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第21話
踊る阿呆に付ける薬はない2
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見た目は儚げにも見えなくもないセナリアン。アローラはほっとした様子で駆け寄り、ご婦人はすぐさま誰だか分かったので、頭を下げた。何せご婦人は先程までセナリアンのドレスと美しさをアローラに語っていたのだから。
本日のまるで女帝と言っても過言ではない佇まいだった。だが、魔力を抑えているので、相手には分からない。
「ねえ、聞こえないの?」
「誰だ?合意の元で一晩の夢を見せてやるって言ってるんだよ。ヒイヒイ喜ぶぜ」
「へえ…ヒイヒイさんは素晴らしいテクニックをお持ちなのね?」
「そうだよ、皆喜ぶぜ。てか何だよ、ヒイヒイさんって」
「でしたらお名前は?」
「何で言わなきゃならないんだよ」
身に付けている物から金持ちそうだが、私が知らないということは大した相手ではない。なぜ名前を教えなくてはならないんだ?
「自己紹介すら出来ないの?」
「なんで子どもじゃあるまいし、自己紹介なんかしなきゃいけないんだよ。お前も参加したいのか、良いところ令嬢そうだし、いいよな」
「くふふ、その綺麗なそのドレスを俺が脱がしてやるよ」
「なぜ着飾って貰ったのに、あなたに脱がされなきゃならないの?」
「ぷはは、お嬢ちゃん、知らないのかい?随分初心なんだな、ひひひ」
ジョンラ、ファナ、アローラは思った。こいつ、死にたいのか?
二人はそう言っていたが、残る二人は誰だか分かったようで、冷や汗が止まらなかった。セナリアン・グロー、時期グロー公爵家夫人、ルージエ侯爵家次女、コルロンド子爵家の縁者、王太子妃の妹。もはや死しかない相手だ。
どうにか自分たちの身元がバレる前に逃げ出したかったが、何も言い訳が思いつかなかった上に、その場から動けなかった。
「まずご婦人こちらへ。私はセナリアン・グローです。あなたたちも自己紹介してくださらない?」
「グロー…公爵家…」
「王太子妃様の妹君です」
「あっ、いや、あの…」
二人はセナリアンを初めて見た。聞こえなかったことにしたい、嘘だろう…不味い、不味いと二人もあたふたし始めた。
「早くしてくださらない?」
「セナ様、たくさん喋ったので喉が渇いたでしょう。ウォッカです」
「まあ、気が利くわね~」
セナリアンの最近のお気に入りであるウォッカがグラスに並々と注がれている。漂う匂いだけで度数が高いものだと分かる。ジョンラは小脇にセナリアン専用のバスケットを抱えている。一杯、二杯、三杯と優雅にグビグビ飲んでいる。
アローラにとってはいつもの光景、今日もよく飲まれてという日常であったが、ご婦人は目を見開いていた。
「はぁ…三杯飲んでいる間に一人も答えない。ジョンラ、鼻からウォッカ飲んで貰ったらお口が動くかしら?」
「そうですね…これは四十度くらいのものですから、大して効果は無いかもしれませんね。鼻血くらいは出るやもしれませんが」
「今日は血は困るわ」
いつもならいいが、今日はドレスに飛び散ったら困るという意味である。
「ですね」
「この前あの最強のウォッカ飲んじゃったものね」
「ええ、あれなら火ぐらいは吹けたかもしれませんね。まだ追加が届いておりませんで、残念でございます」
困ったわねと可愛らしい顔を披露したところでヒイヒイさんが喋り出した。
「ち、違うんです、俺達グリーラ伯爵夫人に頼まれて」
「へえ…」
「あのオバサン!マイリーンのご主人に付き纏っているの」
マイリーンがマイリーン・ワートスですと頭を下げている。アローラとは家庭教師が同じだった関係で親しいそうだ。
「なるほどね」
セナリア―――ン!!と叫ぶ声が聞こえ始めた。
「あら、あなたたちが自己紹介しないから面倒なのが来ちゃったわね」
「本当ですわね」
キラキラ輝き過ぎているマージナルである。後ろに王宮騎士団がいるが、マージナルだけシャンララシャンララと効果音が付きそうだ。
本日のまるで女帝と言っても過言ではない佇まいだった。だが、魔力を抑えているので、相手には分からない。
「ねえ、聞こえないの?」
「誰だ?合意の元で一晩の夢を見せてやるって言ってるんだよ。ヒイヒイ喜ぶぜ」
「へえ…ヒイヒイさんは素晴らしいテクニックをお持ちなのね?」
「そうだよ、皆喜ぶぜ。てか何だよ、ヒイヒイさんって」
「でしたらお名前は?」
「何で言わなきゃならないんだよ」
身に付けている物から金持ちそうだが、私が知らないということは大した相手ではない。なぜ名前を教えなくてはならないんだ?
「自己紹介すら出来ないの?」
「なんで子どもじゃあるまいし、自己紹介なんかしなきゃいけないんだよ。お前も参加したいのか、良いところ令嬢そうだし、いいよな」
「くふふ、その綺麗なそのドレスを俺が脱がしてやるよ」
「なぜ着飾って貰ったのに、あなたに脱がされなきゃならないの?」
「ぷはは、お嬢ちゃん、知らないのかい?随分初心なんだな、ひひひ」
ジョンラ、ファナ、アローラは思った。こいつ、死にたいのか?
二人はそう言っていたが、残る二人は誰だか分かったようで、冷や汗が止まらなかった。セナリアン・グロー、時期グロー公爵家夫人、ルージエ侯爵家次女、コルロンド子爵家の縁者、王太子妃の妹。もはや死しかない相手だ。
どうにか自分たちの身元がバレる前に逃げ出したかったが、何も言い訳が思いつかなかった上に、その場から動けなかった。
「まずご婦人こちらへ。私はセナリアン・グローです。あなたたちも自己紹介してくださらない?」
「グロー…公爵家…」
「王太子妃様の妹君です」
「あっ、いや、あの…」
二人はセナリアンを初めて見た。聞こえなかったことにしたい、嘘だろう…不味い、不味いと二人もあたふたし始めた。
「早くしてくださらない?」
「セナ様、たくさん喋ったので喉が渇いたでしょう。ウォッカです」
「まあ、気が利くわね~」
セナリアンの最近のお気に入りであるウォッカがグラスに並々と注がれている。漂う匂いだけで度数が高いものだと分かる。ジョンラは小脇にセナリアン専用のバスケットを抱えている。一杯、二杯、三杯と優雅にグビグビ飲んでいる。
アローラにとってはいつもの光景、今日もよく飲まれてという日常であったが、ご婦人は目を見開いていた。
「はぁ…三杯飲んでいる間に一人も答えない。ジョンラ、鼻からウォッカ飲んで貰ったらお口が動くかしら?」
「そうですね…これは四十度くらいのものですから、大して効果は無いかもしれませんね。鼻血くらいは出るやもしれませんが」
「今日は血は困るわ」
いつもならいいが、今日はドレスに飛び散ったら困るという意味である。
「ですね」
「この前あの最強のウォッカ飲んじゃったものね」
「ええ、あれなら火ぐらいは吹けたかもしれませんね。まだ追加が届いておりませんで、残念でございます」
困ったわねと可愛らしい顔を披露したところでヒイヒイさんが喋り出した。
「ち、違うんです、俺達グリーラ伯爵夫人に頼まれて」
「へえ…」
「あのオバサン!マイリーンのご主人に付き纏っているの」
マイリーンがマイリーン・ワートスですと頭を下げている。アローラとは家庭教師が同じだった関係で親しいそうだ。
「なるほどね」
セナリア―――ン!!と叫ぶ声が聞こえ始めた。
「あら、あなたたちが自己紹介しないから面倒なのが来ちゃったわね」
「本当ですわね」
キラキラ輝き過ぎているマージナルである。後ろに王宮騎士団がいるが、マージナルだけシャンララシャンララと効果音が付きそうだ。
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