上 下
61 / 228
第10話

彼女の使命4

しおりを挟む
 翌日、グロー公爵家別邸。昼食が終わるとセナリアンは話があると人払いをし、二人きりになったマージナルはドキドキ半分と、ウキウキする気持ちを抑えていた。セナリアンは防音の術を掛け、人差し指の指先を光らせた。

「これから話すことは機密事項です」
「なんだ?何があっても離縁はしない」
「ええ、もう諦めつつあります」
「本当か!やった!」

 マージナルは子どものようにサムズアップしている。

「私はシャーロット・マクレガーの先祖返りです。同等の力を持っています」
「えっ?ん?」
「これは機密事項で王家と、主に陛下の密偵としても動いております。お互いに忠誠を誓い、国のために動いております。あとは友好国の隠密も引き受けたりもしています、後は色々制裁を加えたりですね、まあ私、誰よりも忙しいんです」
「ん?」
「賢いあなたでも追いつかないのでしょうね、簡単に言えばあなたの妻はイレギュラーな存在だということです」
「私は敬意を払わなくてはいけないのか」
「まあ立場的にはそうですね、陛下と同等と力はあります。いくらあなたが殿下の側近でも、私があなたを見たくないから、どこかにやってって言えば、仕方ないなとあなたはポイとされるくらいは」

 正直、ポイしてもらいたいことは何度もあったが、でも不確実な特性もある。まあ、もう仕方ないと諦め、妊娠を解禁すると、相性の良さを発揮して、あっという間に授かることとなった。

 セナリアンも様々な妊娠を見て来たが、自身では初めてなので、様子を見ながら、騒がれるのは目に見えているので、誰にも言わず、初体験を楽しみ、実はワインもアルコールを魔術で除去して飲んでいた。

「でも私の妻なのだよね?」
「不本意ですがね」
「だったら、もっと早く言ってくれれば良かったではないか!セナのことは何でも知りたい」

 ぷんぷんとでも言いたげに、頬を膨らませている。

「離縁するつもりだったのに、言う必要があるとお思いで?」
「私はしないと言った!」

 ≪子どもか?何だか口調も非常に子どもっぽい、こんなだったか?≫

「このことはルージエ家、私の前の先祖返りのカサブランカの生家であるコルロンド家。王家は国王陛下、王妃様、前国王陛下、リスルート殿下。ライトラン殿下は留学から戻ってからですかね?」

 ライトラン殿下は留学中のリスルートの二つ年下の弟である。エメラルダは王太子だけが王族に残って、他は出て行かなければならないわけではないので、他の選択肢も含めて、各国に留学中である。

「そして、モルガン公爵夫妻、前王弟ミシェル・ハウソーラ侯爵夫妻、王弟ルビアス公爵夫妻、アイリッシュ、暗部の者が知っております。後は友好国のトップと、私の信頼に当たる者たちですね。リリアンネには知らせる気はありませんが、いずれはノエルには知らせます。知っている者とは先祖返りについて話すことが出来ます」
「夫には知らせていけないのか」
「いいえ、私の判断です。これで全て繋がるのではありませんか」

 マージナルがよく見るセナリアンは、本や書類で埋もれながら、酒を飲んでいる姿である。マージナルも最初は何なんだと思ったが、魔術の資料だと言われれば、そうかとしか言いようがない。

「領地にいたのも?」
「ええ、こちらで留守にすると色々面倒でしょう?」
「王家の夜会や行事も?」
「ええ、出席者とは別のところにいる方が多いですわね。交流会が成功したのは誰のおかげだとお思いで?なのにあなたは面倒事を増やしてくれましたね?」
「知っていたのか!」
「解決したのは私ですわ。あの王女をちょいちょいと」
「すまなかった、でも断ったのはちゃんと私の意志だよ」

 別にそこは疑っていない。それよりも茶番に付き合うのが面倒だっただけである。

「まあ、そのようなことをしているので、あなたの大好きなパーティーはほぼ参加出来ませんし、瞬時の判断が楽ですので。別人の振りをしていることもあります」
「別に好きではない!セナとパーティーに行きたかっただけだ!待てよ、別人と言うことは、私とも会ったことがあるのか」
「ありますよ」
「いつだ?」
「さあ?だいたい蝶々をはべらしてらっしゃるだけでしょう?最近は仲間が一応、教えてはくれるのですよ。虫に囲まれておりますって」
「いいのか?」
「ええ、あなたが害す人間なら仕留めるのに、こんなに簡単なことはありませんしね。ふふふ」
「私より強いのか?」
「ええ、間違いなく。私より強い者に会ってみたいと申しませんでしたか?」
「じょ、じょ、じょ」
「じょ?」
「冗談かと思ったんだ。あの賭けをしていたら?」
「離縁、出来ましたのにね?」

 にんまりという顔をして、わざとらしく微笑んでいる。マージナルがやると言った時点で、勝敗も離縁も決まっていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...