【完結】ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ

文字の大きさ
上 下
7 / 131

馬鹿息子に現実を1

しおりを挟む
 ヨルレアンは、古代語の解読を行っていたのである。

 元々はヨルレアンの祖父、ダリーツの父、レオドラ・オズラール公爵が古代語の学者であった。レオドラに懐いていたヨルレアンは、幼い頃からの英才教育と天賦の才で、素晴らしい能力を開花した。

 そこへ元々解読が出来なかった文献や、3年前に地下から見付かった文献もヨルレアンの元へやって来ることになった。

 しかも、師とも言えるレオドラ・オズラール公爵は、5年前に急死しており、学者もいるのだが、手伝ってくれると言っても皆が多くの辞書を片手に、ヨルレアンのようには進まない上に、間違いも多い。

 ダリーツが出来ない、やりたくないというのも、無理のない解読であった。記憶力と柔軟性のある考えが必要な作業である。

「ですが、私には関係ありません」
「関係ない?ヨルレアン嬢は、顔色が悪くなかったか?」
「え?そんなことはなかったと思いますけど」

 正直、エルドールはヨルレアンの顔色など覚えてもいなかった。

「男爵令嬢の瞳には気付くのに、そんなことにも気付かないのか?」
「顔色なんて悪くありませんでした」

 言われてみれば、疲れている様子だったようには思うが、あまり顔を合わせていなかったので、些細な変化に気付けるはずがなかった。

「ヨルレアン嬢は寝る間もなく、解読をしてくれていたんだ!それなのに、お前の馬鹿な話に付き合わされて、迷惑だっただろうな!何が婚約者に相応しくない?お前の方がそんなことにも気付けない、配慮が出来ない者じゃないか!」

 本当なら第一王子であるサクスデールの婚約者にしたかったが、王太子妃になっては、抱えている者が多すぎると思い、エルドールの婚約者にしたのだが、それが間違いだったか。このクソ馬鹿阿呆愚か者めが!

 ダズベルトは見ての通り、穏やかな性格でも口調でもない。それでも馬鹿息子をクソということは、心の中で留めた。

「そんなこと、言われてもいないのに、分かるわけないではありませんか」
「ヨルレアン嬢も、そうだったのではないか?」
「え?」

 父は何を言っているのか、エルドールには分からなかった。

「お前の勝手な持論に付き合わされて、自分の言ったことが、全て返って来ておるではないか?違うか?」
「私は良かれと思って」

 ヨルレアンの今後のことを考えてのことで、私とヨルレアンでは違う。

「誰に良かれと思ってだ?疲れている彼女を休ませることもなく、お前の良かれとは何だ?」
「それは知らなくて」
「それならヨルレアン嬢だって、その男爵令嬢のことなぞ、知らなくてもおかしくないだろう」
「そ、それは…」

 同じクラスで、生徒会の一員ならば、配慮すべきで、優秀なオマリー嬢を当然知っていると思っていた。

「理不尽なのはお前だ!婚約も解消したくもなるわ!」
「私は解消までは考えていません」

 書きはしたが王家と公爵家の話であるために、通ることはないと思っていた。あんなものを出して、怒られるのはヨルレアンだと思っていた。

「ヨルレアン嬢が考えておるのだ!」
「は?」
「お前のせいで、ヨルレアン嬢は王子殿下に相応しくないと言われたからと、全ての解読を送り返して来たわ!お前の一筆と共にな!」
「そんな!私のせいだというのですか?」

 まさかそんな汚い手を使って来るとは思っていなかった。

「確かに押し付けていた者も、それなりの処分をする。解読はお前がやれ」
「え…私が…?」

 王子教育でも、学園でも、特殊過ぎて古代語など習うこともないために、エルドールは文献を見たことがある程度で、解読などどうやればいいのか分からない。

「どうして私が?悪いのはヨルレアンではないですか」
「ヨルレアン嬢は王子の婚約者だから、無理をして行ってくれていたのだぞ?それが相応しくないと言われて、お前ならこれまで通りやるか?」
「そ、それは…」
「だからお前がやればいいと言っているんだぁ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

【完結】さよなら私の初恋

山葵
恋愛
私の婚約者が妹に見せる笑顔は私に向けられる事はない。 初恋の貴方が妹を望むなら、私は貴方の幸せを願って身を引きましょう。 さようなら私の初恋。

【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
 伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。  ところが新婚初夜、ダミアンは言った。 「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」  そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。  しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。  心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。  初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。  そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは───── (※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

【完結】自業自得の因果応報

仲村 嘉高
恋愛
愛し愛されて結婚したはずの夫は、モラハラDVな最低男だった。 ある日、殴られて壁に体を叩きつけられ、反動で床に倒れて頭を打ったマリアンヌは、その衝撃で前世を思い出した。 日本人で、ちょっとヤンチャをしていた過去を持った女性だった記憶だ。 男尊女卑の世界に転生したにしても、この夫は酷すぎる。 マリアンヌは、今までの事も含め、復讐する事に決めた。 物理で。 ※前世の世代は、夜露死苦な昭和です(笑)

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

【完結】「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」――冷徹公爵の執着愛から逃げられません」

21時完結
恋愛
「君との婚約はなかったことにしよう」 そう言い放ったのは、幼い頃から婚約者だった第一王子アレクシス。 理由は簡単――新たな愛を見つけたから。 (まあ、よくある話よね) 私は王子の愛を信じていたわけでもないし、泣き喚くつもりもない。 むしろ、自由になれてラッキー! これで平穏な人生を―― そう思っていたのに。 「お前が王子との婚約を解消したと聞いた時、心が震えたよ」 「これで、ようやく君を手に入れられる」 王都一の冷徹貴族と恐れられる公爵・レオンハルトが、なぜか私に異常な執着を見せ始めた。 それどころか、王子が私に未練がましく接しようとすると―― 「君を奪う者は、例外なく排除する」 と、不穏な笑みを浮かべながら告げてきて――!? (ちょっと待って、これって普通の求愛じゃない!) 冷酷無慈悲と噂される公爵様は、どうやら私のためなら何でもするらしい。 ……って、私の周りから次々と邪魔者が消えていくのは気のせいですか!? 自由を手に入れるはずが、今度は公爵様の異常な愛から逃げられなくなってしまいました――。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...