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第19話

綻びのない国なんてない4(ノイザール王国)

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 正直、魔法省が扱う案件ではない。ノイザール王国の周辺国から、どうにかして貰えないかという意見は届いているのは事実だが、魔法省案件とされているが、実際は正確には魔法省長案件である。

 実はノイザール王国の追放された兄というのが、現魔法省長であるイヴァン・コフロートである。だから、管轄外だとブーブー言いながらもセナリアンなりの解決策を練っているのである。

「やっぱりイヴァンがピシャリと言えば済む話じゃないの?」
「いや、王になれなんて言われたら堪らないだろう」
「それは困るけど、手荒な方法でもいいの?管轄外だから優しくないわよ」
「何をする気だい?」
「国王の心を折って、子爵令嬢の評価を下げる」
「そうすれば、国王の心も変わるというのか?」
「最終手段はあなただけどね?」
「それは」
「私はね、言葉って届くものだと思うの。言いたいことも言っちゃえばいいのよ。言いやすい土壌は作ってあげるわ。せめて王太子殿下が王になるまで、頑張って貰えばいいんだから」
「私の責任か…」

 イヴァンは王になりたくなかったわけではないが、王になりたかったわけでもない、弟に押し付けたと言われればそうである。

 セナリアンとイヴァンは認識阻害を掛け、魔法省の者だとノイザール王国にやって来た。イヴァンにとっては、何十年ぶりの母国であるが、両親と三人で過ごした以来、いい印象のない国となってしまったが、懐かしさはある。

 イヴァンは今でも移り住んだアトラ王国に住んでいる。独身を貫いているのは、やはり自身の置かれた状況からであった。祖父母も理解してくれており、これで良かったと思えている。

「緊張する?」
「まあな、久しぶりに父と異母弟に会うと思うとね」
「私が主導で話すから、あなたは懐かしんでいて」
「ありがとう」

 王宮に到着すると、イヴァンは入ることに一瞬躊躇いを感じたが、セナリアンがどんどん進んでいく様に自身を奮い立たせた。

 案内された謁見の間にいたのは前王、前王妃(元側妃)、国王、王妃、王太子、宰相であった。トップ揃い組で、ここで全員殺される可能性を考えないのだろうかとセナリアンは思ったくらいだ。

 イヴァンは何十年振りの再会となる父・ドルシード前国王陛下と異母弟・フィラス国王陛下が、随分老け込んだように感じた。元側妃は前と変わらず、目を吊り上げており、王妃と王太子に関しては直に見るのは初めてである。

「周辺国から苦情が出ているため、魔法省より参りました」

 セナリアンとイヴァンは魔法省の委任状を見せた。

「我が国の勝手ではないか、まさかスカウトにやって来たわけではないだろうな」
「全属性持ちという令嬢ですか」
「そうだ、魔法省も欲しい人材だろう」
「要りませんわ。魔法省でどうしても雇うとなれば、掃除係くらいでしょうか」
「何だと!」
「魔法省の評価ですから、こちらの国とは違いますわ。それで陛下はその令嬢と王太子殿下を結婚させようとしているが、皆が反対しているということですね」
「皆は価値が分かっていないのだ」

 この騒動の始まりは王の独断にしか見えない。王の意見に親世代の貴族は反対しているのだが、王太子の世代はチュリルの信者も多く、騒動は広がっているのだ。

「王妃様はいかがですか」
「私は陛下の考えに従うまでです」
「王妃様はどうしてこちらに嫁がれたのかしら?前王妃様の兄を追い出した先の国で、蟠りはないというアピールと、ご実家に力がないからお金かしら?」
「っな!無礼ですよ」

 マンドレー前王妃が立ち上がって、ヒステリックな声を上げた。イヴァンは変わっていないと思っていた、前も王妃らしくないとよく注意されているのを思い出した。
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