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第19話

綻びのない国なんてない11(ノイザール王国)

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「綻びのない国なんてないんです。どの国だって綻びはあるものです」
「だけど、私は兄のようには…兄がいれば」
「どうしてお兄様に会いに行かないのですか」

 セナリアンは居場所を知っているのだから、会いに行くことは出来るのに一度もしていないことを、不思議に思って口にした。

「合わせる顔がなかったのです。母が私を国王にしようと、冤罪だったことも分かっていました。私にはあんな母でも、昔は唯一の頼りだった。でも兄がいなくなってから、母は邪魔でしかないことに気付きました…」

 側妃で第二王子、母親の実家は力のない伯爵家、誰もがイヴァンを優先し、フィラスにとって確実な味方は母親だけだったのだろう。でもイヴァンは自身がいなくなったことで、味方が増えたのなら良かったのかもしれないと思っていた。

「会ったら何を言いたいのですか?まさか王になってくれと?」
「母があのようなことしなければ、ここにいたのは兄です」

 順当にいけばそうだっただろう、でも兄が退いた可能性はある。

「では、御父上に頼んで、母親を排除すれば良かった。違いますか?あなたは兄に見せたかったのではありませんか?自分が作った褒められるような国を。自分には出来なかったと言わせたかったのではありませんか?」
「そんなことは…」
「あなたは兄がいなくなったことで、唯一の王子となった。待遇は変わり、王になった。でもまだ兄を慕う者も多い。だからこそ、綻びのない国なんて、おとぎ話のような国を作ろうとした。目標とするにはいいですが、兄を兄をと言いながら、譲るような行動はしていない。変ですよね?」
「…」
「居場所を失うのが怖かったんでしょう?そう言えば良かったのに。国王ともなる者が、正当化するのは止めなさい」

 一度知った温かい場所は手放したくないのは無理もない。だからこそ、成果を上げなければと焦る気持ちを持っていた。そこへ全属性持ちという令嬢に目を付けて、自身ではなく、息子へ押し付けるのは許し難い。

「まあいいです、魔法省としては魅了を封じます。そして、掛った者たちには解除をします。酷いものではないので、狂ったりすることはないでしょう」
「分かりました…」

 光属性であっても、魅了を使っている者を野放しにするわけにはいかない。

「王太子殿下は立派に育っておいでだと聞きます。任せたいと思う気持ちがあるのなら、押し付けるのではなく、婚約されたいお相手も素晴らしい方なのですから、見守ってはいかがですか」
「…そうでしょうか」
「ええ、私には子どもはいませんが、人を見守るというのも大変なものです。ですが、大事なことですよ」
「…はい」

 フィラスの目にはイヴァンではないが、イヴァンは兄として魔法省長として、フィラスに告げたのだろう。そして見守られているのはセナリアンでもある。

 後日、チュリル・ロッパーは魅了封じを行うために呼び出されることになった。フィラス陛下と王太子、そして魔術師長が同席することとなった。

「魔法省の方、またお会いしましたね。この前の誤解を解きたかったのです」

 そう言いながら、まだ解いていないので、あらかじめ窓は開けているが、臭い匂いが薄っすら漂い始めている。

「チュリル・ロッパー、あなたには魅了魔法を使っていますので、魔法省が封じさせていただきます」
「え?魅了?私、そんなことしていません!信じてください」

 また臭い匂いを出しており、ここにいる皆には説明済みであるため、頷いている。

「いいえ、あなたは誤解を解きたい、信じてくださいという度に、意思を通そうと無意識に魅了魔法を出しています。痛みもありませんから、封じてしまえばいいだけです。ただし、光属性は使えなくなります」
「そんな、困ります。全属性持ちじゃなくなってしまうじゃないですか!」
「では魔法省に捕まりますか?ノイザール王国でも魅了は禁術です」
「私は使っていません、信じてください」
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