126 / 228
第19話
綻びのない国なんてない11(ノイザール王国)
しおりを挟む
「綻びのない国なんてないんです。どの国だって綻びはあるものです」
「だけど、私は兄のようには…兄がいれば」
「どうしてお兄様に会いに行かないのですか」
セナリアンは居場所を知っているのだから、会いに行くことは出来るのに一度もしていないことを、不思議に思って口にした。
「合わせる顔がなかったのです。母が私を国王にしようと、冤罪だったことも分かっていました。私にはあんな母でも、昔は唯一の頼りだった。でも兄がいなくなってから、母は邪魔でしかないことに気付きました…」
側妃で第二王子、母親の実家は力のない伯爵家、誰もがイヴァンを優先し、フィラスにとって確実な味方は母親だけだったのだろう。でもイヴァンは自身がいなくなったことで、味方が増えたのなら良かったのかもしれないと思っていた。
「会ったら何を言いたいのですか?まさか王になってくれと?」
「母があのようなことしなければ、ここにいたのは兄です」
順当にいけばそうだっただろう、でも兄が退いた可能性はある。
「では、御父上に頼んで、母親を排除すれば良かった。違いますか?あなたは兄に見せたかったのではありませんか?自分が作った褒められるような国を。自分には出来なかったと言わせたかったのではありませんか?」
「そんなことは…」
「あなたは兄がいなくなったことで、唯一の王子となった。待遇は変わり、王になった。でもまだ兄を慕う者も多い。だからこそ、綻びのない国なんて、おとぎ話のような国を作ろうとした。目標とするにはいいですが、兄を兄をと言いながら、譲るような行動はしていない。変ですよね?」
「…」
「居場所を失うのが怖かったんでしょう?そう言えば良かったのに。国王ともなる者が、正当化するのは止めなさい」
一度知った温かい場所は手放したくないのは無理もない。だからこそ、成果を上げなければと焦る気持ちを持っていた。そこへ全属性持ちという令嬢に目を付けて、自身ではなく、息子へ押し付けるのは許し難い。
「まあいいです、魔法省としては魅了を封じます。そして、掛った者たちには解除をします。酷いものではないので、狂ったりすることはないでしょう」
「分かりました…」
光属性であっても、魅了を使っている者を野放しにするわけにはいかない。
「王太子殿下は立派に育っておいでだと聞きます。任せたいと思う気持ちがあるのなら、押し付けるのではなく、婚約されたいお相手も素晴らしい方なのですから、見守ってはいかがですか」
「…そうでしょうか」
「ええ、私には子どもはいませんが、人を見守るというのも大変なものです。ですが、大事なことですよ」
「…はい」
フィラスの目にはイヴァンではないが、イヴァンは兄として魔法省長として、フィラスに告げたのだろう。そして見守られているのはセナリアンでもある。
後日、チュリル・ロッパーは魅了封じを行うために呼び出されることになった。フィラス陛下と王太子、そして魔術師長が同席することとなった。
「魔法省の方、またお会いしましたね。この前の誤解を解きたかったのです」
そう言いながら、まだ解いていないので、あらかじめ窓は開けているが、臭い匂いが薄っすら漂い始めている。
「チュリル・ロッパー、あなたには魅了魔法を使っていますので、魔法省が封じさせていただきます」
「え?魅了?私、そんなことしていません!信じてください」
また臭い匂いを出しており、ここにいる皆には説明済みであるため、頷いている。
「いいえ、あなたは誤解を解きたい、信じてくださいという度に、意思を通そうと無意識に魅了魔法を出しています。痛みもありませんから、封じてしまえばいいだけです。ただし、光属性は使えなくなります」
「そんな、困ります。全属性持ちじゃなくなってしまうじゃないですか!」
「では魔法省に捕まりますか?ノイザール王国でも魅了は禁術です」
「私は使っていません、信じてください」
「だけど、私は兄のようには…兄がいれば」
「どうしてお兄様に会いに行かないのですか」
セナリアンは居場所を知っているのだから、会いに行くことは出来るのに一度もしていないことを、不思議に思って口にした。
「合わせる顔がなかったのです。母が私を国王にしようと、冤罪だったことも分かっていました。私にはあんな母でも、昔は唯一の頼りだった。でも兄がいなくなってから、母は邪魔でしかないことに気付きました…」
側妃で第二王子、母親の実家は力のない伯爵家、誰もがイヴァンを優先し、フィラスにとって確実な味方は母親だけだったのだろう。でもイヴァンは自身がいなくなったことで、味方が増えたのなら良かったのかもしれないと思っていた。
「会ったら何を言いたいのですか?まさか王になってくれと?」
「母があのようなことしなければ、ここにいたのは兄です」
順当にいけばそうだっただろう、でも兄が退いた可能性はある。
「では、御父上に頼んで、母親を排除すれば良かった。違いますか?あなたは兄に見せたかったのではありませんか?自分が作った褒められるような国を。自分には出来なかったと言わせたかったのではありませんか?」
「そんなことは…」
「あなたは兄がいなくなったことで、唯一の王子となった。待遇は変わり、王になった。でもまだ兄を慕う者も多い。だからこそ、綻びのない国なんて、おとぎ話のような国を作ろうとした。目標とするにはいいですが、兄を兄をと言いながら、譲るような行動はしていない。変ですよね?」
「…」
「居場所を失うのが怖かったんでしょう?そう言えば良かったのに。国王ともなる者が、正当化するのは止めなさい」
一度知った温かい場所は手放したくないのは無理もない。だからこそ、成果を上げなければと焦る気持ちを持っていた。そこへ全属性持ちという令嬢に目を付けて、自身ではなく、息子へ押し付けるのは許し難い。
「まあいいです、魔法省としては魅了を封じます。そして、掛った者たちには解除をします。酷いものではないので、狂ったりすることはないでしょう」
「分かりました…」
光属性であっても、魅了を使っている者を野放しにするわけにはいかない。
「王太子殿下は立派に育っておいでだと聞きます。任せたいと思う気持ちがあるのなら、押し付けるのではなく、婚約されたいお相手も素晴らしい方なのですから、見守ってはいかがですか」
「…そうでしょうか」
「ええ、私には子どもはいませんが、人を見守るというのも大変なものです。ですが、大事なことですよ」
「…はい」
フィラスの目にはイヴァンではないが、イヴァンは兄として魔法省長として、フィラスに告げたのだろう。そして見守られているのはセナリアンでもある。
後日、チュリル・ロッパーは魅了封じを行うために呼び出されることになった。フィラス陛下と王太子、そして魔術師長が同席することとなった。
「魔法省の方、またお会いしましたね。この前の誤解を解きたかったのです」
そう言いながら、まだ解いていないので、あらかじめ窓は開けているが、臭い匂いが薄っすら漂い始めている。
「チュリル・ロッパー、あなたには魅了魔法を使っていますので、魔法省が封じさせていただきます」
「え?魅了?私、そんなことしていません!信じてください」
また臭い匂いを出しており、ここにいる皆には説明済みであるため、頷いている。
「いいえ、あなたは誤解を解きたい、信じてくださいという度に、意思を通そうと無意識に魅了魔法を出しています。痛みもありませんから、封じてしまえばいいだけです。ただし、光属性は使えなくなります」
「そんな、困ります。全属性持ちじゃなくなってしまうじゃないですか!」
「では魔法省に捕まりますか?ノイザール王国でも魅了は禁術です」
「私は使っていません、信じてください」
269
お気に入りに追加
1,518
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる