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第22話
閑話 アローラの出産2
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その日、午後が数時間空いたので、セナリアンもようやくアローラのお見舞いに行くことになった。
「お義姉様ぁ~会いたかった」
「悪阻ですって?」
「そうなんです~あの日まで平気だったのに」
「さすがに私も悪阻はどうにもならないから」
吐き気を抑える、癒しを施すくらいは出来るが、余程でない限り、妊婦にはあまり行わないようにしている。
「お義姉様に会うだけで生き返ります」
「まあ、でも気持ちはわかるわ。安心するわよね」
「そうですか?」
「そうよ、セナちゃんがいるだけで安心するの」
妊娠、出産時に生命の神が付いていることなんてまずない。セナリアンに大丈夫と言われることが、どれだけ安心感を与えるか、計り知れない。
「何か欲しいものがあるかと思って」
「涎掛けが欲しいです」
「刺繍ってことね、えっと…ワンスア侯爵家の紋章は何だったかしら?」
「トナカイです」
「可愛いわね、分かったわ。いくつか作って置くわ。大きくなったら、トナカイのセーターも編んであげるわ」
「わあ!ありがとうございます!」
「お義父様もまたお揃いだと、嬉しいかもしれませんね」
「そうね、ルセルとジュジュも、お揃いではしゃいでいたものね」
ジュジュも大きくなって、三人で白鳥とカンガルーのセーターを着て大変喜んでおり、もちろんタヌキのおじいちゃまも喜んでいた。
「でも、ワンスア侯爵が微妙かしら?」
「ああ…そうよね、二人してお揃いも、ねえ?ちょっと…ふふっ」
またタヌキのセーターの時の様に想像をしたのか、ルラーラは笑いが堪え切れなかったようだ。ワンスア侯爵も目鼻立ちの整った容姿だが、猛々しい。
「確かにお揃いのセーターを着たいと思うか分かりませんが…お父様とお揃いになったら、ちょっと…ふふっ」
「そこはまだ時間もあるし、いずれ相談ね」
「はい!何か元気になって来たかも」
「やっぱり気持ちの問題なのかしら?」
本当にアローラはすっかり悪阻も落ち着いて来て、ルラーラは何だったのかしらと思うほどだった。
セナリアンはせっせと合間の時間で刺繍を行い、涎掛けは生地から縫ったが、マント、カバーオールは既製品を買って来て、刺繍やワッペンを作った。
そして、第一子・コートルが誕生。
顔立ちはアローラ寄りだが、色味はリックスであった。
出産は医師に任せ、ワンスア侯爵家で出産となったために、さすがにセナリアンも数日経ってから、お祝いに駆け付けた。
贈られた品々はセナリアンだけが確信をしていた、男の子向けの物であった。結局アローラは性別をリックスと相談して聞かなかった。
セナリアンも徹底して、性別が分かりそうな刺繍する姿を、グロー公爵内では見せなかったので、誰も勘付くことは出来なかった。
アローラは産後にも関わらず、大騒ぎであった。
「可愛い!凄い!お義姉様、大好き」
「セナリアン様、ありがとうございます」
夫・リックスは人の良さそうな笑顔をしているが、魔術師として意外と容赦ないことを知っている。だが、アローラのことは大事にしているので、問題ない。
「産後ハイね!」
「そうじゃないです、だってまず涎掛け、丸いのも可愛いけど、四角い方も襟みたいで可愛い!しかもトナカイ!ここの刺繍も、ワッペンも可愛い!」
セナリアンの涎掛けは、丸い従来の物もあったが、襟のように四角くなっている物もあり、そこへさらに愛らしいトナカイが刺繍してあった。
「まあ!これを夫人がなさったの?」
アローラの義母で、リックスの母であるミオリーゼ・ワンスア。少しふくよかな体系をしているが、元魔術師団員である。
「涎掛け以外は、既製品に刺繍しただけですよ?」
「えええ?これ全部?こんな素晴らしい刺繍、見たこともないわ」
「ありがとうございます」
「トート伯爵夫人に誘われたことがあるのではなくて?」
「ああ…ありますね、断り続けてますけど…」
トート伯爵夫人が刺繍の会を行っており、子どもの頃から幾度と誘われているが、断り続けている。
「そうか!ルージエ侯爵!」
「母さん、急に大きな声を出さないでくれ」
「あら、ごめんなさい。ついね」
「お義姉様ぁ~会いたかった」
「悪阻ですって?」
「そうなんです~あの日まで平気だったのに」
「さすがに私も悪阻はどうにもならないから」
吐き気を抑える、癒しを施すくらいは出来るが、余程でない限り、妊婦にはあまり行わないようにしている。
「お義姉様に会うだけで生き返ります」
「まあ、でも気持ちはわかるわ。安心するわよね」
「そうですか?」
「そうよ、セナちゃんがいるだけで安心するの」
妊娠、出産時に生命の神が付いていることなんてまずない。セナリアンに大丈夫と言われることが、どれだけ安心感を与えるか、計り知れない。
「何か欲しいものがあるかと思って」
「涎掛けが欲しいです」
「刺繍ってことね、えっと…ワンスア侯爵家の紋章は何だったかしら?」
「トナカイです」
「可愛いわね、分かったわ。いくつか作って置くわ。大きくなったら、トナカイのセーターも編んであげるわ」
「わあ!ありがとうございます!」
「お義父様もまたお揃いだと、嬉しいかもしれませんね」
「そうね、ルセルとジュジュも、お揃いではしゃいでいたものね」
ジュジュも大きくなって、三人で白鳥とカンガルーのセーターを着て大変喜んでおり、もちろんタヌキのおじいちゃまも喜んでいた。
「でも、ワンスア侯爵が微妙かしら?」
「ああ…そうよね、二人してお揃いも、ねえ?ちょっと…ふふっ」
またタヌキのセーターの時の様に想像をしたのか、ルラーラは笑いが堪え切れなかったようだ。ワンスア侯爵も目鼻立ちの整った容姿だが、猛々しい。
「確かにお揃いのセーターを着たいと思うか分かりませんが…お父様とお揃いになったら、ちょっと…ふふっ」
「そこはまだ時間もあるし、いずれ相談ね」
「はい!何か元気になって来たかも」
「やっぱり気持ちの問題なのかしら?」
本当にアローラはすっかり悪阻も落ち着いて来て、ルラーラは何だったのかしらと思うほどだった。
セナリアンはせっせと合間の時間で刺繍を行い、涎掛けは生地から縫ったが、マント、カバーオールは既製品を買って来て、刺繍やワッペンを作った。
そして、第一子・コートルが誕生。
顔立ちはアローラ寄りだが、色味はリックスであった。
出産は医師に任せ、ワンスア侯爵家で出産となったために、さすがにセナリアンも数日経ってから、お祝いに駆け付けた。
贈られた品々はセナリアンだけが確信をしていた、男の子向けの物であった。結局アローラは性別をリックスと相談して聞かなかった。
セナリアンも徹底して、性別が分かりそうな刺繍する姿を、グロー公爵内では見せなかったので、誰も勘付くことは出来なかった。
アローラは産後にも関わらず、大騒ぎであった。
「可愛い!凄い!お義姉様、大好き」
「セナリアン様、ありがとうございます」
夫・リックスは人の良さそうな笑顔をしているが、魔術師として意外と容赦ないことを知っている。だが、アローラのことは大事にしているので、問題ない。
「産後ハイね!」
「そうじゃないです、だってまず涎掛け、丸いのも可愛いけど、四角い方も襟みたいで可愛い!しかもトナカイ!ここの刺繍も、ワッペンも可愛い!」
セナリアンの涎掛けは、丸い従来の物もあったが、襟のように四角くなっている物もあり、そこへさらに愛らしいトナカイが刺繍してあった。
「まあ!これを夫人がなさったの?」
アローラの義母で、リックスの母であるミオリーゼ・ワンスア。少しふくよかな体系をしているが、元魔術師団員である。
「涎掛け以外は、既製品に刺繍しただけですよ?」
「えええ?これ全部?こんな素晴らしい刺繍、見たこともないわ」
「ありがとうございます」
「トート伯爵夫人に誘われたことがあるのではなくて?」
「ああ…ありますね、断り続けてますけど…」
トート伯爵夫人が刺繍の会を行っており、子どもの頃から幾度と誘われているが、断り続けている。
「そうか!ルージエ侯爵!」
「母さん、急に大きな声を出さないでくれ」
「あら、ごめんなさい。ついね」
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