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第21話

踊る阿呆に付ける薬はない5

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「愛人を持ったことに、夫人は最初受け入れられなかったのではありませんか?」
「ち、違う!認めたんだ」
「認めさせたんでしょう?浮気は男の甲斐性だとか、言ったのではなくて?」
「何が悪い」
「それは男性の言った言葉でしょう?女性から発された言葉ではないことは明らか、だから女性は認められないんですよ。そもそも、あなたに甲斐性ありますの?」
「当たり前だろう!」
「責任感すら愛人への対応を見る限り、ないわよね?あったら、出来ませんわよね」
「ぅぐ」

 もはやセナリアンの独壇場である、妻になり、母になったセナリアンだからこそ、痛いところを突く様が鋭くなっている。

「夫人、異常者だって知ってらした?」
「……知りませんでした。信じられない」

 さすがに同じ女性として、恐怖を感じたのだろう。異常者とはそういうものだ。

「邸に帰って来ない日が多くなって、問い詰めたら愛人なんて当たり前だろう。認めない方が心の狭い恥ずかしい奴だと思われるぞと、言われて…」
「どちらが心が狭いのかしら?心なんてないのかしら?異常者だものね?」

 簡単に場を制圧する威力を持つとはいえ、今日は正論の殴り込みである。陛下の前でそのような予定はないはずだが、血も今日は問題ありませんわよと思っている。

「夫人の罪は重いです。でもあなたの罪も重いはずです。ねえ、恥ずかしいのはどちらだったんでしょうね?陛下、いかがでしょうか」

 久し振りに生でセナリアンのぐうの音も出させない様子に、気分がいいくらいだが、内容は許せるようなことではない。

「夫人の行いも許される行為ではない。さらに伯爵も犯行を行っていたとは遺憾である。処罰が決まるまで牢へ!!」
「違います、別れてからおかしくなったんです」

 夫人はすっかり気落ちして、黙って頭を下げたが、伯爵はまだ喚いている。

「まさか逃れられると思っているんですか?この期に及んで?謝るくらいの気合を見せなさいよ!リシリーさんは年若い娘ですよ。あなたは将来を奪ったんですよ」

 シシリーは治療に何年かかるか分からない、性欲モンスターほどではなかったが、正常に戻れるかすら分からない。自衛するべきだったとは思うが、若い娘だからこそ騙されたのだろう。ローズもこれからどうなるか分からない。

「この子は分からなくて…」
「分からない?こんないい年したおっさんが?何が分からないというのです!そんなことも分からないなら、伯爵の方を邸に閉じ込めておけばいいでしょう!」
「そ、そんなこと、可哀想じゃない」
「あなたも息子が異常者だと、知っていたのですよね?」

 異常者だと言っても、驚く反応もせず、庇っていることから明らかである。

「グリーラ前伯爵夫人も牢へ!」
「っあ、いえ」

 分かっていて行った異常者は、見せしめのために牢で処罰を待つことになる。

「仲良く行きなさい。母親だというなら、すべきことは庇うことではなく、反省と責任の取り方を考えるべきだと分かりませんか?」
「…私は、あっ、はっ」
「私はせめて、親というものとして、子に謝罪が出来るくらい後悔し、自分の愚かさを知るべきだと存じます。ご子息にはカウンセラーをお勧めします。以上、長々と失礼しました。伯爵の証拠は後ほど提出します」
「ご苦労であった」

 偶然にも関わってしまったセナリアンだったが、夫人と令息達を王宮騎士団が取り調べをしていたが、マージナルから伯爵に男爵令嬢の愛人がいると聞き、念のため確認をすると異常者だと分かり、前の愛人も見付かったのだ。二人は既に更生施設に入り、費用は伯爵から引き出す予定である。

 伯爵、伯爵夫人、前伯爵夫人、そして手を貸した令息者も、罰を受けることが決まった、妻や子もおり、これから大変だろう。

 だが、愚かなことをしたのは自分たちの責任だ。

 魔力差のことは、時折起こってはいるが、異常者の摘発は久しぶりであった。


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お気に入りに入れていただいている皆様、誠にありがとうございました。

踊る阿呆編はこれで終わりとさせていただきます。
そして、次の話の1話目を投稿しています。

よろしくお願いいたします。
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