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第22話

召喚姫7(アザンゼル王国)

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「こちら国は聖女は要らないということですか?」
「それぞれの国の考えや成り立ちによって、聖女として置く国、置かない国があるだけです。ヨバス国にも行かれたのでしょう?あちらは以前は聖女と称していましたが、現在は男女共に治癒師や神官と改めています」
「ああ、そうでした。説明を受けました。ではもし私がこちらに住みたいと言えば、聖女ではなくなるということですか」

 早く帰って欲しいだけで、住んで欲しいなど一切思っていないリスルートだったが、仕方ないので答えている。

 エメラルダ王国ではないが、平民から聖魔法が使えることで聖女となって、持て囃されるということは他国では起きており、こういうことかと考えていた。

「そうですね、例えば互いの国が認めた上で留学という形であれば、聖女という扱いになるかもしれませんが、当国に籍を置くという形であれば聖女とは扱いません」
「じゃあ、今みたいな暮らしじゃなくなるのか…でもここならいい暮らしが出来ますよね!私、あまり裕福では無かったので、豪華な暮らしがしたいとまでは言いませんけど、不自由のない暮らしがしたいんです。結婚もしたいですし」

 こちらに言われても困る、アザンゼル王国に責任を取って貰ってくれと言いたいところをグッと我慢した。

「そういったことはアザンゼル王国の方と話した方がいいですよ」
「お見合い?みたいなことは何度もさせられたんですけど」

 レイ・スズキはさすがに二十九歳なので、さすがに始めは弁えてはいたのだが、もてなされる状況に横柄になっていっていた。

 トントンとドアを叩く音がし、マージナルがそろそろ次の予定時刻ですと迎えに来たようだ。

「時間のようですね、あとは総団長お願いします」
「承知しました」

 総団長と女性団員で、治癒術を扱う部を案内し、全て治癒術に頼る訳ではなく、薬などでも対応すると説明を受けた。

「あの、さっき王太子様を迎えに来た男性は貴族の方ですよね」
「ええ、公爵家の方です」
「そうなんですね!」
「どうかしましたか?」
「アザンゼル王国では、あまり年の近い方が周りにいなかったので」
「そうでしたか、帰られたら同じ年の者と交流したいと言ってみてはいかがですか」
「…そ、そうですね」

 レイ・スズキはアザンゼル王国と同じように王宮内を勝手に歩き回っていた。そして前方に歩くマージナルを見付けて、走り寄った。

「あの!私、アザンゼル王国から来た聖女なんですけど、実は違う世界から連れて来られて。助けて欲しいんです」
「どういうことですか?」
「無理矢理、連れてこられたんです」
「ゆっくりお話を伺いましょう」
「はい!ありがとうございます」

 マージナルはここで待っていて欲しいと部屋に案内し、王太子と先程の女性団員であるスピナ・サンドリアという女性を連れてやって来た。王太子が席に座り、マージナルとスピナは後方に付いた。

「話を聞かせて貰えますか」

 レイ・スズキの方から話したいというのであれば、こちらも聞いたということが言えるため、急遽聞くことになった。

「はい!実は私はニホンという国に住んでいて、そこからこの世界に来たのです」
「名前も?」
「はい、ニホンの名前です」
「年齢も来た時の年齢ですか?」
「っえ、はい」

 レイ・スズキはセナリアンの鑑定では二十九歳だったが、アザンゼル王国の資料によると二十二歳となっていた。

 記憶が二十二までしかしかないのではないか?という結論になったが、ただ若く見せようとしたのではないかという意見もあった。どうやら今の反応を見る限り、後者だったようだ。

「ニホンとはどのような国なのですか」
「それが便利な国だったことは朧げに覚えているのですが、詳しいことはあまり思い出せなくなっていて」
「記憶が無いのですか」
「何か食べたら、これよりもっと美味しかったのにとか、不便だなとかは感じるんですけど、どんなものだったか具体的には思い出せなくて」

 そういった記憶は思い出せなくなっているのかもしれない。
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