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第14話

彼女の幼なじみ4(マキュリーヌ王国)

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「お初にお目にかかります。エメラルダ王国、アイルッツ・エレメント国王陛下及びアリッシュ王太子妃様の父、ライサット・ルビアス様より一任されて参りました魔術師のエムでございます」

 セナリアンは膝を折って片足を後ろに引き、カーテシーをした。

「伺っております。それで話というのは」
「はい、クリストフェル殿下の不貞、並びに王子殿下、王女殿下を害そうと誘導した罪にて、アリッシュ様と子どもたちを離縁していただくためです。時間を無駄にしてはならないので、先に申し上げておきますが、証拠は調査していただき、既に揃っております。後でお渡しします」
「なんと…クリストフェル、本当か」
「…はい」
「申し訳ない」「アリッシュ、申し訳ないわ」

 両陛下は心配そうにアリッシュを見つめているが、どこか楽観視した様子で、両陛下との関係は悪くはなく、おそらくここまでアリッシュは行動に起こしていないため、許してくれると思っていてのことだろう。

「いえ、もう終わったことですから」
「クリストフェル 、出来心であったのであろう?」
「…」
「愛していらっしゃるそうです、ですので私は子どもと母国に帰るつもりです」
「それはならん!」

 陛下が大声を出し、ようやく事態を把握した様子である。王妃陛下も焦っており、エメラルダと友好国になれるチャンスを逃すことになるためだろう。

「私も子どもたちと離れたくはありません。愛妾として認めてはくれないか」
「は?罪人をですか」
「罪人?」
「そちらは私から説明します。そこの自称家庭教師ことは」
「バナーナ・ズミクロン?」
「ああ、そこから説明せねばなりませんね。えーっと何と名前を偽っていたんでしたかしら?えーっと?ん?」

 アリッシュも同じように首を捻っている。実は真名がバナーナだと知って、さすがに落ち込んでいたアリッシュも、見た目は全くバナナ要素のないダークブラウンの髪色と瞳なのだが、もうバナナにしか見えなくなって来た!と元気を取り戻したので、二人は意地悪でも何でもなく、彼女の名前を憶えていなかった。先程、話した際も名前を呼ばなかったのは、単純に憶えていなかったからである。さすがにセナリアンにも偽名まで視える力はない。

「リーナが、バナーナ・ズミクロンという名だと言うのか」
「ああ、リーナでしたね!リーナではなく、バナーナです!真名はバナーナ・ズミクロン。お付けになった方が、バナナがお好きだったんですかね?そもそも個人登録で調べれば、分かったことでしょう?」

 リーナことバナーナは目を見開いている。マキュリーヌ王国も個人登録を行っているのに、なぜ調べていないのか、なぜ明かされないと思ったのだろうか。

「コンド男爵がメイドに産ませた子で、どこかの貴族に嫁がせようと引き取ったのです。でも誰も娶ってくれる者はおらず、役立たずとなり、放り出された。魔力があったので、魔術師になったが、成果も出せず、たまたま厄介払いされた治癒院で出会った、クリストフェル殿下にでまかせの苦労話を聞かせ、家庭教師として引き入れてもらうことに成功した」
「でまかせ?」
「ええ、嫌な思いはしたのかもしれませんが、嫌な思いなんて誰でもするでしょう?したことのない人間の方が少ないのでは?簡単な方法で手に入れようとしたことを、苦労したことに変換したのです。男性には言われるがまま身体を差し出し、魔術師はやったように見せていただけと言えば分かり易いかしら?」

 何人も関係を持ったが結婚してくれる者はおらず、魔力があったので魔術師に登録したが、なりたくてなった人たちとは明らかに熱量が違い、やる気を持てず、治癒院を手伝うようにと厄介払いされたのだ。

「殿下をうまく唆したが、なかなか愛妾にしてもらえず、アリッシュ様の評判がいいせいだと、孤立させようと企み、子どもたちに七月十四日と八月二十四日に呪具を使って、魅了と同等の精神を操る術を使用したのです」
「魅了を…」「なんてことを!」

 さすがに両陛下も驚愕の目でバナーナを見ており、バナーナは視線に耐えられず下を向いた。

「ですので、罪人と申し上げたのです。上級犯罪者です。しかも掛けたのは王太子の子ども。失敗しているので、掛かってはおりませんが、使用した時点で同罪です。これがもし、殺意のあるものだった場合は、殺されていたということです」
「このような者を引き入れる殿下の元に、子どもたちは置いておけません!」

 子どもを害する者を引き入れたのだ、許されるはずがない。
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