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第19話

綻びのない国なんてない8(ノイザール王国)

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「はああ…でも王太子殿下は廃嫡になってもいいとおっしゃっているのですよ?」
「えっ、でも私は王太子様でなくなっても構いません」
「違います、好きな方以外と婚姻をするならと付くのですよ?廃嫡になって、わざわざあなたを選ぶはずがないでしょう」
「そんな…」

 当たり前だろう、お前と結婚したくないから廃嫡でいいと言っているのだ。

「誰も可哀想だから、気を使って言わなかったのかしら?王太子殿下も好いた方と結婚したいという点では同じですけどね」
「でも、私は本当に愛しているんです」
「それは、片思いというものです」
「でも、皆がお似合いだって言ってくれるんです。だから期待にも応えたくて」

 チュリルはもじもじしながら、照れたように、頬を赤らめて嬉しそうにしている。イヴァンはこれは後で罵詈雑言の嵐になるなと覚悟した。

「ではあなた、そちらの宰相殿が未婚だとして、お似合いだ、国のためなる、応援すると言われたら、期待に応えてくれるのですか?」
「えっと、年が離れていますし」
「まあ、自分の都合のいいように期待を持っていくのですね」
「っ、それは…」
「まあ、結構です。自分本位なことがよく分かりました」
「違います、違うんです」
「ありがとうございました!」

 セナリアンとイヴァンは颯爽と去って行き、チュリルは呆然としたまま残された。成り立っていない話を終えて、二人は酷く疲れていた。

「お花畑にいるんだろうね」
「いえ、あれは自分の作り上げた物語の中にいるのよ。今は殿下は公爵令嬢のことが好きでも、私と婚約をしたら、私のことだけを見て、私を好きになってくれるってね。嫌われているというより、相手にされていないのに」
「気持ち悪い…」
「でしょう?」
「よく耐えれるなと思っていたよ。宰相殿なんて、眉間の皺がみるみる増えて、いつか噛み付くのではないかとヒヤヒヤしたよ」

 宰相はチュリルの斜め後ろに座っていて、チュリルから見えないのをいいことに、何か言う度に、眉間に皺をよせ、鼻を動かし、歯まで噛み締めていた。こちら側からは丸見えなので、宰相の気持ちが手に取るように分かった。

「だから最後に名前を出してみたの。凄い顔してるんだもの」
「ああ、そういうことで。魅了は出ていた?」
「ええ、跳ね返してみようかとも思ったんだけど、そんなことをして、私のことを好いて貰っても困るじゃない?」
「それはそうだね」

 あんなものに纏わり付かれたら、煩わしいだけだろう。

「光は貴重なのよね?付随している可能性が高いから、消えるって言ったら、陛下はどうするかしら?」
「フィラスにも掛かっているんだよね?」
「利害関係が一致しているからというのが付くけどね。過信していると言った方がいいわね。解こうかとも思ったけど、あまり会わないだろうし、ほんのわずかだったから、そのままにしてあるわ」
「そこまで分かるのか」
「他者の魔力だからね、異物が混入している感じかしら?」
「封じないと言った手前、理由を話して、封じるのが一番いいだろうね。まあ、勝手に封じたとしても、ノイザールでも魅了は禁術に指定されているし、魔法省としては問題ないんだけど、後から私みたいに疑いを掛けられるのも面倒だからね」

 セナリアンはふふっと笑い、イヴァンに口角を上げながら言った。疲れた顔から一気に悪い顔になっている。

「ちょっと、試してみたいことがあるのだけど…」
「セナ、心を殺す類はいけませんよ」
「えええ、前からやってみたかったの」

 話だけは聞きましょうと、イヴァンはセナリアンの話を聞くことにした。
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