上 下
130 / 228
第19話

閑話 どうぶつクリスプス2

しおりを挟む
「あの~私も是非ご一緒したいんですけど~いいですかぁ?きっと私がいると楽しくなると思います」

 距離を置いて見ていた者は確かに誘われたら行きたいが、よくもあの中に入っていけたなと、誰かを確認するとああという人物であった。

 子爵家の令嬢なのだが、高位貴族にだけ声を掛け、相手にされなくても照れているのねとめげないのである。あの五人の内、三人が公爵家である。そこへ気軽に声を掛けれるのは王族か、血縁者くらいだろう。どういう神経をしているのだろう。

『ばばあ~』

 強い上半身を乗り出して、子爵令嬢にしっかり人差し指を立てて向けており、お前だと言わんばかりである。

「あらあら、まだそんな御年ではないわよ」
『ばばあ~』
「っな!」

 周りに失笑が起きており、まともな貴族令息と貴族令嬢は目に余る態度だったため、ざまあみろという気持ちであった。

 子爵令嬢は真っ赤になっている。でも相手はどこからどう見ても、マージナル・グロー、ルラーラ・グローにそっくりな赤子である。さすがに怒鳴りつけることは出来なかったらしい。

「あなた方の先輩かしら?」
「さあ、存じ上げない方です」「「同じくです」」
「同級生です~名前は~エリン『ばばぁ~ばばぁ~』」

 ジュジュが食い気味にまだばばあだと言っている。

「この子たちより御年を召しているから先輩かと思ったんだけど、違うのね」
「同級生だと言ってるじゃないですか~」
「とても元気そうに見えますけど、ご病気だったのかしら?それで入学が遅れたのではなくて?」
「ちっ、違います」
「そう、まあどうでもいいわ。ジュジュはあなたを誘っていないの。私たちは急ぎますの。さようなら」

 私の車に付いてきてくださいねと颯爽と去って行った四人。残された子爵令嬢はぽつんと取り残されて、皆は見ないようにして帰って行くことになった。追いかけようにも寮暮らしで車は持っていない。

 ルージエ邸に着くと本当に捕まえたのねと笑う母・ルシュベルに迎え入れられた。

「ジュジュ、しっかりおもてなししてね」
『かぁ~』

 ノエルにはいと渡し、準備してくるからと去って行った姉の背中を見送ると、二人に向かって頭を下げた。

「二人とも、巻き込んで申し訳ない」
「光栄だよ」「ええ、嬉しいです」

 二人には姉はコルロンド家の魔術師であると説明してある。

「すまない、クリスプスの味見をして意見を聞きたいそうなんだ。身内ばかりでは駄目だと言い出して」
「楽しみだよ」「ああ、私も楽しみだ」
『あっぷ~』
「ね~ジュジュ嬢」
『あ~あ~』
「本当に可愛いね、グロー様にそっくりだが、髪色が違っても顔立ちの威力は変わらないものだね」
「顔立ちはそうだね、でもさっき二人の指を握っているのを見て、姉の子だなって思ったよ」
「あれは力強かったね」「ああ、勇ましかった。ところで先程の言葉はどういうことなんだろうか、偶然とは思えないのだが」
「おそらく姉が関わっていると思うよ、後で聞くとしましょう」

 ジュジュは目をこすり出したので、母に預けて、四人と大柄のルージエ家の執事のカールソンだけとなった。

 準備ができましたお嬢様と言っているが、ルージエ家の執事は大柄で筋肉隆々であるため、はち切れそうなジャケットに、太い腕にシューリアンとハルリットは少し驚いた顔をしている。

 これはもちろんミミスのせいである。坊ちゃまを運ぶという職務があるため、現在領地にいる前の執事は鍛えることとなり、その息子であるカールソンも同様に鍛えるようになって、この有様である。

「ありがとう、カールソン」
「恐れ入ります」

 もちろんセナリアンとも親しく、子どもの頃はよく肩に乗せてもらい、よく鍛錬をしていたほどである。セナリアンがグローの執事は細くて驚いた、あれでは肩に乗れないわと言っていたが、普通は肩に乗れないものである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者は王女殿下のほうがお好きなようなので、私はお手紙を書くことにしました。

豆狸
恋愛
「リュドミーラ嬢、お前との婚約解消するってよ」 なろう様でも公開中です。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

処理中です...