上 下
203 / 228
第24話

婚約者と貴重な公女14(ヨバス王国)

しおりを挟む
「どうせエイベル殿下にも、自分の方が相応しいなどと思ったのだろう」
「だって、そうじゃない」
「どこがだ!しかも、グロー様にも言い寄って、何がしたいんだ…」

 不確実な特性が影響していたのだろうが、オークレイリアはエイベルよりも、マージナルが好みだった。

「お前は幼子ではないのだぞ?お前に、この三通の手紙を受け取った時の私の気持ちが、お前に分かるか?血の気が引いたわ」
「でも、一通は公爵家でしょう?」
「王家からも信頼の厚い、公爵家だ」

 オークレイリアは、王太子殿下の側近だと言っていたことを思い出していた。

「でも、妻はどうせ貴族令嬢でしょう?いくら、王太子妃様の妹だとしても」
「ふざけるな!一番怒らせてはならないのは、王太子妃殿下と奥方様だ」
「貴族令嬢じゃないの?」
「侯爵令嬢だ」
「だったら」
「コルロンド家、シャーロット・マクレガー様の血筋だ。奥方もコルロンドの魔術師でもあるそうだ。そのような方になんて失礼なことを…吐き気がするわ!」
「っ」

 さすがにオークレイリアでも、シャーロット・マクレガーは知っていた。その血筋のコルロンド家が新しい病に対して、薬品をいち早く製造してくれるおかげで、イシュバン公国でも助かった命が沢山ある。

「薬を提供されなくなったら、どうする?お前に責任が取れるのか?」
「そ、それは…」
「お嬢さんは二十六歳の大人なのですから、自分で責任を果たすようにと書かれておった。さすが、ヨバス王国とエメラルダ王国であると思ったさ。黙って嫁ぐか、修道院の二択だ!」

 オークレイリアは、聖女信仰の強い伯爵と結婚することになった。

 特定の聖女を好んでいるわけではないのだが、聖女こそが全てであった。結婚は一度したのだが、離縁されており、その後は結婚していなかった。

 我儘を言っても、だったら帰ればいいと言われて、戻って来たら最果ての修道院だと言われていたために、戻ることは出来ず、受け入れるしかなかった。

 しかも、クリミナ皇国は閉鎖的であるために、他国の人間には冷たい。オークレイリアは、静かに過ごすしか生きて行く方法はなかった。

 こうして、自称、貴重な公女は表舞台から姿を消した。

 ヨバス王国はようやく、エイベル王太子殿下と、フランシス・ジリーヌの婚約と、一年後に結婚式を行うことを発表した。

 喜ばしい雰囲気に包まれる中、両陛下とエイベルとフランシスに、どうしてオークレイリアはマージナルに一目会っただけなのに、あんな風になったのかという謎を残していた。

 セナリアンは魔術は記録だけで一切使っていないと聞いており、珍しく役に立ったでしょうとだけ言った。正直、セナリアンに聞かれても分からないので、答えようもないのである。

 ただ、効果は抜群であったことだけは間違いない。

 そして、ジョンラとヒアルも作戦会議の時に、セナリアンに一つ気になっていたことがあった。

「セナ様、両陛下に赤黒い出来物の提案は、優しく言いましたね?少し、間がありました」
「そうです、私も気になっていました」
「目ざといわね、陛下も王妃陛下も上品でしょう?さすがにね…」

 セナリアンも最初にポンと思い付いたことは、さすがに両陛下に口をすることを憚られ、頭から消し去った。

「本当は何だったのですか?」
「下品な事だったの」
「服が破れて、裸にするとかですか?」
「それは、何かしたと分かってしまうじゃない。私は地味なのが好きなのよ?」
「では、何ですか」

 セナリアンは、誰にも言わずになかったことにしようと思っていた。

「ちょっと排泄物の香りをさせて、ハエを纏わせる…」

 ジョンラとヒアルは、ああ…という顔をした。

「それはまさに、ううん、言わなくて正解です」
「それは言えませんね…」
「でしょう?さすがに言わなかったわよ?王城が臭くなるのも、問題だものね。だから、出来物にしたの」
「はい、よき判断でした」
「はい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お気に入りに入れていただいている皆様、誠にありがとうございました。

ヨバス王国編(2回目)はこれで終わりとさせていただきます。

次の話も清書を始めておりますので、
このまま17時から第25話を投稿させていただきます。

よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...