿下に頼んで良かったです」
「そうか、私も力になれて嬉しい」

 ヨルレアンの嬉しそうな姿に、エルドールは抑えはしたが、かつてない喜びを感じていた。

「だが、彼女の方も犯人の方も、それ以上の詳細は分からなかった。家族でもいれば違ったのだが、すまない」
「いえ、本名が分かっただけでも大幅な前進です。というより、彼女であることは間違いないでしょう」
「ああ、そう考えていいね」
「あとは解読をしましょう。これで随分、進めやすくなります。殿下、本当にありがとうございました」

 ヨルレアンは、エルドールに頭を下げた。

「いや、また何かあれば言ってくれ。父上にもそう言われている。資料も父上が用意してくれたんだ」
「ええ、モデルの名前が分かるだけでも、大変なことですから」
「ああ、そう聞いている。応援している、頑張ってくれ」
「はい」

 それから、2ヶ月が経つ頃、ようやく解読が終わった。一部、不明点はあるものの、発表に差し支えない解読となった。

 国立美術館に展示されている、『振り返る女』のモデルが、オールエドリレットという歌い手であったことが、発表された。
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