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第25話
破滅を抱いて眠れ7(セントリア王国)
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逃げ帰ることになったノディエルは、馬車にも乗らずに、ひたすらに走って、走って、アンデション伯爵邸まで戻った。立ち止まることなど出来なかったからである。
ノディエルは、力尽きてようやく止まることが出来た。
そして、息を整えてから、馬車で先に戻っていたエーランドのところへ向かった。
「申し訳ありません、許してはいただけませんでした」
「そうだろうな」
「当時、手に入れようとしたことが、全て見透かされていたようです。彼女は当時十一歳だったようです」
「じゅういち…」
エーランドも十一歳で、言葉に窮してしまった。
「変態以外の何者でもないと、証拠を出してもいいとまで言われました」
「証拠なぞ」
「嘘を言っている顔ではありませんでした、どちらにせよ、私が悪いことに変わりはありませんから。万が一、あった場合は全て終わると感じました」
「そうだな…」
もしもそのような証拠が出たら、魔法省の魔術師が公表すれば、アンデション伯爵家は間違いなく終わる。
陛下にも一度注意されているのにも関わらずとなれば、命すら危ない。
「あの場で暴露しても良かったが、ルディー嬢とイェスペル様に免じて言わなかったと仰いました。そして、娘が同じようにされたらどうだ?と問われました…」
「ああ…そうか、自分がこんなに愚かだったとは」
「私が」
「いや、これは私が言い出したことだ。おそらく嘘など通用しない、そうだろう?」
あの時、言い出したのは、エーランドである。十一歳とは知らなかったが、娘がいるという立場になれば、あの時とは気持ちが全く違う。
「いくつだろうが、下心のある者が娘に…声を掛けるなど、それが十一歳だったら、許すことは出来ないだろうな」
「はい…」
エーランドは当時、既に結婚はしていたが、まだ子どもはいなかった。
「優秀な者であるから、手に入れたいと思ったことは事実。知らなかったと言えばそれまでだが、弁明になるかどうか」
「関わらなければ、動かないと仰せでした。このまま言う通りにすることしか、道はないかと思います」
「そうだな…謝罪をすることすら傲慢だな」
「毎日、破滅を抱いて眠ればいいと、仰せでした…」
「っっっ」
数日経っても、何も起こることはなかった。陛下に呼び出されることも覚悟していたが、それもなかった。まさにセナリアンの言った通り、怯えながら過ごしていた。
「はあ…イェスペルにも情けない姿を見せてしまった…」
エーランドはイェスペルにとって、頼りになる兄だったはずが、あのような姿を晒してしまった。随分、ガッカリさせてしまったことだろう。
後日、改めてエーランドは、イェスペル、ルディーを訪ねることにした。
「イェスペル、ルディー嬢、この前は本当にすまなかった。皆にも謝っていたと伝えて欲しい。恥ずかしいところも見せてしまった…」
「いいえ」
「以前、魔術師様と何かあったのですか?」
間違いなく、何かあったとしか思えない状況だっただろう。
「ああ、二人には聞いて欲しいと思い、訪ねさせてもらったんだ…」
こちらに完全に非のある形であるが、話をして置きたかった。
「彼女は優秀な魔術師だった。安易な気持ちで、関わりを持とうとした。しかし、陛下に魔法省から注意を受けたと呼び出されたことがある。十二年前だ。それなのに、イェスペルが知り合いだと分かって、また欲を出してしまったんだ…」
「そんなに優秀なんですね」
「ああ、討伐の後方支援をしているところを見たことがあるが、本当に素晴らしい魔術師だった」
「討伐を…」
イェスペルは、討伐に参加しているとは考えていなかった。
それはセナリアンが討伐のことは話を聞くばかりで、参加したとは一切言わなかったからである。騎士団にもセナリアンを知る者もいたかもしれないが、会の中は若いものが多く、知る者はいなかっただけである。
ノディエルは、力尽きてようやく止まることが出来た。
そして、息を整えてから、馬車で先に戻っていたエーランドのところへ向かった。
「申し訳ありません、許してはいただけませんでした」
「そうだろうな」
「当時、手に入れようとしたことが、全て見透かされていたようです。彼女は当時十一歳だったようです」
「じゅういち…」
エーランドも十一歳で、言葉に窮してしまった。
「変態以外の何者でもないと、証拠を出してもいいとまで言われました」
「証拠なぞ」
「嘘を言っている顔ではありませんでした、どちらにせよ、私が悪いことに変わりはありませんから。万が一、あった場合は全て終わると感じました」
「そうだな…」
もしもそのような証拠が出たら、魔法省の魔術師が公表すれば、アンデション伯爵家は間違いなく終わる。
陛下にも一度注意されているのにも関わらずとなれば、命すら危ない。
「あの場で暴露しても良かったが、ルディー嬢とイェスペル様に免じて言わなかったと仰いました。そして、娘が同じようにされたらどうだ?と問われました…」
「ああ…そうか、自分がこんなに愚かだったとは」
「私が」
「いや、これは私が言い出したことだ。おそらく嘘など通用しない、そうだろう?」
あの時、言い出したのは、エーランドである。十一歳とは知らなかったが、娘がいるという立場になれば、あの時とは気持ちが全く違う。
「いくつだろうが、下心のある者が娘に…声を掛けるなど、それが十一歳だったら、許すことは出来ないだろうな」
「はい…」
エーランドは当時、既に結婚はしていたが、まだ子どもはいなかった。
「優秀な者であるから、手に入れたいと思ったことは事実。知らなかったと言えばそれまでだが、弁明になるかどうか」
「関わらなければ、動かないと仰せでした。このまま言う通りにすることしか、道はないかと思います」
「そうだな…謝罪をすることすら傲慢だな」
「毎日、破滅を抱いて眠ればいいと、仰せでした…」
「っっっ」
数日経っても、何も起こることはなかった。陛下に呼び出されることも覚悟していたが、それもなかった。まさにセナリアンの言った通り、怯えながら過ごしていた。
「はあ…イェスペルにも情けない姿を見せてしまった…」
エーランドはイェスペルにとって、頼りになる兄だったはずが、あのような姿を晒してしまった。随分、ガッカリさせてしまったことだろう。
後日、改めてエーランドは、イェスペル、ルディーを訪ねることにした。
「イェスペル、ルディー嬢、この前は本当にすまなかった。皆にも謝っていたと伝えて欲しい。恥ずかしいところも見せてしまった…」
「いいえ」
「以前、魔術師様と何かあったのですか?」
間違いなく、何かあったとしか思えない状況だっただろう。
「ああ、二人には聞いて欲しいと思い、訪ねさせてもらったんだ…」
こちらに完全に非のある形であるが、話をして置きたかった。
「彼女は優秀な魔術師だった。安易な気持ちで、関わりを持とうとした。しかし、陛下に魔法省から注意を受けたと呼び出されたことがある。十二年前だ。それなのに、イェスペルが知り合いだと分かって、また欲を出してしまったんだ…」
「そんなに優秀なんですね」
「ああ、討伐の後方支援をしているところを見たことがあるが、本当に素晴らしい魔術師だった」
「討伐を…」
イェスペルは、討伐に参加しているとは考えていなかった。
それはセナリアンが討伐のことは話を聞くばかりで、参加したとは一切言わなかったからである。騎士団にもセナリアンを知る者もいたかもしれないが、会の中は若いものが多く、知る者はいなかっただけである。
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