90 / 228
第13話
聞こえない悲しき罪7
しおりを挟む
渋々、洗浄魔法できれいにしたファナは、既に次のケーキを食べている。
「私はすり替えられた衝撃はあるだろうけど、八ヶ月育てた子どもを血が繋がっていないという理由で、見向きもしなくなるのが不思議だったわ。夫と別の女の子っていうのが耐えられなかったのかしらね?まあ、あの家に置くことは出来なかったから、良かったのだけど」
「この子も私の子に違いないわと言って引き取って、虐待するような人間じゃなくて良かったと思いましょうか」
「あとはジョアンナがミッシュを愛せるかですかね?」
「そうだな」
ファナが言うと説得力がある、実の子ですら愛せない親がいる。あれだけ抱きしめていたのだから、愛してくれると信じるが、様子を見に行ってみようと思った。
後日、おそらく心配してあるだろう、話を聞いたジスアの元隣人に、ルブランと共にジスアのことを伝えに行くことにした。口止めはしたが、下手に誰かに話されていたら、ややこしいことになりかねない。
「ジスアは見付かったの?」
隣人の名前はキャリー・バーグソン。
「ああ、彼女の方が一枚上手だったようね」
「え?」
「ご存知だったんですね、さすが役者さん。芸名って言うのだったかしら、教えていただけますか」
「役者!?」
「ジスア嬢のお墓のある場所をお教えしますよ」
「っ!!…申し訳ありませんでした」
キャリーは慌てて椅子を立ち上がり、深々と頭を下げた。
「お座りください。あなたはほとんど嘘は言っていないでしょう?ただ話さなかっただけ。大丈夫です、事件は犯人死亡で終わっています」
「スアリは無事なんでしょうか」
「ええ、無事に育っています」
「よ、よかった…公になったということなんですね」
「正確には子爵家が望まなかったので、公にはなりません。ですので、あなたには知る権利があるだろうと、口止めもしようかとも思っておりました」
「私から話すことはありません、お約束します。スアリが無事なら、知っていることは全てお話しします」
「あなたは私にヒントを与えていたんですね…やられました」
「すみません!」
座ったままで何度も頭を下げている、随分この間と印象が違う。
「入れ替えのことも、彼女がどうなったかもご存知なんですね?」
「おそらくですが。でも私が話した八ヶ月くらい前にやって来たこと、聞かれたことは事実です」
「ただ、子どもを連れていたと」
「はい、一人で来たと言うのは嘘でした。嘘を付きました」
「子どもをどこかに預けたのかと思っていました、私も焦っていたんでしょうね」
ルブランも話を聞きながら、気持ちが急いていたのは事実だった。
「突然やって来て、スアリは五日前に生まれたばかりだと言い、驚いて部屋に入れました。アンバース領で一人で産んで、そのまま来たと言い、あの人に一目会って欲しいと、産後ということもあってか、不安定な気がして、でも私はその日、舞台があったので、あっ、芸名はアンキャリーと言います」
「えっ、名前を聞いたことがあります」
「あっ、ありがとうございます。この前、聞きに来られた時は、慌ててしまって、今稽古をしているような役で喋ってしまって、これが普段の私です」
「さすが役者さんだ」
アンキャリーは高飛車な役で評価された役者であった。でもジスアと親しくしていたということも、今の姿なら納得がいく。
「それで、ジスアには部屋で身体を休めるように言い、私は劇場に行きました。でも戻るとやっぱり帰ることにしたと書置きがあって、彼女もスアリもいませんでした。私がジスアに会ったのはそれが最期でした。側にいてやれば良かったと、思いました…それから数日して手紙が届きました」
キャリーは戸棚から一枚の封筒を取り出し、セナリアンに差し出した。
「私はすり替えられた衝撃はあるだろうけど、八ヶ月育てた子どもを血が繋がっていないという理由で、見向きもしなくなるのが不思議だったわ。夫と別の女の子っていうのが耐えられなかったのかしらね?まあ、あの家に置くことは出来なかったから、良かったのだけど」
「この子も私の子に違いないわと言って引き取って、虐待するような人間じゃなくて良かったと思いましょうか」
「あとはジョアンナがミッシュを愛せるかですかね?」
「そうだな」
ファナが言うと説得力がある、実の子ですら愛せない親がいる。あれだけ抱きしめていたのだから、愛してくれると信じるが、様子を見に行ってみようと思った。
後日、おそらく心配してあるだろう、話を聞いたジスアの元隣人に、ルブランと共にジスアのことを伝えに行くことにした。口止めはしたが、下手に誰かに話されていたら、ややこしいことになりかねない。
「ジスアは見付かったの?」
隣人の名前はキャリー・バーグソン。
「ああ、彼女の方が一枚上手だったようね」
「え?」
「ご存知だったんですね、さすが役者さん。芸名って言うのだったかしら、教えていただけますか」
「役者!?」
「ジスア嬢のお墓のある場所をお教えしますよ」
「っ!!…申し訳ありませんでした」
キャリーは慌てて椅子を立ち上がり、深々と頭を下げた。
「お座りください。あなたはほとんど嘘は言っていないでしょう?ただ話さなかっただけ。大丈夫です、事件は犯人死亡で終わっています」
「スアリは無事なんでしょうか」
「ええ、無事に育っています」
「よ、よかった…公になったということなんですね」
「正確には子爵家が望まなかったので、公にはなりません。ですので、あなたには知る権利があるだろうと、口止めもしようかとも思っておりました」
「私から話すことはありません、お約束します。スアリが無事なら、知っていることは全てお話しします」
「あなたは私にヒントを与えていたんですね…やられました」
「すみません!」
座ったままで何度も頭を下げている、随分この間と印象が違う。
「入れ替えのことも、彼女がどうなったかもご存知なんですね?」
「おそらくですが。でも私が話した八ヶ月くらい前にやって来たこと、聞かれたことは事実です」
「ただ、子どもを連れていたと」
「はい、一人で来たと言うのは嘘でした。嘘を付きました」
「子どもをどこかに預けたのかと思っていました、私も焦っていたんでしょうね」
ルブランも話を聞きながら、気持ちが急いていたのは事実だった。
「突然やって来て、スアリは五日前に生まれたばかりだと言い、驚いて部屋に入れました。アンバース領で一人で産んで、そのまま来たと言い、あの人に一目会って欲しいと、産後ということもあってか、不安定な気がして、でも私はその日、舞台があったので、あっ、芸名はアンキャリーと言います」
「えっ、名前を聞いたことがあります」
「あっ、ありがとうございます。この前、聞きに来られた時は、慌ててしまって、今稽古をしているような役で喋ってしまって、これが普段の私です」
「さすが役者さんだ」
アンキャリーは高飛車な役で評価された役者であった。でもジスアと親しくしていたということも、今の姿なら納得がいく。
「それで、ジスアには部屋で身体を休めるように言い、私は劇場に行きました。でも戻るとやっぱり帰ることにしたと書置きがあって、彼女もスアリもいませんでした。私がジスアに会ったのはそれが最期でした。側にいてやれば良かったと、思いました…それから数日して手紙が届きました」
キャリーは戸棚から一枚の封筒を取り出し、セナリアンに差し出した。
263
お気に入りに追加
1,518
あなたにおすすめの小説
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる