上 下
118 / 228
第19話

綻びのない国なんてない3(ノイザール王国)

しおりを挟む
「王太子は優秀なんですよね?」
「そうらしいのよ、まだ婚約はしていないけど、好ましい女性がいるの。爵位も公爵家よ?文句の付けようもない」
「近親とか?」
「先祖を辿ればあるかもしれないけど、近年は王家との婚姻はなかったそうよ」
「では問題ないではありませんか」

 公爵家となると、王家に近すぎて、血が濃くなるという弊害があるそうだが、先祖を辿ればというくらいであれば、近親とは言えないだろう。

「それなのに、現王は兄のように優秀ではないから、愛ではなく、能力のある女性を妻にするべきだと考えていてね。自分一人で綻びがないようにしなければならないと思っているのは現王なのよ」
「全属性持ちの令嬢は優秀ではない?」

 確か男爵令嬢だったが、子爵家に陞爵した聞いている。他国のことがエメラルダまで流れているというのは、余程荒れている証拠である。

 それもすべて現王の綻びのない国へのためなのだろう。

「能力的には優秀とだとされているけど、全属性持ちって何?光があるから、闇は使えないそうだけど」
「ノイザールは、魔術というよりは魔法ですよね」

 エメラルダは得意不得意、扱える扱えないなどはあるが、属性などという概念はない。だが、ノイザールは炎、水、雷、土、風、光、闇などと属性で分類している。

「元々持っている力を伸ばすという意味では同じかもしれないけど」
「考え方の違いでしょうね」

 ノイザールはヨバス王国の次に近い国にはなるが、このような考え方の違いや、王家のあり方などで、近しいとは言い難い間柄である。

「そもそも精神面がね…天真爛漫と言えば聞こえはいいけど、作り物っぽいのよね。しかも王太子を好いていて、王太子はそうではない関係性よ?」
「互いに好いていないなら、まだ相談するなり出来て、良かったんでしょうね。あとは王子がもう一人いれば…」

 敢えて一人しか子どもがいない弊害だ、二人以上いれば、その全属性持ちという令嬢を娶ればいい。一組が支えるという方法も取れるのではないか。

「そうなのよね、んもう!魔法省依頼だから仕方ないけど、極めて面倒な事案ね!なんて言っちゃ駄目なのよね」
「言いたい気持ちは分かります」
「でしょう?どうすることがいいかなんて、私の本分じゃないもの。王太子は廃嫡でいいと言っていて、そんなに気に入っているなら養子にして、王女にすればいいと」
「わぁお、ちょっとかっこいいです」

 そこまで言い切っているのなら、王太子の席に執着はないのだろう。ひとり息子の重圧を一身に耐えて来た彼も、簡単な人生ではなかっただろう。

「でしょう?気持ちも分からなくもないわ、でもあれが王女は良くないことは分かっている。理想論の塊だもの、滅茶苦茶になってしまう」

 天真爛漫で、皆に平等で優しく、笑顔を絶やさないチュリル・ロッパー子爵令嬢。

 心酔した男女は、公爵令嬢を目の敵にしているようで、王の許可が下りないのもあるが、王太子と公爵令嬢は相思相愛なのだが、婚約していない。

 チュリルも分かり易く、男性だけを侍らしたり、贅沢を好んだりは今のところしていないようだが、男女平等、爵位が自身の強さだと思うのは良くない、自分の能力で評価された方がいいなど、耳障りのいい言葉を言っているが、立場が上になった途端に変わる可能性は大いにある。

 そして好きな相手と爵位に関係なく結婚する方がいいと言っており、王太子殿下と公爵令嬢への当てつけの様に思われる。

「溜息の理由がよく分かりました。お茶でも飲みましょう」

 姉は嫌々でも駆りだされるのだろうが、私に出来ることはない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

願いの代償

らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。 公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。 唐突に思う。 どうして頑張っているのか。 どうして生きていたいのか。 もう、いいのではないだろうか。 メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。 *ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花
恋愛
「お前はいつものろまで、クズで、私の引き立て役なのよ、お姉様」  私を蔑む視線を向けて、双子の妹がそう言った。 「本当、お前と違ってジュリーは賢くて、裁縫も刺繍も天才的だよ」  愛しそうな表情を浮かべて、妹を抱きしめるお父様。 「――あなたは、この家に要らないのよ」  扇子で私の頬を叩くお母様。  ……そんなに私のことが嫌いなら、消えることを選びます。    消えた先で、私は『愛』を知ることが出来た。

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

処理中です...