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第26話
偽りの女4(リアーシュ王国)
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「調査が完了しました、確実に処罰が出来ます」
「ありがたい、面倒を掛けてすまなかった」
友好国であるために、ヒューランジェ陛下もセナリアンの正体は知っており、ジョンラにも何度も会っている。
「いえ、えっと、あれ」
「セナ様、あら?」
ジョンラは慌てて、事前に貰った書類を探している。
「少々、お待ち下さい」
「セナ様、ラピアです」
「ああ、ラピア、そうだったわね」
「珍しいな、名前を忘れたのかい?」
ヒューランジェ陛下は、いつも落ち着き払っている二人が、慌てている様子に朗らかに笑った。
「えーっとですね、もう私たちはラピアと認識できておりません。偽名でした」
「なんと、名前を探っても、出て来ぬはずだ。して、何て名前なんだ?」
セナリアンはいきますよと腹に力を入れ、両手を腰に当てた。
「パンプキンヌ・デア~ル!!」
「セナ様、言い方が寄っております」
「寄せたのよ、言ってみたかったの!」
陛下はカッと目を見開いたと思ったら、みるみる口角を下げて、凄まじい顔になっており、そうかと言った後、ふっと笑って厳しい表情に変えた。
「そうか、パンプキンヌ」
「はい、パンプキンヌです」
セナリアンとジョンラは、かなりパンプキンヌを多用して、口に馴染ませている。
「そうか、そうか、やっぱり駄目だ!ハハハハハハハハハハハ!!何だ、その名前!パンプキンの女王か!」
「我らもみごとにやられまして、やっと口に馴染んで来たところです」
「馴染ませんでいい!」
馴染ませてもいいことなど、一つもなさそうではないか。
「いいえ、陛下。馴染ませないと、突如として笑いが湧き上がってくるのですわ」
ジョンラも悲痛な顔で頷いており、随分振り回された状況が読み取れた。
「そ、そうなのか?」
「嬢を付けたり、様を付けたり、さんを付けたりする度に、私は何を言っているのだろうかという気持ちになるのですよ?おすすめは様です」
「パンプキンヌ様…ん、おっ」
「ほら?パンプキンを崇める新興宗教のようでしょう?」
「すまなかった…」
まずは口に馴染ませなければ、きっと話を進めることは出来なかったのだろうと、陛下も強く理解した。
「パンプキンではなく、パンプキンヌというところが肝ですわ」
「だろうな、しかも家名がデアールというのが皮肉なものだ」
「ええ、他でも通用しますけどね」
「それで馴染ませ過ぎて、偽名の方を忘れたんだな」
そうなんですよと言っていると、偽名の方がもう思い出せなくなっていた。
「あら、また忘れたわ」
「ん?儂もだな、これは何かの呪いではないか」
「そうだとしたら、素晴らしい出来ですわ」
もちろんこれは呪いではない、パンプキンヌの威力が強いだけである。
「パンプキンヌは今は愚かな詐欺師くらいしか使わなくなった、相手を信じさせる魔力を乗せた言葉を使っております。ゆえに信じ込んでしまっているのです」
「だが、ラヴァン嬢は掛かっておらぬだろう?」
「ええ、自分より強い者には掛かりません。見抜ける者がいれば、違ったのでしょうけど、現行犯で視なければなりませんし、周りにはいなかったのでしょう」
その場に鑑定が出来る魔術師が必要となり、出来る者は少ないので、掛かる掛からないは問わず、いなければ気付くことは出来ない。
「そういうことか、念のために聞くが、ノアール侯爵の子ではないのだな?」
「はい、勿論です。父親は既に亡くなっておりましたが、コールド・デアールという農夫でした。母親は生きており、会いに行って参りました」
「会ったのか?」
セナリアンは、この数時間の間に母親に会いに行っていた。
「はい、娘は二年前に乗合馬車の事故で、亡くなったと思っていました」
「亡くなって?」
名前が偽名なら捜索願が出ていても気付くことは出来なかったが、既に亡くなっていると思っていたならば、捜索願すら出ていなかったのかもしれないと思った。
「ありがたい、面倒を掛けてすまなかった」
友好国であるために、ヒューランジェ陛下もセナリアンの正体は知っており、ジョンラにも何度も会っている。
「いえ、えっと、あれ」
「セナ様、あら?」
ジョンラは慌てて、事前に貰った書類を探している。
「少々、お待ち下さい」
「セナ様、ラピアです」
「ああ、ラピア、そうだったわね」
「珍しいな、名前を忘れたのかい?」
ヒューランジェ陛下は、いつも落ち着き払っている二人が、慌てている様子に朗らかに笑った。
「えーっとですね、もう私たちはラピアと認識できておりません。偽名でした」
「なんと、名前を探っても、出て来ぬはずだ。して、何て名前なんだ?」
セナリアンはいきますよと腹に力を入れ、両手を腰に当てた。
「パンプキンヌ・デア~ル!!」
「セナ様、言い方が寄っております」
「寄せたのよ、言ってみたかったの!」
陛下はカッと目を見開いたと思ったら、みるみる口角を下げて、凄まじい顔になっており、そうかと言った後、ふっと笑って厳しい表情に変えた。
「そうか、パンプキンヌ」
「はい、パンプキンヌです」
セナリアンとジョンラは、かなりパンプキンヌを多用して、口に馴染ませている。
「そうか、そうか、やっぱり駄目だ!ハハハハハハハハハハハ!!何だ、その名前!パンプキンの女王か!」
「我らもみごとにやられまして、やっと口に馴染んで来たところです」
「馴染ませんでいい!」
馴染ませてもいいことなど、一つもなさそうではないか。
「いいえ、陛下。馴染ませないと、突如として笑いが湧き上がってくるのですわ」
ジョンラも悲痛な顔で頷いており、随分振り回された状況が読み取れた。
「そ、そうなのか?」
「嬢を付けたり、様を付けたり、さんを付けたりする度に、私は何を言っているのだろうかという気持ちになるのですよ?おすすめは様です」
「パンプキンヌ様…ん、おっ」
「ほら?パンプキンを崇める新興宗教のようでしょう?」
「すまなかった…」
まずは口に馴染ませなければ、きっと話を進めることは出来なかったのだろうと、陛下も強く理解した。
「パンプキンではなく、パンプキンヌというところが肝ですわ」
「だろうな、しかも家名がデアールというのが皮肉なものだ」
「ええ、他でも通用しますけどね」
「それで馴染ませ過ぎて、偽名の方を忘れたんだな」
そうなんですよと言っていると、偽名の方がもう思い出せなくなっていた。
「あら、また忘れたわ」
「ん?儂もだな、これは何かの呪いではないか」
「そうだとしたら、素晴らしい出来ですわ」
もちろんこれは呪いではない、パンプキンヌの威力が強いだけである。
「パンプキンヌは今は愚かな詐欺師くらいしか使わなくなった、相手を信じさせる魔力を乗せた言葉を使っております。ゆえに信じ込んでしまっているのです」
「だが、ラヴァン嬢は掛かっておらぬだろう?」
「ええ、自分より強い者には掛かりません。見抜ける者がいれば、違ったのでしょうけど、現行犯で視なければなりませんし、周りにはいなかったのでしょう」
その場に鑑定が出来る魔術師が必要となり、出来る者は少ないので、掛かる掛からないは問わず、いなければ気付くことは出来ない。
「そういうことか、念のために聞くが、ノアール侯爵の子ではないのだな?」
「はい、勿論です。父親は既に亡くなっておりましたが、コールド・デアールという農夫でした。母親は生きており、会いに行って参りました」
「会ったのか?」
セナリアンは、この数時間の間に母親に会いに行っていた。
「はい、娘は二年前に乗合馬車の事故で、亡くなったと思っていました」
「亡くなって?」
名前が偽名なら捜索願が出ていても気付くことは出来なかったが、既に亡くなっていると思っていたならば、捜索願すら出ていなかったのかもしれないと思った。
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