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第12話

親と子6

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 一通りはしゃいだ二人は落ち着き、セナリアンは何か質問とか、こうしたらいいとかあったら教えて欲しいと皆に告げた。

「あの!例えば、三人ではなく、片方だけでもできるのでしょうか」
「それは元々できるわ、亡くなっていたりしたら、できないものね」

「記憶喪失で自分の名前が分からない場合はどうでしょう」
「そうね、名前は書けないけど、鑑定自体はできるわ」
「そうなのですか」
「ええ、鑑定書だから名前が大事にはなるけど、そこが空白になる。国からの依頼としてはあるかもしれないわね」
「全員記憶喪失だったら、不可能ですよね?」
「それは無理ね、どれがどれやらでしょう?」

「真名でなかったらどうなりますか」
「書けないわね」
「では、結婚したのに真名が出生時のままだったら、どうなりますか」
「それだと、まず同じように名が書けない、真名のままかもとなったら、書けるけど、鑑定書には真名となるだけね」
「平民だとあり得るのね?」
「はい、下手したら真名すらない者もいるかもしれません」
「そうね、そうなるとまず真名を貰ってからね。これは不正が起きそうね」
「でも余程ではない限り、真名のない者から依頼は来ないんじゃないかしら。あとは意図的に真名がない場合はさっきセナが言ったように空白になって、鑑定書にはならないけど、鑑定はできるとなるだけ」

 現在、真名は魔力のある国では、自身に魔力が無くとも必ず持つものである。

 シャーロットの時代は、血と真名を水晶に登録を行うといったものであったが、魔術師や貴族以外にはあまり普及はしなかった。

 現在のエメラルダでは、全国民に必ず登録する義務がある。まず出生時の場合は子の血を一滴、専用の魔用紙に付け、医師もしくは医療専門の魔術師が、両親の名と子どもの名を書いて、国に提出する。これで真名と血の登録となる。

 そして次は子が一歳の時に、もう一度、魔力測定、健康診断も兼ねながら、確認の登録を行って、本人の証明となる。

 魔力のない平民や移民はしなくてもいいではないかと思われそうであるが、仕事や学校、病院、家を借りたり、登録しないと出来ないことが多い。他国も概ね同じような登録となっているため、しない=問題があるとされてしまう。その後、現在は魔法省とも共有されており、何かあった際には強い後ろ盾となる。

 これはカサブランカの残した功績の一つである。

 そもそも、魔法省の創設者はシャーロット・マクレガーである。元々、魔法省が現在ある場所をシャーロットがいずれ、統括する場が必要となるだろうと、仲間と共に作っていた。それから遺志を継ぐ者が守り、概ね賛同を得た時に魔法省として設立するようになっていたのだ。

 長い時間を掛け、信用という力を持った魔法省。

 カサブランカも勿論、遺志を継ぐ者として、国と人を守るための個人登録を友好国から徐々に広めて行き、行っていない国は後れを取っているとされるため、導入を決めることとなる。

 それでも始めは貴族が愛人の子とすり替え、脅したりということもあったそうだが、結局は一歳の登録で露見したり、カサブランカに暴かれることになったそうだ。

 平民は出産時に医師がおらず、出生時が難しい場合もあると、一歳の本人の登録のみを国民全員の義務とした。ゆえに一歳までは任意で行い、貴族は子を成すことが重要なため、出生時に登録をするが、平民や移民は一歳の時だけする者も多い。

 そして今回のセナリアンの親子鑑定である。

 魔術師も十万エルメはなかなかいいおこずかいになる、欲しかったものを買ったり、高級店に行ったり、一日で稼げるならいい話である。危険も伴うが、魔術師で危険な目に遭わない方が難しいので、鍛錬を怠ることはない。
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