123 / 228
第19話
綻びのない国なんてない8(ノイザール王国)
しおりを挟む
「はああ…でも王太子殿下は廃嫡になってもいいとおっしゃっているのですよ?」
「えっ、でも私は王太子様でなくなっても構いません」
「違います、好きな方以外と婚姻をするならと付くのですよ?廃嫡になって、わざわざあなたを選ぶはずがないでしょう」
「そんな…」
当たり前だろう、お前と結婚したくないから廃嫡でいいと言っているのだ。
「誰も可哀想だから、気を使って言わなかったのかしら?王太子殿下も好いた方と結婚したいという点では同じですけどね」
「でも、私は本当に愛しているんです」
「それは、片思いというものです」
「でも、皆がお似合いだって言ってくれるんです。だから期待にも応えたくて」
チュリルはもじもじしながら、照れたように、頬を赤らめて嬉しそうにしている。イヴァンはこれは後で罵詈雑言の嵐になるなと覚悟した。
「ではあなた、そちらの宰相殿が未婚だとして、お似合いだ、国のためなる、応援すると言われたら、期待に応えてくれるのですか?」
「えっと、年が離れていますし」
「まあ、自分の都合のいいように期待を持っていくのですね」
「っ、それは…」
「まあ、結構です。自分本位なことがよく分かりました」
「違います、違うんです」
「ありがとうございました!」
セナリアンとイヴァンは颯爽と去って行き、チュリルは呆然としたまま残された。成り立っていない話を終えて、二人は酷く疲れていた。
「お花畑にいるんだろうね」
「いえ、あれは自分の作り上げた物語の中にいるのよ。今は殿下は公爵令嬢のことが好きでも、私と婚約をしたら、私のことだけを見て、私を好きになってくれるってね。嫌われているというより、相手にされていないのに」
「気持ち悪い…」
「でしょう?」
「よく耐えれるなと思っていたよ。宰相殿なんて、眉間の皺がみるみる増えて、いつか噛み付くのではないかとヒヤヒヤしたよ」
宰相はチュリルの斜め後ろに座っていて、チュリルから見えないのをいいことに、何か言う度に、眉間に皺をよせ、鼻を動かし、歯まで噛み締めていた。こちら側からは丸見えなので、宰相の気持ちが手に取るように分かった。
「だから最後に名前を出してみたの。凄い顔してるんだもの」
「ああ、そういうことで。魅了は出ていた?」
「ええ、跳ね返してみようかとも思ったんだけど、そんなことをして、私のことを好いて貰っても困るじゃない?」
「それはそうだね」
あんなものに纏わり付かれたら、煩わしいだけだろう。
「光は貴重なのよね?付随している可能性が高いから、消えるって言ったら、陛下はどうするかしら?」
「フィラスにも掛かっているんだよね?」
「利害関係が一致しているからというのが付くけどね。過信していると言った方がいいわね。解こうかとも思ったけど、あまり会わないだろうし、ほんのわずかだったから、そのままにしてあるわ」
「そこまで分かるのか」
「他者の魔力だからね、異物が混入している感じかしら?」
「封じないと言った手前、理由を話して、封じるのが一番いいだろうね。まあ、勝手に封じたとしても、ノイザールでも魅了は禁術に指定されているし、魔法省としては問題ないんだけど、後から私みたいに疑いを掛けられるのも面倒だからね」
セナリアンはふふっと笑い、イヴァンに口角を上げながら言った。疲れた顔から一気に悪い顔になっている。
「ちょっと、試してみたいことがあるのだけど…」
「セナ、心を殺す類はいけませんよ」
「えええ、前からやってみたかったの」
話だけは聞きましょうと、イヴァンはセナリアンの話を聞くことにした。
「えっ、でも私は王太子様でなくなっても構いません」
「違います、好きな方以外と婚姻をするならと付くのですよ?廃嫡になって、わざわざあなたを選ぶはずがないでしょう」
「そんな…」
当たり前だろう、お前と結婚したくないから廃嫡でいいと言っているのだ。
「誰も可哀想だから、気を使って言わなかったのかしら?王太子殿下も好いた方と結婚したいという点では同じですけどね」
「でも、私は本当に愛しているんです」
「それは、片思いというものです」
「でも、皆がお似合いだって言ってくれるんです。だから期待にも応えたくて」
チュリルはもじもじしながら、照れたように、頬を赤らめて嬉しそうにしている。イヴァンはこれは後で罵詈雑言の嵐になるなと覚悟した。
「ではあなた、そちらの宰相殿が未婚だとして、お似合いだ、国のためなる、応援すると言われたら、期待に応えてくれるのですか?」
「えっと、年が離れていますし」
「まあ、自分の都合のいいように期待を持っていくのですね」
「っ、それは…」
「まあ、結構です。自分本位なことがよく分かりました」
「違います、違うんです」
「ありがとうございました!」
セナリアンとイヴァンは颯爽と去って行き、チュリルは呆然としたまま残された。成り立っていない話を終えて、二人は酷く疲れていた。
「お花畑にいるんだろうね」
「いえ、あれは自分の作り上げた物語の中にいるのよ。今は殿下は公爵令嬢のことが好きでも、私と婚約をしたら、私のことだけを見て、私を好きになってくれるってね。嫌われているというより、相手にされていないのに」
「気持ち悪い…」
「でしょう?」
「よく耐えれるなと思っていたよ。宰相殿なんて、眉間の皺がみるみる増えて、いつか噛み付くのではないかとヒヤヒヤしたよ」
宰相はチュリルの斜め後ろに座っていて、チュリルから見えないのをいいことに、何か言う度に、眉間に皺をよせ、鼻を動かし、歯まで噛み締めていた。こちら側からは丸見えなので、宰相の気持ちが手に取るように分かった。
「だから最後に名前を出してみたの。凄い顔してるんだもの」
「ああ、そういうことで。魅了は出ていた?」
「ええ、跳ね返してみようかとも思ったんだけど、そんなことをして、私のことを好いて貰っても困るじゃない?」
「それはそうだね」
あんなものに纏わり付かれたら、煩わしいだけだろう。
「光は貴重なのよね?付随している可能性が高いから、消えるって言ったら、陛下はどうするかしら?」
「フィラスにも掛かっているんだよね?」
「利害関係が一致しているからというのが付くけどね。過信していると言った方がいいわね。解こうかとも思ったけど、あまり会わないだろうし、ほんのわずかだったから、そのままにしてあるわ」
「そこまで分かるのか」
「他者の魔力だからね、異物が混入している感じかしら?」
「封じないと言った手前、理由を話して、封じるのが一番いいだろうね。まあ、勝手に封じたとしても、ノイザールでも魅了は禁術に指定されているし、魔法省としては問題ないんだけど、後から私みたいに疑いを掛けられるのも面倒だからね」
セナリアンはふふっと笑い、イヴァンに口角を上げながら言った。疲れた顔から一気に悪い顔になっている。
「ちょっと、試してみたいことがあるのだけど…」
「セナ、心を殺す類はいけませんよ」
「えええ、前からやってみたかったの」
話だけは聞きましょうと、イヴァンはセナリアンの話を聞くことにした。
261
お気に入りに追加
1,518
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる