189 / 228
第23話
閑話 ファーマス子爵家3
しおりを挟む
「あの…セナは、子どもの頃はどんな感じでしたか?コルロンド家での様子とか」
「マージナル様は、本当にセナ様がお好きなんですね」
マージナルは優しい瞳で、しみじみ言うクレオンに首を傾げた。
「いえ、セナ様のこととなると、魔術のことばかり聞かれるので、新鮮です」
「愛していますから!」
クレオンは結婚して子どももいるのに、恥ずかしげもなく言い切り、キラキラさを増すマージナルに眩しさを感じた。
「一目惚れなんて安易に使いたくはないですが、初めて見た時に眠れずに朝を迎えました。父に頼んではみましたが、公爵家でもコルロンド家の直系は競争率が高いと言われ、それでもどうにかと婚約を打診したのですが、断られてしまい、今度は泣き疲れて朝を迎えました」
マージナル少年、淡い初恋ではなく、しつこい初恋の始まりである。
「そ、それは…何と言えばよろしいのか…」
「両親も折を見て、義両親に売り込んでくれていたようで、何とかここまで漕ぎ着けました」
誇らしそうに胸を張っているが、セナリアンにはあまり伝わっていないことを知っているクレオンは、何とかフォローしなくてはと思った。
「セナ様は色恋に疎いというよりは、重きを置けない境遇ですから、マージナル様に出会えて良かったと思います」
「ありがとうございますっ!」
マージナルは少年のような笑顔で、弾けた声を上げ、ひと悶着あった結婚だと知っているが、一生愛し続けそうな様子に、心から良かったとクレオンは思った。
言うつもりはないが、ファーマス家でセナ様は一体どのような方と結婚するのが幸せなのかと、本気で家族会議が開かれたこともある。
「セナ様の子どもの頃の話ですよね…」
「はい!」
「幼いことから優秀でしたので、正直…今とあまり変わらないですね。振り回されたとしても、待っているのは成果でしたから」
「親子鑑定とか?」
「はい、ただ…セナ様がたまに暑い日に、アイスを食べたいと言い出すことがありまして。アイくらいで、何味がいい?ってジュシ様がおっしゃって」
「想像が出来ます」
ジュシ殿がセナリアンに優しい顔を向ける姿が、容易に想像が出来る。
「はい、そこから買いに行こうとするジュシ様に私が行きますと、うちの父と揉める訳です。いや、私が頼まれたから、それを頼まれるのが私でしょうと。さらに別の魔術師もいますから、私たちが買って来ますと、またややこしくなって」
いい大人が本気で、わちゃわちゃと揉めている光景である。
「それをリルラビエ様に気付かれた際は、早く買って来なさいと怒られて終わるのですけど、時間が掛かるわけです。これが今回は私がになって、毎回繰り返されるんです。セナ様は買って来たら、教えてくれるだろうと思っているので、飄々と別のことをされています」
「それも想像が出来ます。効率がいいことが、セナリアンは好きですから。ずっと可愛かったんだろうな」
マージナルは初めて会った時、イエローのドレスを着た、天使のような四歳のセナリアンを思い出していた。
「セナ様は必要なものは言いますが、あれが欲しいなんて、まず言うことがないものですから、争奪戦なんですよ。アイスを買ってきたことですら誇りなのです」
「確かに…強請られたことはないような気がします。私も言われたら買いに走る自信があります」
「ええ、私も走ります。ただコルロンド家は我が我がと…私は未だに買いに行けたことはありません。子どもの頃はそれを私も頂いていたんですけども」
クレオンも当時は子どもだったので、ちゃっかり美味しいアイスのおこぼれを貰い、セナリアンと美味しいねと食べていたが、それは言わないことにした。
「羨ましい…今度、食べに行こうと誘ってみようかな」
「暑い日が良いと思います」
うんうんと嬉しそうに頷くマージナルが、セナリアンに懐いている子どもの様で、もはや可愛いとすら思えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お気に入りに入れていただいている皆様、誠にありがとうございました。
閑話もこちらで終了となります。
お読みいただきありがとうございました。
また清書が出来ましたら、よろしくお願いいたします。
「マージナル様は、本当にセナ様がお好きなんですね」
マージナルは優しい瞳で、しみじみ言うクレオンに首を傾げた。
「いえ、セナ様のこととなると、魔術のことばかり聞かれるので、新鮮です」
「愛していますから!」
クレオンは結婚して子どももいるのに、恥ずかしげもなく言い切り、キラキラさを増すマージナルに眩しさを感じた。
「一目惚れなんて安易に使いたくはないですが、初めて見た時に眠れずに朝を迎えました。父に頼んではみましたが、公爵家でもコルロンド家の直系は競争率が高いと言われ、それでもどうにかと婚約を打診したのですが、断られてしまい、今度は泣き疲れて朝を迎えました」
マージナル少年、淡い初恋ではなく、しつこい初恋の始まりである。
「そ、それは…何と言えばよろしいのか…」
「両親も折を見て、義両親に売り込んでくれていたようで、何とかここまで漕ぎ着けました」
誇らしそうに胸を張っているが、セナリアンにはあまり伝わっていないことを知っているクレオンは、何とかフォローしなくてはと思った。
「セナ様は色恋に疎いというよりは、重きを置けない境遇ですから、マージナル様に出会えて良かったと思います」
「ありがとうございますっ!」
マージナルは少年のような笑顔で、弾けた声を上げ、ひと悶着あった結婚だと知っているが、一生愛し続けそうな様子に、心から良かったとクレオンは思った。
言うつもりはないが、ファーマス家でセナ様は一体どのような方と結婚するのが幸せなのかと、本気で家族会議が開かれたこともある。
「セナ様の子どもの頃の話ですよね…」
「はい!」
「幼いことから優秀でしたので、正直…今とあまり変わらないですね。振り回されたとしても、待っているのは成果でしたから」
「親子鑑定とか?」
「はい、ただ…セナ様がたまに暑い日に、アイスを食べたいと言い出すことがありまして。アイくらいで、何味がいい?ってジュシ様がおっしゃって」
「想像が出来ます」
ジュシ殿がセナリアンに優しい顔を向ける姿が、容易に想像が出来る。
「はい、そこから買いに行こうとするジュシ様に私が行きますと、うちの父と揉める訳です。いや、私が頼まれたから、それを頼まれるのが私でしょうと。さらに別の魔術師もいますから、私たちが買って来ますと、またややこしくなって」
いい大人が本気で、わちゃわちゃと揉めている光景である。
「それをリルラビエ様に気付かれた際は、早く買って来なさいと怒られて終わるのですけど、時間が掛かるわけです。これが今回は私がになって、毎回繰り返されるんです。セナ様は買って来たら、教えてくれるだろうと思っているので、飄々と別のことをされています」
「それも想像が出来ます。効率がいいことが、セナリアンは好きですから。ずっと可愛かったんだろうな」
マージナルは初めて会った時、イエローのドレスを着た、天使のような四歳のセナリアンを思い出していた。
「セナ様は必要なものは言いますが、あれが欲しいなんて、まず言うことがないものですから、争奪戦なんですよ。アイスを買ってきたことですら誇りなのです」
「確かに…強請られたことはないような気がします。私も言われたら買いに走る自信があります」
「ええ、私も走ります。ただコルロンド家は我が我がと…私は未だに買いに行けたことはありません。子どもの頃はそれを私も頂いていたんですけども」
クレオンも当時は子どもだったので、ちゃっかり美味しいアイスのおこぼれを貰い、セナリアンと美味しいねと食べていたが、それは言わないことにした。
「羨ましい…今度、食べに行こうと誘ってみようかな」
「暑い日が良いと思います」
うんうんと嬉しそうに頷くマージナルが、セナリアンに懐いている子どもの様で、もはや可愛いとすら思えたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
お気に入りに入れていただいている皆様、誠にありがとうございました。
閑話もこちらで終了となります。
お読みいただきありがとうございました。
また清書が出来ましたら、よろしくお願いいたします。
569
お気に入りに追加
1,530
あなたにおすすめの小説
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
たとえ番でないとしても
豆狸
恋愛
「ディアナ王女、私が君を愛することはない。私の番は彼女、サギニなのだから」
「違います!」
私は叫ばずにはいられませんでした。
「その方ではありません! 竜王ニコラオス陛下の番は私です!」
──番だと叫ぶ言葉を聞いてもらえなかった花嫁の話です。
※1/4、短編→長編に変更しました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる